銀獣-王道BLを傍観するつもりが巻き込まれました-【本編完結。SS公開予定】

レイエンダ

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第一章 転校生

代わりに俺が

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「では、言い訳があればどうぞー?」


 そんな理事長室の中央に置かれている四人掛けの赤いソファーに腰をかけながら、入り口付近から全く動こうとしない二人を見てそう言えば、


「ま、正人。とりあえず座ろう」


俺の向い側のソファーに腰をかける。


 理事長は諦めにも似た表情を浮かべていて、野山も「……はぁ」と面倒臭そうにため息をつく。
 面倒なのはこっちなんだけどね?
 実際。


「えっとー……言い訳というわけではないんだが、俺があんな風になるのは正人だけであって、普段はいつも通りだから」
「俺はその、叔父が危ないからっていうから、そのー……」
「野山はなんとなく予想ついてから大丈夫。意外だったのは理事長の方かなー」


「あの威厳のある理事長がねー」と、窓の外の景色を見ながら言えば、理事長は肩身が狭いのか、縮こまっていた。
 

「ま、他の人に言うつもりはないのでご安心ください」
「そうか。ありがとう」
「あ、そうそう。書類の最終チェックお願いします」


 安心している二人に全く興味のない俺は、自分がここに来た理由を思い出したのだった。
 車に取りに戻ったファイルを、ソファーとソファーの間に置かれたガラス製の机に置く。


「……体育祭についての書類か」


 机に置いたファイルを手に取り、中から書類を取り出して内容を確認する。
 そして最後の書類……四枚に目を通そうとした時だった。


「ん?これは…」
「あ、コスプレ早着替え競争は俺の案ではないですからね。蓮夜の諸事情により、最後の目玉として仕方なく入れました」


 苦笑いをしながら野山に目をやれば、理事長は察したのか、嫌そうな顔をする。


「狙いは正人か……」
「そういうことです。蓮夜たちもその髪が変装であることは写真で気付いたようですし、気をつけた方がいいと思いますよー?それを取られたら確実にヤられますね」


 野山の鼻まである前髪の長いモジャモジャ頭と、ピン底メガネを交互に指差す。


「それとも、蓮夜の前に俺が相手しましょうか?優しくしますよー」



 ワザとらしく野山を舐め回すように見ながら言う。
 そんな気など微塵もないというのに。


「いや、遠慮しておくよ。できれば誰も触れて欲しくないんだよ。無理だとは思うが……」


 そう苦笑いをする理事長。
 心配なのはわかる。
 それ以前に、変装しているそいつが、思わず触れたくなるような奴なのか、って所だよな。
 素顔を知らないからなんとも言えないが、今の姿のままじゃ勃たないかなー。
 そもそも、心配ならこの学校に転入させるなよ、と悪態をつきたくなった。


「そうですか。では書類も渡しましたし、俺はこれで失礼します」


 理事長本人に口にできるはずもなく、簡単に話を切り上げ、先程入ってきた扉に手をかけ、部屋を後にした。
 否。
 後にしようとした。


「どうしたー?」


 俺は首を微かに傾げながら、斜め下に向かって話す。
 腕を掴まれているために身動きがうまく取れず、仕方がなく顔だけ動かしたのだ。
  そんな俺の仕草を見てか、顔を赤らめ、上目遣い……と言っていいのだろうか?
 目がどこにあるのか、全くわからないんだけど。
 メガネがあるから、ここかな?と予想はできるが……。
 そもそも、モジャモジャ頭でオタクみたいな奴にやられても嬉しくないんだよなー。
 やるなら素顔でやってほしい。
 そうしたらこの場で押し倒して、あの手この手で気持ちよくして、バックバージン奪ってあげるのに。


「あの、春都先輩って呼んでいいですか?」


 わざわざ腕を掴んで引き止めて、真っ赤な顔で何を言うかと思ったらそんなことか。


「どーぞー。そろそろいいかな?」
「あと、俺のこと正人って呼んでくれたら……その、嬉しいです」


 最後の方は声が小さかったけど、俺の耳に届くには十分な大きさで、まるで小動物を相手にしているかのようだ。
 このシーンが俺ではなく、他の生徒会のメンバーだったら、無理矢理顎を持ち上げたキスでもするのだろうか。
 触れるだけのキスなんかではなく、舌と舌をからませるようなディープキスを。
 はははっ。
 アホらしくて笑ってしまいそうだよ。


「気が向いたらねー」


 それだけ言い、今度こそ理事長室を後にした。


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