16 / 103
第二章 表と裏
仮面
しおりを挟む「カードとスマホ、あとハンカチはお持ちになられましたか?」
「持った」
「あ、このスウェットお借りしますね。明日お返し致します」
「ん」
「もう。他の生徒の方もいるんですから、シャキッとしてください!」
俺の服装を細かくチェックしながら、説教にも似た言葉を吐く太一。
執事であり、幼少期から共に過ごす友であり、家族のような存在。
「あ、鵤様だ!」
「お隣の方は……鵤様の運転手兼執事でもある、佐山様!いつ見てもお美しいです!」
「鵤様ー。明日は僕とお願いしますぅ!」
「鵤様ぁー」
廊下を歩くたびに聞こえる好意の声。
それは耳が痛くなるほど大きなもので、もう少し小さな声で言って欲しいとさえ思う。
「佐山様だとよ。よかったな」
「別に嬉しくありませんよ。俺には春都様だけですから」
「あーはいはい」
太一の発言をサラリと流す。
太一が俺に対してどのような感情を抱いているのか。
一緒にいる時間が長いせいか、聞くに聞けずにいる。
この関係が崩れてしまう。
そんな気がしてならないから。
「それでは春都様。夕食お楽しみくださいませ」
俺はヒラヒラと手を振りながら、食堂の入り口へと歩いていく。
今の関係が崩れてしまうぐらいなら、いっそのことこのままでいい。
進むこともなければ、戻ることもない。
曖昧な関係。
曖昧な感情。
今はそれでいい。
そう自分に言い聞かせ、日々過ぎていく。
「ただのチキン野郎じゃん」
食堂へと繋がる扉を開けながら、俺は小さな声で、自傷めいためいた言葉を発する。
しかし、
『きゃーーーーーーーー!!!!』
それは悲鳴にも似た声によってかき消される。
「鵤様ー!抱いてー!!!」
「今夜空いてますか!?」
「俺を抱いてくれ!」
筋肉質のスポーツマンから可愛い顔した子まで、俺を見て頬を赤らめる。
抱いてくれ、と。
人から求められるのは嫌いじゃない。
今、ここに、俺は存在しているのだと感じられるから。
「やっほー。今日もみんな可愛いねー。食べちゃいたい」
俺は再び仮面を被る。
みんなが求めているチャラ男になるために。
本当の自分を心の奥底に追いやって。
20
お気に入りに追加
1,394
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
私の事を調べないで!
さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と
桜華の白龍としての姿をもつ
咲夜 バレないように過ごすが
転校生が来てから騒がしくなり
みんなが私の事を調べだして…
表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓
https://picrew.me/image_maker/625951
親衛隊総隊長殿は今日も大忙しっ!
慎
BL
人は山の奥深くに存在する閉鎖的な彼の学園を――‥
『‡Arcanalia‡-ア ル カ ナ リ ア-』と呼ぶ。
人里からも離れ、街からも遠く離れた閉鎖的全寮制の男子校。その一部のノーマルを除いたほとんどの者が教師も生徒も関係なく、同性愛者。バイなどが多い。
そんな学園だが、幼等部から大学部まであるこの学園を卒業すれば安定した未来が約束されている――。そう、この学園は大企業の御曹司や金持ちの坊ちゃんを教育する学園である。しかし、それが仇となり‥
権力を振りかざす者もまた多い。生徒や教師から崇拝されている美形集団、生徒会。しかし、今回の主人公は――‥
彼らの親衛隊である親衛隊総隊長、小柳 千春(コヤナギ チハル)。彼の話である。
――…さてさて、本題はここからである。‡Arcanalia‡学園には他校にはない珍しい校則がいくつかある。その中でも重要な三大原則の一つが、
『耳鳴りすれば来た道引き返せ』
平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
変態高校生♂〜俺、親友やめます!〜
ゆきみまんじゅう
BL
学校中の男子たちから、俺、狙われちゃいます!?
※この小説は『変態村♂〜俺、やられます!〜』の続編です。
いろいろあって、何とか村から脱出できた翔馬。
しかしまだ問題が残っていた。
その問題を解決しようとした結果、学校中の男子たちに身体を狙われてしまう事に。
果たして翔馬は、無事、平穏を取り戻せるのか?
また、恋の行方は如何に。
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
風紀“副”委員長はギリギリモブです
柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。
俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。
そう、“副”だ。あくまでも“副”。
だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに!
BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる