53 / 103
第三章 狂い始め
俺はヒーローではない
しおりを挟む唐揚げうまいなーと呑気に食べている俺とは相反して、周りの者達は足を止め、手を止め、行く末を見守っている。
只ならぬ雰囲気に、料理人さえも動くことができずにいるようだった。
「唐揚げうますぎー」
「お前、空気読めよ」
正面に座っていた隼人に、呆れ顔で頭部を小突かれた。
そしてある一点をジッと見つめている。
俺の隣に座っている類も、隼人のとなりに座っている潤も、皆んな。
周囲を見渡すと緊張した表情をする者もいれば、憎悪を込めた鋭い視線を向けている者もいる。
後者の方が圧倒的に多い。
三人はどれにも当てはまらず、やれやれと呆れたような、面倒臭そうな表情。
食事をしたいが、この空気では食べられない。
ふざけんなよ。
そんな感情が滲み出ていた。
「むさっ苦しいマリモの癖に、いつまで蓮夜様達の周りをウロチョロするつもり?調子に乗らないでよね。」
男性にしては高く、声変わりをしていないのではないかと一瞬考えてしまいそうな声。
刺々しく、敵意むき出しの声色に、何が起こっているのかを察した。
そして俺が常々思っていた“マリモ”という単語を、面と向かって本人に口にしている勇者を一目見ようと、騒ぎの中心である方向へ目を向ける。
立っている人間は巻き込まれないように壁側へ。
既に座って食事をしていたものは、俺たち同様、大人しく座っている。
一番後ろの窓側。
生徒会と風紀委員が座るというのが暗黙の了解となっている。
しかし、その一角にマリモは腰掛けていて。
傍らには同じぐらい小柄で猫っ毛の可愛らしい男が立っていた。
マリモが転校してくるまでは、よく蓮夜が相手をしていた親衛隊の一人。
親衛隊隊長、副隊長に続いて三番目の地位だったと記憶している。
自分の所ならまだしも、他人の親衛隊メンバーなので名前まではわからないが、喋り方や態度からして嫉妬深そうな印象を受けたのは確かだ。
「黙ってないでこっち向けよマリモ野郎!」
ガンッ!と鈍い音がした。
それも一度ではなく、二度。
親衛隊の子がマリモの座る椅子と机を蹴ったのだ。
目障りなぐらい一緒にいた三人の姿を探したが、どこにも見当たらず。
なぜこんな人の多いところに一人でいるのか。
不思議で仕方がなかった。
「ていうか、ここは生徒会や風紀委員の皆様が座る席なの。なんでお前みたいなマリモ野郎が座ってるわけ?さっさと退けよブス」
「蓮夜達に窓側の席で座って待っているように言われました。許可は頂いてます」
俺の疑問は当人達のやり取りによって自然と解決し、興味は削がれた。
さくらが進めてきた携帯小説によれば、こういう状況では誰かが助けに入るのが王道。
それは基本的にマリモに惚れている生徒会のメンバーだったり、風紀委員だったり様々。
好意を全く抱いていない俺のような人間が出る幕ではない。
マリモを溺愛している三人の内の誰かが登場し、この最悪な雰囲気を取っ払ってくれないものか。
空気を読んで止めていた手を動かしながら、ぼけーっと二人を見つめる。
20
お気に入りに追加
1,401
あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい
椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。
その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。
婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!!
婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。
攻めズ
ノーマルなクール王子
ドMぶりっ子
ドS従者
×
Sムーブに悩むツッコミぼっち受け
作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話
みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。
数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる