銀獣-王道BLを傍観するつもりが巻き込まれました-【本編完結。SS公開予定】

レイエンダ

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第五章 仮面のない生活

限界

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 風紀室でも仕事をするようになって二週間。
 期末テストも無事に終わり、あと数日で夏休みという幸せな時期だ。
 一般生徒にとっては、だけどな。


「お前、顔がすげーことになってんぞ」


 背もたれに寄りかかりながら天を仰ぐ俺を見て、誠がパソコンから視線を外して言った。


くまだろ。知ってるよ」


 目を瞑りながら投げやりに返す。
 風紀の連中や政宗が手伝ってくれるようになり、四人分の仕事をしていた俺の負担は大分減った。
 少ないわけではないが、半分ほどにはなっているだろう。


「隈っていうか……顔が白い」


 それなのに体調が優れず眠れないのは、全て精神的なものだろう。
 寝るために布団に入ったのに、気付けば太一の温もりを探している。
 ふとした瞬間に名前を呼んでいる。
 その度、側にいるのが当たり前になっていたのだと思い知る。
 無理矢理犯されて以来、顔どころか体の一部すら見かけていない。
 食事は俺が起きる前や学校に行っている間に作っているようで、出来立ての温かさは無いが、こんな状況でも自分の仕事をこなしている。
 そんな所に太一らしさを感じてしまって更に会いたくなるのだ。
 我慢強かった筈なのに、気持ちを自覚してからというもの、つついたら直ぐに割れてしまいそうなほどメンタルはボロボロ。
 表情筋は動かなくなる一方だ。


「気分悪いか?大丈夫か?」


 目尻を下げ、心配そうに覗きこんでくる誠。


「……気持ち悪い」


 正直に言えば、誠は勢いよく顔を上げて声を発した。


「雪。水持ってこい」
「了解」


 仕事をしながらも会話を聞いていたのか、直ぐに反応した雪は冷蔵庫へと向かった。


「俺っちは?俺っちは何すればいい?」
「仕事しとけ」


 自ら指示を仰いだ陽だったが、遠回しに何もしなくていいと言われていた。
 あるはずもない獣の耳が垂れ下がるような幻覚が視界の端に映った気がした。


「誠。ベッド借りるわ」


 “気持ちが悪い”と言葉にしてしまったからか、余計に気分が悪くなってしまった。
 いつもと変わらぬやり取りを気に留めることなく、俺はパソコンの電源を切って立ち上がる。
 ベッドへ向かおうとした刹那、血の気が引いていく感覚と視界がグルグルと右に回転した。
 全身から力が抜けていく。
 体が傾き始めたのを感じて咄嗟に手を伸ばすが、机の端すら掴む事はおろか、かすめる事すらできなかった。


「「春ちゃん!?」」
「「春くん!?」」
「「春都!?」」 


 それぞれが俺の名前を呼ぶ。
 ブチっと映像が切れるように一瞬で意識を失った。
 そのまま床に倒れ込んだのか、誰かの手によって抱き留められたのか。
 気絶した俺が知る由もなかった。
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