82 / 103
第五章 仮面のない生活
孤独
しおりを挟む懐かしい夢を見た。あれは過去の記憶。大切な三人の思い出。心温まったせいか、瞼を上げれば目の前に太一がいるのではないか。そんな淡い期待を抱く。
だが、視界には見慣れた天井が映っているだけ。周りに人の気配はない。この部屋にいるのは俺一人という現実を突きつけられた。
「……気持ち悪い」
胃から何かが迫り上がって来そうな感覚はある。
しかし、実際に口から出そうかと問われると直ぐには答えられない。確実に言えるのは、かなりもどかしい状態であるという事だ。
規則正しい機械音を耳にしながら、孤独から逃れるように目を閉じる。
風紀室にいた自分がなぜ自室にいるのだろうか。考えを巡らせるまでもなく、風紀委員のメンバーか政宗だろう。
枕元には使い慣れた自身のスマホが置かれていた。目が覚めた時、起き上がらずに連絡ができるようにという配慮が感じられる。
スマホを手に取り、親指で画面に軽く触れる。表示された時刻は19時07分。風紀室に行ったのが17時頃なので、約3時間眠っていたという事か。
それだけの時間があれば、あの膨大な書類の3割は処理できただろう。溜息をつきながら視線を下げると、〝新着メッセージ62件〟という文字が目に入った。
「……は?」
来る者拒まず、去る者追わず。そのせいかアプリの友達人数は多いが、夜の誘い以外の連絡が来ることは稀だ。
つまり、気軽に連絡を取り合う者など以内に等しいという事。幼馴染で腐女子代表のさくらと両親、あとは……太一ぐらいか。
最近は潤達とのやり取りも増えてきたが、あくまでアプリは連絡の手段。女子達ほど使用頻度は高くない。
誰からの連絡か気になった俺は、使い古した暗証番号を入力してロックを解除する。
〝起き上がれるなら俺の為に尻でも解しとけ。無理なら大人しく寝てろ〟
トーク画面には相手の名前も表示されるが、この内容なら名前を見なくてもわかる。俺の事が大好きで掘りたくて仕方がない誠だ。
「今起きた。お前の尻、解しに行くわ……っと」
掘られるのは御免だが、鍛え上げられた誠を組み敷いて掘ってみたいという気持ちはある。
バリタチって聞くとどうしても鳴かせてみたくなるというか、他の誰も知らない部分を見てみたいというか……。
この話をすると太一は呆れた表情をするんだが、好意を自覚した今ではそれさえも愛おしい。
“もう二度と、恋愛感情を抱くまい”
そう決意してこの学園に来たのが、遠い遠い昔のように思える。こうして太一を好きになるなんて、あの時の俺は想像もしていなかっただろう。
太一から向けられた熱い視線に気付かない振りをして、温もりだけを求めて。
「会いてーな……」
トーク画面を上から順に見ながら小さく呟く。
気を紛らわす為に大丈夫ですか、と慌てた様子で太一が入って来る所を想像してみる。
しかし、会いたいという気持ちが増しただけで何も解決しなかった。それどころか、広い部屋にたった一人という孤独感が追い討ちをかける。
体調も悪く、仕事に没頭できる状態ではない今、起きていることが苦痛でしかない。
寝よう。もう、寝てしまおう。意識を手放してしまえば、考えなくていいのだから。太一のことも、仕事のことも、全部。
「……おや、…す…」
眠ると決めて数秒足らず。俺は再び深い眠りへとついた。幸せな夢を見られると、そう信じて。
20
お気に入りに追加
1,405
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる