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終章 輝きを増す銀獣
ご機嫌な銀獣
しおりを挟む九時過ぎに帰宅する日々だったが、圭を含めた風紀委員のメンバーが生徒会の仕事を手伝ってくれたことで今日は二時間も早く帰宅できた。
「早いですね」
早く帰れそうとは連絡していたけど、時間まで伝えていなかったからかお風呂場から顔を出す太一。下は履いているようだけど、上裸で首にタオルをかけただけの無防備な格好だ。
こちらに向かって来ようとするのを静止してから靴を脱ぐ。
「風邪引くぞ」
鞄を床に置き、首にかかっていたタオルで濡れた髪を拭く。
首筋や鎖骨、胸元にいたたる水滴は色気があって今すぐに押し倒したくなった。高校生の性欲を舐めないでほしい、と心の中で意見する。
本人に言わないのはまた見たいと思う自分がいるからで、次は実行しようと決めているからだ。
「ありがとうございます」
気持ちよさそうに目を細めてされるがまま。執事と主の関係ではできなかったことだ。
恋人という関係性に心が満たされながらも手を動かす。
「着替えてくる。太一も上着てドライヤー持ってきな」
「……乾かして、くれるのですか?」
期待と戸惑いが入り混じったような声色。
「恋人なんだからそれぐらいしてもいだろ?」
「っ、は……い」
タオルを握りしめ、嬉しそうに微笑んでから中に戻る。
一線は超えているのに、こんなにも小さなことで喜ぶ太一。今までのことを考えれば無理もない。
こんなにも可愛らしいというのに、俺は見て見ぬふりをしてそばにいてもらっていたと思うとやるせない。
もっと早く自分の感情に気づいていれば、さっきみたいな甘い表情を性行為中以外でも見れていたのだろう。
今更後悔しても仕方がない。そうわかっていてもつい考えてしまう。同時に、気付かず終わらなくてよかったと喜ぶ感情も生まれるから、最終的に付き合えてよかったという結論に落ち着く。
「太一、貸して」
「はい!」
着替えてソファでソワソワしている太一に声をかけ、ドライヤーを受け取る。俺が疲れているときにしてくれるよう、丁寧に髪を乾かしていく。
「ハル?」
「ん?」
「ご機嫌ですね」
ドライヤーの音に負けない声量で聞いてくる。顎を上げて見上げてくるが、「前向いてろ」と手で戻す。
短髪だから乾かすのにそう時間はかからない。終わってから話そうと決めて無言でいると、察したのか何も聞いてこなかった。
「皆様に菓子折りでも持っていきましょう」
「すごい量になるぞ?」
「必要経費です」
「……親父に話しとけよ」
三人の話をすると俺以上に喜ぶ太一。そして見計らったかのように鳴るスマホ。
「……嫌な予感がするな」
ディスプレイを見ると“さくら”の文字。マシンガントークが始まる未来は見えているし、今日のことを話すのも面倒である。
「出ないんですか?」
「出る。出るけど面倒」
「永遠とかけてきてますし、そろそろ出たほうがいいのでは?」
昔からの仲であるさくら。諦めの悪い女だというのはよく知っている。それでもやはり面倒なのだ。
床に座っている太一の首に腕を回し、ソファに座ったまま倒れこむように覆いかぶさる。「重いですよ」と腕を叩いてくるが、全体重はかけていないので体が傾く程度で済んでいた。
乾かしたばかりの髪は柔らかく、俺と同じシャンプーの香りがする。鼻先を頭にこすりつけると、見かねた太一がさくらの電話に出た。
『もしもし!?いつもより出るの遅いじゃん!お楽しみ中!?』
「こんばんは。今日も元気だね」
『あれ、太一?春都は?』
「後ろにいるよ」
『スピーカーにして!三人で話そ!』
苦笑いを浮かべ、俺の頭をポンポンと叩いてくる。ため息混じりに頷けば、ふふっと小さく笑ってからスピーカーボタンを押した。
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