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第四章 転機
★茂みの中で
しおりを挟むグラウンドに背を向け、数分歩いた所で水飲み場へと辿り着いた。
先にはまだ道が続いており、その道を挟むようにして二つの建物が横並びになっている。
建物は平屋で一つの建物にいくつもの部屋があり、運動部の部室として使用されている為、部室棟と総称されている。
各部屋ごとに番号と部活名がパネルに書かれており、部屋の数が多いからか、右の棟の奥は現在使われていない。
日当たりの良い左の棟から順に割り当てた為である。
そんな部室棟の間を通り抜けると、直径2メートル程の円形の花壇が見えてきた。
俺から見て花壇の右と左にそれぞれベンチが置かれており、ベンチの背後にも茂みが。
様々な種類の花や木が植えられているが乱雑な印象はなく、洗練されていた。
理事長室前に飾られた花とは似て非なるもの。
風景や位置が変わるだけで、こうも人に与える印象が変わるものなのか。
感心しながらも歩みを進め、ベンチに横になる。
片側の肘置きに頭を乗せ、反対側には無造作に足を放り出す。
借り物競走が予想以上に難航しているのか、未だに終了の合図は鳴っていない。
ここまで離れていると歓声などは届かないのか、体育祭の真っ最中だというのに、この場所は穏やかな雰囲気に包まれていた。
「ふぁー……。ねむ」
木の陰にあるからか、程よい風も吹いており絶好の昼寝スポット。
閉会式まで一休みしようと目を閉じかけた時、茂みから声が聞こえた。
「……っ、……?」
「……、や………てば」
声を潜めているような、堪えているような。
気になって寝転がったまま茂みの方に顔を向けると、植えられた幾つかの木の一つに、黒い影が二つ。
「ちょ、蓮夜……ゃ、…っ!」
「声抑えんなって。誰もいねーよ」
今度ははっきりと聞こえた。
そして、見えた。
あそこにいるのは間違いなく、蓮夜とマリモ。
ジャージに身を包んだ二人は向かい合っており、壁ドンならぬ木ドン?をしている蓮夜はマリモの服の中に手を突っ込んでいた。
抵抗しているのか、マリモは両手を突き出してはいるが勝てるはずもなく、片手で押さえ込まれてしまう。
「あっ、…っ、んっ……んんんんっ……ぷはっ!…ん!」
蓮夜はもう片方の手で頭を撫でたかと思えば、鼻を摘んで唇を奪う。
マリモが限界を迎える直前で唇を離し、息を吸うために開けた瞬間を狙って自分の舌を口内へと捻じ込む。
鼻を摘んでいた手を離し、頰や首筋を撫でながらキスを続けている。
「んぁ……っ、…は…ぁ」
俺は声を上げることなく視線を空へと戻し、目を瞑った。
見てはいけないものというよりは、見たくないものを目にしてしまったと言うべきだろう。
他人のキスシーンや性行為を覗き見するような趣味はないし、そもそも興味がない。
「……っ、俺は…春都先っ、ぱぃが…好きって言って……んっ」
「春都よりも俺を見ろよ。気持ちよくしてやるから」
俺に好意を寄せているマリモが、蓮夜と茂みで何をしていようとどうでも良いのだ。
今から移動した所で気付かれるだろうし、ならば無駄な足掻きはせずに堂々とここにいればいい。
興味のない二人の性行為に興奮して勃起させるほど飢えていないし、特に問題はないだろう。
「出番近いからっ、もう行く」
「ちっ。今夜、部屋に来い。お前を抱く」
「……っ!行かねーよ!」
自然の香りを堪能しつつ、この会話を最後に俺は眠りについた。
「っ!春都先輩……?」
「寝てっから大丈夫だろ」
「蓮夜のバカ野郎!!!」
グラウンドに向かう為に茂みから出てきた二人が、スヤスヤと眠る俺に驚いていて言い合いになっていた事を、本人達以外誰も知らない。
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