短編集

有沢真尋

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「公爵令嬢のプライドと友情」

【2】

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 フランチェスカと王太子が正式に婚約したのは、王太子五歳、フランチェスカ三歳のとき。いちおう儀式の傍らで会食が開かれて顔を合わせたらしいが、その後十二年も会う機会がなかったこともあり、フランチェスカの記憶にその面影はまったく残っていないという。

 十五歳を迎えるまで、いわゆる社交界デビューはお預けで、夜会など大人の催しに招かれることはなかったにせよ、立場上フランチェスカは国内外の王侯貴族と顔を合わせる機会は何度もあった。しかし、王太子そのひととの遭遇は綺麗に回避され続けてきた。

 王宮側の言い分によれば「王太子カールは初陣このかた、魔物討伐で出払っていて、あまり王宮にいない。戦力として申し分ないので行かせている」とのことであるが、王太子をそこまでの危険にさらすかは、甚だ疑問の面もある。
 この件について、フランチェスカは親交をあたためている「親友」男爵令嬢ララに、それ自体はさほど問題ではないと思う、と自身の見解を述べた。

「ただでさえ、強気美人設定でも幼馴染は負けヒロイン確定なのよ。それが、わたくしときたらこの印象の薄い容姿。子どもの頃から顔見知りでの関係にしておくと、気心も知れているし、よもや恋愛に過剰な期待もないだろうと相手に勝手に決めつけられ、不貞をはじめとした遊びを黙認させられる未来しか見えないわ。カール殿下のひととなりはわからないけれど。会ったことないんですもの」

 王都にある公爵邸の温室コンサバトリーにて。
 ふむふむと頷きながら耳を傾けていたララは「わかる気がします」と控えめに同意を示した。 フランチェスカは、濃厚なガナッシュショコラをひとつ上品な指使いでつまみあげて口に放り込んでから、さらに勢い込んで続けた。

「地味だと、どうしてもそういう先入観をもたれがちなのよね。どうせ男の言いなり、飽きられるのも早い、と。それで何か言い返せば『ヒロイン気取りか?』みたいな目で見られる。かといって、宝石やドレスで派手さを演出すると失笑よ、失笑。どちらに転んでもやりづらいわ」

「公爵令嬢かつ未来の王太子妃とあれば、どうしても注目の的だから、そうなるんでしょうか」

「ところがところが、注目しようにも埋没しがちなこの容姿。周りのがっかり具合はよくわかってるわ。『あ~、なんか、普通』みたいなの」

「私は、フランチェスカのそういう親しみやすいひととなりはとても素晴らしいと思います。わからないひとには、言わせておけばいいんですよ」

「ありがとう。わたくしも、ララのその言うことは言う性格が大好きよ」

 そこまで言い合って、二人ともお茶でのどを潤す。
 壁の大部分がガラス張りで、数々の観葉植物が置かれ、薔薇の咲き乱れる温室内の景色をうっとりと見つめてから、ララは小さく呟いた。

「それにしても、殿下とお会いできない件は気になりますね。たしか十五歳のお誕生日にもお見えにならなかったんですよね」
「来たのは王宮からの使者よ。婚約者をマリアベルにしたい、って」
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