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第二章 表と裏

ココアでゆっくりと

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「おはようございます。……ここ、数値間違ってますね」
「おはよう。……本当だ。チッ。仕事増やしやがって、あのクソハゲが」
「口が悪いですよ?」
「うるせ。通常運転だ」
「ふふふ。そうでした」


 後ろから抱きついたかと思えば、片手を伸ばしてパソコンの画面を指差し、間違いを指摘する太一。
 いつから起きていたのだろうか、と思いながらも、手は止めずに指摘された部分を修正していく。


「太一、服着ろ。風邪引くぞ」
「風邪引いたら看病してくれますか?」
「そんな余裕はねえ」
「ひどいです」
「お粥ぐらいは作ってやる」
「それ、立派な看病ですよ」


 頰を擦り付けながら楽しそうに笑う。


「この左側にあるのは、終わったやつですか?」
「そ。印刷もした」
「わかりました。とってきてホチキス留めしますね」
「助かる」
「今やってる案件が終わったら、一時間寝ましょう。授業もありますし」
「いや、こっちも終わらせた、」
「わかりましたね?」
「……はい」


 連夜がマリモにしたように、顔を無理矢理動かされ、太一と目が合う。
 有無を言わさぬ表情。
 普段は“春都様!私も行きます!”と、尻尾を振ってついてくるとのに。
 こういう時に限って年上の貫禄を出してくる。
 くそう。
 やはり、年の功には勝てないのか。


「よろしい。ココアでも飲みますか?」
「ん。頼む」
「かしこまりました」


 返事はしたものの、抱きついたまま離れる気配がなない。
 首に回された手を軽く叩くと、先程よりもきつく抱きしめられる。
 柔らかい髪が、頰をかすめる。


「なに」


 手を止め、頭を撫でてやる。


「無理、しないでくださいね」


 そう言って、腕に力を込めた。
 空いている方の手で、自分の目元に触れる。

 行為が終わった直後にも言われた。
 隈が酷い、と。
 無理をしないで、と。


「大丈夫だから。お前もいるし」
「……っ、はい」


 ようやく離れ、部屋を出て行こうとする。


「だから服着ろっての」
「あ、忘れてました」
「アホか」
「アホかもしれないですね」


 惚けたように笑い、ノロノロと服を着て部屋を後にした。

 太一は、今の案件が終わったら、と言っていた。
 後十分も経たないうちに終わるだろう。
 一時間寝て、また一日が始まる。
 時間的にはもう始まっているのだが、本格的に始まるのだ。
 毎日が地獄。
 そうなってしまっているのは全て、マリモと愉快な仲間達のせい。


「仕事しない奴は全員死ね」


 俺は悪くない。
 きっと。


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