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第五章 仮面のない生活
類くんは忍者?
しおりを挟む午前中の授業が終わり、三人は学食でテイクアウト用のメニューを頼み、俺はいつも通り弁当を持って空き教室へと向かった。
本校舎の五階。
その一番端に一つだけ使われていない教室がある。
実験室や音楽室など、教室では行えないような時に使用する部屋には、寮と同じようにセキュリティーがあり、学生カードを読み込ませてからでないと入室することはできない。
空き教室は生徒が使用することはない為、学生カードには登録されておらず、本来入ることはできない。
しかし、生徒会や教員、風紀委員など、校内を見回りなどを行う可能性がある者は登録されている。
教員に関しては全員というわけではなく、理事長と見回り担当の教員数名のみらしい。
隼人が「お前のカードなら余裕だろ?」と言っていたのは、つまりそういうことだ。
「大丈夫か?」
手すりに掴まりながら一段ずつ時間をかけて登っている俺。
腰に手を添えて、「ゆっくりでいいから」と声をかけながらペースを合わせてくれている潤。
俺と潤の荷物は、隼人達が持ってくれている。
「悪いな。合わせてもらって」
「悪いなじゃなくてー?」
「はは。ありがとうだな」
「そうそう。それでいいんだよ」
口角を上げ、白い歯を見せながら笑う潤。
俺もつられて笑った。
各校舎にエレベーターは設置されている。
しかし、特別教室同様に利用できる者が限られている。
俺一人であれば問題ないのだが、あえて乗らなかった。
自分への戒めという意味もあるが、心配してくれる三人と一緒にいたいという気持ちの方が強かったからだ。
「春都ちゃーん。あともうちょっとでちゅよー」
「頑張れ頑張れはーるーとっ!」
先に登り終えた二人が、頑張る子供を応援する親の真似をして手を叩いていた。
「うぜぇ。黙れ」
「「怖っ。ヤンキー怖っ!」」
「誰がヤンキーじゃこら」
数段下から睨めば大袈裟に反応し、「逃げろー!」と言いながら奥へと駆けていく。
「バカだな。あいつら」
「だな。……っし。やっと着いた」
「えらいえらい。あとちょっと頑張ろうな」
腰に添えていない方の手で俺の頭を軽く撫でてから、目的地を指差して言う。
今日は全体的に子供扱いされているような気がする。
たまにはこういうのもいいなと内心思いながらも、適当に「はいはい」とあしらって足を動かす。
無事に空き教室に辿り着きいた俺達……というより俺。
定期的に掃除をしているからか、埃はかぶっていない。
しかし机や椅子がない為、殺風景な印象を受けた。
「じゃじゃーん!ケツ痛いかなーと思って、クッション持ってきちゃいましたー!俺っていい奴ー!てことでどうぞー」
地べたに座ろうと屈んだ所で、気になっていはいたが、特に触れていなかった大きな袋から四角形のクッションを取り出し、こちらに向かって放り投げてきた。
手裏剣のように投げられたクッション。
屈もうとついていた手に当たって跳ね返り、尻の下にきた所で止まった。
ゆっくりと腰を下ろすと、驚くことにベストポディションだった。
まさに神業。
「お前、忍者か何かなの?」
「俺もそんな気がしてきた。才能あるかもしれない!」
「類。俺の飯頂戴」
「少しは乗っかれよ!さすがKYだな!」
「古いな」
「うるさいよっ!」
預けていた荷物を受け取り、俺達は揃って昼食を開始した。
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