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第三章 狂い始め
ため息もでますよ
しおりを挟む一般的なものに比べると、ここの浴槽は大きいと言えるだろう。
そのせいもあり、太一はこちらに背を向け、反対側に体育座りをしている。
明らかに緊張していた。
体の関係はあっても、風呂を一緒に入ったことはない。
それでも、互いにベッドで裸は見ているわけで。
何をそこまで緊張しているのだろうか。
「たーいち」
「は、はい」
「遠い」
「そ、そんなことありませんよ?」
緊張からかしどろもどろになり、語尾は声が裏返っていた。
棒でも入っているのではないかと思ってしまうほど、普段から姿勢が良くて。
隣にいるとこちらも背筋がのびていまういうのに、今はどうだ。
「丸まりすぎ」
これでもか!というぐらい、小さく丸まっている。
浴槽の縁に頬杖をつき、足の指で丸くなった背中を上から撫でてみた。
「……っ!」
項垂れていた顔が僅かに上がり、ピクリと体を震わせた。
気にせず犬の背を撫でるように、上から下に何度も撫でる。
手ではなく、もちろん足で。
文句を言われそうだが、距離が遠くて手が届かないのだから仕方がない。
「は、春都様」
「んー?」
「くすぐったいです」
「だろうな」
指先でトントンと触れてみたり、上から背骨をなぞるように撫でてみたり。
本来であれば聞こえないであろう息遣いが、反響して俺の鼓膜に届けられる。
湯船に入っていることで汗ばんできた額。
頰を伝って汗が流れ落ち、唇付近にやってきたそれを、舌で舐めとる。
側から見れば、触れるたびに肩を震わせる太一に興奮し、舌舐めずりをしているように見えるだろう。
興奮しているのは確かだが、汗を舐めとっただけだと、ここでしっかりと訂正させていただこう。
ーーー……ピチャッ。ピチャッ。
足に連動してお湯が流れ、壁や湯同士でぶつかっては、音を奏でている。
たったそれだけの事なのに、厭らしく思えてしまうのは、きっと裸の太一が目の前にいるから。
「うわっ!」
手を届く限り伸ばし、浴槽の縁を掴む。
自分の体を引き寄せ、反対の手を太一の肩に手回し、抱きしめる。
そして手足を使い、素早く自分が元いた場所へと戻った。
勢いがあったからか、俺の胸に倒れこむような形になってしまった太一は、驚きの声を漏らし、目を固く瞑った。
自分に倒れ込んだ太一の頭に顎を乗せ、手は腕の下から通して腹の前で組む。
そして逃げられないように両足を太一の足に絡めて固定した。
観念したのか、強張っていた体から力を抜き、もたれるように寄りかかってくる。
「春都様には敵いませんね」
「当たり前」
「はぁ。心臓がもたない」
後半の言葉は、大きなため息に紛れてしまい、何を言ったのかは聞き取れなかった。
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