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第五章 仮面のない生活
孤独
しおりを挟む懐かしい夢を見た。あれは過去の記憶。大切な三人の思い出。心温まったせいか、瞼を上げれば目の前に太一がいるのではないか。そんな淡い期待を抱く。
だが、視界には見慣れた天井が映っているだけ。周りに人の気配はない。この部屋にいるのは俺一人という現実を突きつけられた。
「……気持ち悪い」
胃から何かが迫り上がって来そうな感覚はある。
しかし、実際に口から出そうかと問われると直ぐには答えられない。確実に言えるのは、かなりもどかしい状態であるという事だ。
規則正しい機械音を耳にしながら、孤独から逃れるように目を閉じる。
風紀室にいた自分がなぜ自室にいるのだろうか。考えを巡らせるまでもなく、風紀委員のメンバーか政宗だろう。
枕元には使い慣れた自身のスマホが置かれていた。目が覚めた時、起き上がらずに連絡ができるようにという配慮が感じられる。
スマホを手に取り、親指で画面に軽く触れる。表示された時刻は19時07分。風紀室に行ったのが17時頃なので、約3時間眠っていたという事か。
それだけの時間があれば、あの膨大な書類の3割は処理できただろう。溜息をつきながら視線を下げると、〝新着メッセージ62件〟という文字が目に入った。
「……は?」
来る者拒まず、去る者追わず。そのせいかアプリの友達人数は多いが、夜の誘い以外の連絡が来ることは稀だ。
つまり、気軽に連絡を取り合う者など以内に等しいという事。幼馴染で腐女子代表のさくらと両親、あとは……太一ぐらいか。
最近は潤達とのやり取りも増えてきたが、あくまでアプリは連絡の手段。女子達ほど使用頻度は高くない。
誰からの連絡か気になった俺は、使い古した暗証番号を入力してロックを解除する。
〝起き上がれるなら俺の為に尻でも解しとけ。無理なら大人しく寝てろ〟
トーク画面には相手の名前も表示されるが、この内容なら名前を見なくてもわかる。俺の事が大好きで掘りたくて仕方がない誠だ。
「今起きた。お前の尻、解しに行くわ……っと」
掘られるのは御免だが、鍛え上げられた誠を組み敷いて掘ってみたいという気持ちはある。
バリタチって聞くとどうしても鳴かせてみたくなるというか、他の誰も知らない部分を見てみたいというか……。
この話をすると太一は呆れた表情をするんだが、好意を自覚した今ではそれさえも愛おしい。
“もう二度と、恋愛感情を抱くまい”
そう決意してこの学園に来たのが、遠い遠い昔のように思える。こうして太一を好きになるなんて、あの時の俺は想像もしていなかっただろう。
太一から向けられた熱い視線に気付かない振りをして、温もりだけを求めて。
「会いてーな……」
トーク画面を上から順に見ながら小さく呟く。
気を紛らわす為に大丈夫ですか、と慌てた様子で太一が入って来る所を想像してみる。
しかし、会いたいという気持ちが増しただけで何も解決しなかった。それどころか、広い部屋にたった一人という孤独感が追い討ちをかける。
体調も悪く、仕事に没頭できる状態ではない今、起きていることが苦痛でしかない。
寝よう。もう、寝てしまおう。意識を手放してしまえば、考えなくていいのだから。太一のことも、仕事のことも、全部。
「……おや、…す…」
眠ると決めて数秒足らず。俺は再び深い眠りへとついた。幸せな夢を見られると、そう信じて。
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