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第三章 狂い始め
待ってるから
しおりを挟む「俺もわかんね。転校生なんかより、断然春都の方がいいだろ」
「激しく同意」
「僕もー」
「……お前らにはやらねーからな」
「いや、何様だよ」
「誠様」
「本当にいい加減にしてくれる?精神が崩壊するまで辛辣な言葉を言い続けようか?」
「すみません」
三人でそんなやり取りを繰り返していると、ふと、フローラルの香りがした。
「ラベンダー?」
そう口にして首を傾げると、圭が「そうだよ」と肯定した。
「蒸しタオルに少しアロマエッセンスを数滴垂らした。ラベンダーには鎮静作用があって、リラックス効果があるから、ぐっすり眠るにはいいってどこかに書いてあった」
「だからすぐに寝たのか」
「んー、それだけじゃないよ。相当疲れてたんだと思う。目を閉じたらすぐに寝ちゃうぐらい」
「死んでねーよな?こいつ」
「息してるでしょ?バカなの?」
真顔でツッコまれつつも、俺たち三人は春都の側で様子を伺い続けた。
体育の授業でしか運動はしていないというのに、ガタイもよく、引き締まっている体。
数週間前よりも、厚みがなくなった気がする。
寝てないからなのか、仕事が多すぎるからなのか、精神的負荷が大きいのか。
きっと全てなのだろう。
でも、お前は自ら頼ってこないから。
気を使って全て抱え込んでしまうから。
だからこそ、“手伝おうか?”という言葉を掛けようと何度も考えた。
風紀委員と生徒会が請け負う仕事の種類は違うが、力にはなれる。
他のメンバー達にそう言ったのだが、反対された。
春都はきっと、俺たちの申し出を受け入れない。
生徒会メンバーに言われるのと、風紀委員である俺たちに言われるのとではわけが違うのだと。
風紀委員には風紀委員の仕事があって、生徒会にも生徒会の仕事がある。
互いの大変さを知っているからこそ、迷惑をかけたくない。
迷惑をかけるぐらいなら、仲間である自分が全て処理すればいい。
処理しなければならないとさえ、思っているかもしれない。
今の春都は、その一心だけで自分を保っている。
ここで風紀委員である俺たちが手を貸してしまえば、生徒会メンバーが仕事をする気がないのだと、自分の異変に気付かないほど転校生に夢中なのだと、本当の意味で突きつけられてしまう。
表面上では何ともないと装ってと、きっと内面が……心が壊れてしまう、と。
だから、
“春都が俺達を頼ってくるまで待とう。頼ってきたら、全力で力をかそう。そして、春都の全てを守ろう”
そう決めた。
自分だけではどうにもできないと、春都自身がこの状況に見切りをつけ、春都自身が他者に助けを求めるその時まで、全員で待つ。
自分のことは自分で判断をしたがるのが、春都だ。
出来るのか、出来ないのか。
限界に達する直前まで粘り、考え、答えを出す。
途中で手をかす素ぶりを見せても、受け入れはしない。
今すぐにでも抱きしめて、俺達を頼れと叫びたい。
俺は圭達ほど、冷静にはなれないから。
大好きな人が苦しんでいる姿を、ただ見ているだけしかできない。
そんな今の状況が、辛くてたまらない。
早く。
早く頼ってこい。
一言。
たった一言でいい。
「……言えよ。春都」
「春くーん。飴あげるから早くー」
「春くん。ずっと待ってるんだよ?」
“助けて”
そう言えばいいんだよ。
春都。
ーーー
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