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アイテムのデザインをしましょう!
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「この魔法、私の元いた世界では『アリアドネの糸』と呼ばれています。ダンジョン脱出に関わる伝承を元にしているそうなんですが……」
事務室に帰り着いてから、アリーナとラインハルトは休憩もそこそこに打ち合わせを始めた。
アリーナが簡単に説明し、ラインハルトが質問や意見を差し挟む。
「魔法を使うことで、君の体に悪影響は無いのか。著しく消耗したり、寿命を削ったり」
「そこは大丈夫です! 使い続ければ疲労がありますし、限界を超えれば昏倒することもありますが、休息を取れば回復します。肉体を酷使するわけではありませんが、体力に近い位置づけですね」
「なるほど。そのへんはこの世界の人間と同じだな。であれば、一日に作るアイテム量は無理をしない程度として……。魔法を封じ込める形代が必要になるが、名前にちなんで『糸』で良いかな。裁縫で使う糸巻きを大量に仕入れるか」
応接セットで向かい合って話し込んでいたアリーナは、「仕入れ?」と首を傾げた。
「糸巻きをアイテムとしてドロップするのは……」
「一つ二つならともかく、大量にということであれば、いまの俺の神通力では足りない。街で買い付けてきた方が良い。作成したら、入り口付近に仕掛ける。迷宮奥深くまで探索しなくても、比較的簡単に入手できると噂を流すようにしよう。使用者が増えれば噂が噂を呼び、次々に冒険者が来るはずだ」
そこでアリーナは深く頷いて、相槌を打った。
「入り口付近でというのは、初級の冒険者でも入手できるようにということですか? 奥深くだと、上級の冒険者が独占入手し、外の世界で高額転売するおそれもありますよね。なんでもない糸巻きに魔法を付与するというのも、元手の問題もあるでしょうが、それそのものにはアイテムとしての価値がないように調整するためでしょうか」
「そうだ。レアアイテムであるのは間違いないが、高価な形代はいらないし、入手のための難易度を上げる必要もない。たとえばこれが『煉獄の業火の出る魔法剣』とか『フロア中のモンスターに高ダメージの魔道具』なら、冒険者の迷宮攻略の助けにはなるが、バランスを崩してしまうので他の迷宮企画会社から多大なうらみを買う。もちろんこの迷宮も踏破されかねない。しかし『脱出アイテム』であれば、冒険者の生存率を上げることはあっても、迷宮攻略に直接大きな影響は出ない。まさに理想的なアイテムだ」
前日出会ったときからは考えられないほど饒舌に、熱っぽく語るラインハルト。並々ならぬ期待と思い入れがそこに感じられる。
真剣に向き合って耳を傾け、アリーナは「わかりました」と答えた。
「同業他社への営業妨害は世界のバランスさえも崩しかねない、ということですね。でも、冒険者の生存率を上げて何度も迷宮に挑戦する機会を与えるというのであれば、一時的に我が社の迷宮が市場を席巻したとしても、すぐに他の特色ある迷宮へ冒険者は帰っていくでしょう。相乗効果で他の会社も集客できる、つまり神として利益を上げていけるわけですね……!」
「神の仕事は、無茶な攻略を押し付けて人間の命を奪うことじゃない。迷宮に人間を集めて神通力を一定量確保することだ。このアイテムの特色なら、どこにも文句を言わせないで会社を大きくできる」
打てば響くアリーナの返答に感極まったように、ラインハルトは瞳を輝かせて何度も頷く。
(この方が今まで経営に興味を示さず、やる気を失っていたのには、何か理由がありそう。決して意欲がないわけじゃない。これだけしっかり迷宮の企画・運営に考えをお持ちなのだから……)
話はそこでまとまり、「食事にしよう」とラインハルトが明るい声で言う。
「あの、社長が本当は食事を必要としないのなら、簡単なもので構いません……!」
(これ以上、神通力を使って頂くわけには!!)
焦るアリーナに対し、ラインハルトは荒削りながらも端正な顔に気さくな笑みを浮かべて口を開いた。
「俺が君と一緒に食事をしたいんだ。何か食べたいものは? と聞きたいところだけど、君は遠慮しそうだね」
「神通力の無駄遣いをしてほしくなくて……」
神として消滅の危機にあるというラインハルトには、自分を大切にしてほしい。その切羽詰まった思いが顔に出てしまったのか、ラインハルトはくすっとふきだした。
「異世界人とはいえ、人間の君が俺の側にいてくれることで、神通力は少しずつ回復しているんだ。食事をドロップするくらい、なんでもないよ。君はケーキは好きか?」
「見たことはありますが、食べたことはないのでわかりません……。生活に余裕がなくて」
話しながら小声になったアリーナの前で、ラインハルトは笑顔のまま「じゃあ、一緒に食べよう。俺は甘いものに目がない。何が良いかな。ケーキにも色々ある」と楽しげに言った。
事務室に帰り着いてから、アリーナとラインハルトは休憩もそこそこに打ち合わせを始めた。
アリーナが簡単に説明し、ラインハルトが質問や意見を差し挟む。
「魔法を使うことで、君の体に悪影響は無いのか。著しく消耗したり、寿命を削ったり」
「そこは大丈夫です! 使い続ければ疲労がありますし、限界を超えれば昏倒することもありますが、休息を取れば回復します。肉体を酷使するわけではありませんが、体力に近い位置づけですね」
「なるほど。そのへんはこの世界の人間と同じだな。であれば、一日に作るアイテム量は無理をしない程度として……。魔法を封じ込める形代が必要になるが、名前にちなんで『糸』で良いかな。裁縫で使う糸巻きを大量に仕入れるか」
応接セットで向かい合って話し込んでいたアリーナは、「仕入れ?」と首を傾げた。
「糸巻きをアイテムとしてドロップするのは……」
「一つ二つならともかく、大量にということであれば、いまの俺の神通力では足りない。街で買い付けてきた方が良い。作成したら、入り口付近に仕掛ける。迷宮奥深くまで探索しなくても、比較的簡単に入手できると噂を流すようにしよう。使用者が増えれば噂が噂を呼び、次々に冒険者が来るはずだ」
そこでアリーナは深く頷いて、相槌を打った。
「入り口付近でというのは、初級の冒険者でも入手できるようにということですか? 奥深くだと、上級の冒険者が独占入手し、外の世界で高額転売するおそれもありますよね。なんでもない糸巻きに魔法を付与するというのも、元手の問題もあるでしょうが、それそのものにはアイテムとしての価値がないように調整するためでしょうか」
「そうだ。レアアイテムであるのは間違いないが、高価な形代はいらないし、入手のための難易度を上げる必要もない。たとえばこれが『煉獄の業火の出る魔法剣』とか『フロア中のモンスターに高ダメージの魔道具』なら、冒険者の迷宮攻略の助けにはなるが、バランスを崩してしまうので他の迷宮企画会社から多大なうらみを買う。もちろんこの迷宮も踏破されかねない。しかし『脱出アイテム』であれば、冒険者の生存率を上げることはあっても、迷宮攻略に直接大きな影響は出ない。まさに理想的なアイテムだ」
前日出会ったときからは考えられないほど饒舌に、熱っぽく語るラインハルト。並々ならぬ期待と思い入れがそこに感じられる。
真剣に向き合って耳を傾け、アリーナは「わかりました」と答えた。
「同業他社への営業妨害は世界のバランスさえも崩しかねない、ということですね。でも、冒険者の生存率を上げて何度も迷宮に挑戦する機会を与えるというのであれば、一時的に我が社の迷宮が市場を席巻したとしても、すぐに他の特色ある迷宮へ冒険者は帰っていくでしょう。相乗効果で他の会社も集客できる、つまり神として利益を上げていけるわけですね……!」
「神の仕事は、無茶な攻略を押し付けて人間の命を奪うことじゃない。迷宮に人間を集めて神通力を一定量確保することだ。このアイテムの特色なら、どこにも文句を言わせないで会社を大きくできる」
打てば響くアリーナの返答に感極まったように、ラインハルトは瞳を輝かせて何度も頷く。
(この方が今まで経営に興味を示さず、やる気を失っていたのには、何か理由がありそう。決して意欲がないわけじゃない。これだけしっかり迷宮の企画・運営に考えをお持ちなのだから……)
話はそこでまとまり、「食事にしよう」とラインハルトが明るい声で言う。
「あの、社長が本当は食事を必要としないのなら、簡単なもので構いません……!」
(これ以上、神通力を使って頂くわけには!!)
焦るアリーナに対し、ラインハルトは荒削りながらも端正な顔に気さくな笑みを浮かべて口を開いた。
「俺が君と一緒に食事をしたいんだ。何か食べたいものは? と聞きたいところだけど、君は遠慮しそうだね」
「神通力の無駄遣いをしてほしくなくて……」
神として消滅の危機にあるというラインハルトには、自分を大切にしてほしい。その切羽詰まった思いが顔に出てしまったのか、ラインハルトはくすっとふきだした。
「異世界人とはいえ、人間の君が俺の側にいてくれることで、神通力は少しずつ回復しているんだ。食事をドロップするくらい、なんでもないよ。君はケーキは好きか?」
「見たことはありますが、食べたことはないのでわかりません……。生活に余裕がなくて」
話しながら小声になったアリーナの前で、ラインハルトは笑顔のまま「じゃあ、一緒に食べよう。俺は甘いものに目がない。何が良いかな。ケーキにも色々ある」と楽しげに言った。
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