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第五章 仮面のない生活
good-by仮面
しおりを挟む振替休日の月曜が終わり、今日は三日ぶりの授業。
学校に着くと三人は既に登校していて、俺の席周辺に集まっていた。
「あ!春都ー!おー」
「はー」
「よー」
「うー」
類、隼人、潤、俺の順番で一文字ずつ口にする。
これは朝の恒例で、独特の挨拶と言っていい。
担当の“う”を言い終えた俺は、自分の席である窓側の一番後ろに向かって歩く。
扉から席までたった数メートル。
その数メートルが遠いのだ。
もちろん止まっているわけではない。
確実に進んではいる。
進んではいるんだ。
一歩が小さいだけで。
「なんか歩き方ぎこちなくね?」
ペンギンのように小さく足を動かす俺を見て、隼人が見たままの感想を述べる。
あぁ、そうだな。
ぎこちないさ。
当たり前だろ。
「ケツと腰が痛いんだよ」
この状況で颯爽と歩ける奴を連れて来い。
今すぐに。
ココへ。
痛みに耐えながらゆっくりと席に着くと、三人が物凄い勢いで顔を近づけてきた。
「ちょっと待て。それってつまりそういうことだよな?」
「えーっと春都さん。誠さんと同じくバリタチじゃないの?君」
「二人共。落ち着け。そして現実を受け止めろ。春都は誰かに掘られたらしい」
「「ストレートに言うなぁァァァァァ!」」
反応は三者三様。
意外にもすんなりと受け入れた潤が、隼人と類に胸ぐらを掴まれ、前後左右に揺らされている。
そして、雑に放り投げられていた。
「……っ、てて。つーか相手は誰?」
尻餅をついていた潤が、腰をさすりながら聞いてくる。
類と隼人は何かを考える素ぶりをしながらも、横目で興味深そうにこちらを見ていた。
「強面執事」
口を動かしながらもカバンから教材を取り出し、机の中へとしまう。
教室内に三人の叫び声が響いたのは言うまでもない。
「ちょい待って。待ってくれよ春都さん。強面執事さんさネコじゃねーの?明らかにネコだろーが」
「そうだな。あれはネコだよな。でもさ隼人。この世に絶対ってないよね」
「潤くんよー。かっこいいこと言ってるぞ俺って顔してるけど、当たり前のこと言ってるだけだかんな。お前」
盛り上がる二人をよそに、類は眉間に皺を寄せていた。
「ねぇ、それって合意?」
真剣な眼差しで俺を見ている。
ハテナマークを語尾に付けているのに、それは質問というより核心に迫っているようで。
「微妙……だな」
嘘はつけなかった。
きっと仮面を付けた俺ならば、“ははっ。当たり前じゃーん”などと口にしていただろう。
でも今はそんな気になれなかった。
したくなかった。
自分を隠すための仮面。
相手と距離を取るための仮面。
あいつと再会して気付いた。
そんなもの、あってもなくても同じなのだと。
結局俺という存在……本質は変わらないのだと。
それならば、もう必要ない。
後悔したくないんだ。
俺は。
「ごめん春都。俺、あの人が春都のこと好きだって気付いてた。春都も気付いてると思ってたから言わなかったけど」
「大丈夫。ちゃんと気付いてた。気付いてたのに、考えようとしなかったんだよ」
取り繕うことも、逃げることも、もうやめよう。
肩の荷がスッと降りた気がした。
「春都。昼休みに空き教室行くぞ。お前のカードなら余裕だろ?」
「あぁ」
「よーし。話はそこでじっぽり、すっぽり聞こうかなー」
「よくわかんねーんだけど。何それ。結局どう聞くわけ?」
「根掘り葉掘り聞くってことだよバカ潤!」
「それならそう言えよバカ類」
場を和ませようとしているのが丸わかりで、口元が緩む。
貼り付けな笑みではなく、素の笑みと言っていい。
太一やさくらに見せていたような、ありのままの俺。
「そっちの春都の方が好きだよ」
隼人と潤が自分の先へと戻って行く中、類が俺の耳に口を近付けて言った。
「ふふ。出すの遅いんだよバカ春都」
捨て台詞のようにそう言って、類も二人と同じように去っていく。
「バカ……か」
囁かれた耳を手で覆い、座っているだけでも僅かに痛む腰を反対の手で摩った。
仮面を取ることに怯えていた。
突き放されることを恐れていた。
「……案外、普通だな」
外してみたらどうってことなかった。
俺は、ようやく一歩を踏み出したのかもしれない。
中学の忌まわしい記憶から、大きな一歩を。
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