銀獣-王道BLを傍観するつもりが巻き込まれました-【本編完結。SS公開予定】

レイエンダ

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第三章 狂い始め

甘えん坊

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 部屋の電気を消し、サイドテーブルに置いてあるスタンドライトの明かりだけが、俺達を照らしていた。
 ベッドに潜り込み、同じ方向を向いて横になる。

 パジャマから出ている首筋があまりにも魅力的で、指先で髪の毛を退かし、後ろから抱きつきながらうなじに舌を這わせる。


「っ!春、都様。今日はダメです」


 ビクッ!と反応したものの、こちらに顔を向けることはなく、手で項を隠すだけ。


「なんで?したい」


 拗ねたようにそう言えば、「可愛く言ってもダメです」と返された。
 MP関節と呼ばれる指の根元にある関節を、一つずつ舐めては口に含む。
 時には歯をたて、前歯でカリッと引っ掛けてみる。


「っ。寝るって約束しましたよね?」
「した」
「じゃあ寝てください。クマ、酷いんですから」


 終いには項を隠していた手で、頭を叩かれてしまう。
 こういう時の太一は頑なだ。
 幼い頃から知っているからこそ、何となく分かる。
 今日はダメか。
 そう諦めて、抱きつく腕に力を込める。

 人の温もりは好きだ。
 触れていると安心するし、暖かい。 
 一つわがままを言わせてもらえば、正面から抱きしめたい、ということだろうか。
 太一の胸元に顔を埋めて、心音を聴きながら眠りたい。
 でも太一は外を向いてしまっているから。
 それぞれ寝やすい体勢があるし、わざわざ“こっちを向いて”と言うのも申し訳がない気がする。
 
 口を開いては閉じを繰り返していると、不意に太一が顔だけをこちらに向けた。


「はぁ。春都様、苦しいです」
「え?あー……悪い」


 突然の事で驚き、しどろもどろになってしまう。
 そんな俺を見て、クスッと笑ったかと思えば、身体ごと向きを変える。


「はい。どうぞ?」


 向き合う方になった太一が、両手を広げて微笑んでいた。
 布団が持ち上がり、隙間から僅かに外気が入ってくる。
 動くに動けず顔を見つめていると、身体ごと抱き寄せられた。


「もー。早く来てくださいよ。素直じゃないですね。春都様は。こっちの方がお好きなの、私は知ってますよ」
「なら最初からこっち向けよ」
「ふふふ。春都様から言われたいなーと、失礼ながら思ってしまったもので」
「ふざけんな」
「すみません」


 向き合う形になり、太一の言葉に文句を言いつつも、胸元に顔を埋めた。


ーーー……ドクン。ドクン。


 規則正しい心音が、子守唄のようで。
 急激に眠気が襲ってきた。
 目を開けていられず、縋るように抱きつく。


「根元、地毛が出てきちゃいましたね」
「んー」
「黒に染めます?それとも元に戻しますか?」
「……どっちがいい?」
「おや。てっきり嫌になって黒髪にしたのかと思ってました」
「もうどうでも良くなった」
「そうですか。私は……元の色が好きです」
「そう……。じゃあ、そ…する」


 意識が薄れ始め、言葉を発しているのか、頭の中だけで終わってしまっているのか。
 自分でもう分からなくなっていた。
 もはや寝言に近い。


「……くすっ。可愛い。ブリーチ剤、用意しないとだな」


 背中に手を回し、布団の中で足を絡ませるようにして眠る俺を見て、太一が幸せそうに微笑んでいたのを、俺は知らない。
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