銀獣-王道BLを傍観するつもりが巻き込まれました-【本編完結。SS公開予定】

レイエンダ

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第五章 仮面のない生活

お邪魔します

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「春くん、大荷物でどうしたのー?家出?」


 ドアの開閉音に反応し、椅子を回転させることで体の向きを変えた三人。
 体に悪そうな色の飴を口に咥えているいる蘭が、首を傾げながら聞いてくる。


「そう。家出」


 説明するのが億劫で適当に返事をすると、見兼ねた誠が「ちげーだろ」と会話に入ってきた。
 席を立ち、ツカツカと足音を立てながら側にやってきたかと思えば、手にしていた書類の束を乱暴に奪う。
 風紀室の角に空いた席が二つ。
 その内の一つに書類を置いた。


「生徒会室から逃げてきたんだろーが。家出っつーか室出?」
「んな言葉ねーよ」


 後を追ってその席に座り、小さく「ありがとう」とお礼を言ってからパソコンの電源を入れる。
 ディスプレイの縁には、この席の主人が己の存在を主張するかのように名前入りのシールが貼られていて、俺がここを使っても良いのだろうか?という疑問を抱いた。


「心配ねーよ。早いもん勝ちだ」
「いや、だってあいつら帰ってきてんだろ?」
「昨日の夜な。今日から学校来てるぜー」
「じゃあダメだろ。ノートパソコンあるからそっちでやる」


 腰を浮かせ、電源を切ろうとパソコンに手を伸ばした直後、


「やっほーやっほー!ひっさしぶりー!」
「耳元でうるせぇ。死ね」


陽気な声とドスの効いた声が風紀室内に響き渡った。

 時瀬 陽ときせ よう時瀬 雪ときせ ゆき
 二人は双子ではなく従兄弟で、四月から昨日までの二ヶ月半、親が経営する会社の手伝いでアメリカへ行っていたのだ。


「なになにー!?何で春ちゃんいるのー!?しかも俺の席座ってるー!チューして良いってこと?え、つまりはそういうことだよね?」

「んなわけあるか」


 入り口から瞬間移動したのではないかという速さで俺の横にやってきた陽。
 書類の上に手を乗せて鼻先を頰に擦り付けてくる。
 そして鼻先が頬骨の辺りに来たところで、チュッと触れるだけのキスをした。


「許可してねーっての」


 パソコンに向かって伸ばしていた手を軌道修正し、陽の顔面を掴んで退かす。
 そんなことでめげるはずもなく、手のひらを舌先で舐めてから


「まこまこから連絡来てたけどー、素の春ちゃん冷たーい!口悪ーい!でもそんな春ちゃんも好きーっ!というかあ、い、し、て、るー!」


と愛の言葉を囁く。

 背筋が凍ると同時に鳥肌が立った。
 それはもう一瞬で。


「キモいんだよてめぇ。春ちゃんから離れろ」


 陽の背後に回り込み、脇の下に腕を通して羽交い締めにし、ベッドへと引きずる雪。
 そのまま容赦なく放り投げた。
 宙を舞う陽。


「ひゃっほーう!」


 驚いた様子もなく、表情は明るい。
 そして投げ飛ばされている事すら楽しんでいるようだった。


「一気に騒がしくなったなー。ここも」

「そうだね。本当に煩い。ニヤニヤしてても良いから黙っていてほしい。それか息でも止めててくれないかな?」

「つまり死ねって事だな。いっそ殺すか」
「みんな怖ーい!よっちゃんなんて放っておいて仕事しよー?」


 何を言われてもベッドに寝転がったまま「みんな俺っちのこと好きだねー!」なんて言いながら笑っている。
 頭のネジがぶっ飛んでいるとしか思えない。

 パソコンの主である彼がこの後使うだろうと、電源をつけたまま別の席へと移動する。
 パソコンは風紀委員の人数分しかないが、書類などを置いたりする為、テーブル自体は余分に設置されているのだ。


「春ちゃんが座ってたからあったけー!」
「発言の全てがキモい。抹殺すんぞ」
「えー。春ちゃんのこと好きなだけだもーん」
「そういうのがキモいって言ってんだよ」


 それぞれ自分の席についた二人は、言い合いをしながらも書類を片手に指でキーボードを叩く。
 他の三人も自分達の仕事に取り掛かっており、軽口を叩きながらも着々と進めている。


「まこちー。ここの数字違うよー」
「まじか。悪りぃ」
「陽、誤字脱字多すぎ。やり直し」
「えー!そのまま直してくれてもいいじゃーん!」
「陽くんうるさいよ。黙ってやって」
「へーい」


 互いにフォローし合いながら仕事をする五人。
 これが本来あるべき姿だというのに、生徒会ではここ二ヶ月半……もうすぐ三ヶ月か。
 このようなやり取りはしていない。

 ノートパソコンを起動し、持ってきた仕事を片付けながら三ヶ月前の生徒会を思い出していた。
 ある程度予想していたとはいえ、ここまで酷い状況になるとは。
 全裸の四人を思い出してはそんな風に思った。


「生徒会にまだ書類あんだろ?陽と雪が後で取ってきてくれるってよ」
「お任せあれー!」
「誠に言われるのはムカつくけど、春ちゃんの為なら行く。任せろ」


 誠達が仕事の手を止めてこちらを向き、柔らかい表情で言う。
 三馬鹿トリオが仕事をしていない事は周知の事実。
 書類がこれだけなはずないと思ったのだろう。


「ありがとう」


 俺はそう口にし、五人に微笑みかけたのだった。
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