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第二章 表と裏

お風呂上がりの太一さん

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 学校から寮へは歩いて十分程度の距離。
 たったそれだけだというのに、歩くたびに話しかけられ、握手を求められる。
 今までの人生では考えられなかった、芸能人のような生活。
 どう反応したらいいのかわからず、オドオドしていた時期が懐かしい。
 今では何を言われても、何を求められても、笑顔で対応出来るほどに成長している。
 慣れるというのは恐ろしいものだ。

 一人一人丁寧に対応していたからか、寮についたのは、生徒会室を出て30分程経ってからだった。


『ピピーッ』


 生徒会室とは違い、寮の部屋はカードをスラッシュすればいいだけ。
 生徒会室も同じ仕様にしてしまえばいいと思うのだが、メンバーの誰かがガードを落とし、他の誰かがガードを使用して侵入されてしまうなどという危険性を避ける意図があるのだという。
 個人情報や学校側の重要な情報なども多く扱っている以上、仕方がないのかもしれない。


「ただいまー」

 玄関で靴を脱いでいると、奥の方からパタパタとスリッパと床がこすれる音が近づいて来る。


「春都様、おかえりなさいませ。返信がなかったので心配したんですよ?」
「悪い悪い。後輩たちに捕まっててさ」
「それは仕方がないですね」


 理由を述べれば、それ以上追求することなく、穏やかな笑みを浮かべた。
 水分を含んだ髪。
 火照った顔。
 お風呂上がりなのか、普段と変わらぬ笑みのはずなのに、全くの別物に感じられた。
 “色気”というやつである。
 あでやかな色気を出す俺とは違い、純粋というか、なんというか。


「風呂入ったの?髪、濡れてる」


 靴を脱ぎ終え、リビングのソファーへと腰かけていた俺は、キッチンで紅茶を淹れている太一に問いかける。
 答えが返ってくることはなく、代わりに紅茶が乗ったトレイを持った太一が戻ってきた。


「えぇ。先程と上がったばかりなので、まだ髪を乾かしてないんです」
「ふーん。そっか」


 相槌をうち、持ってきてくれた紅茶を飲む。
 猫舌である俺の為に、少し冷ましてくれたのだろう。
 息を吹きかけなくても飲める温度だった。


「ごちそうさまー」


 空になったティーカップを太一に渡し、近くの本棚から適当に本を取り出し、お目当てのページを探してパラパラとめくる。
 どのシーンがどのページに書かれていたか。
 何度も読んでいるからか、もう覚えてしまった。

 ティーカップを受け取った太一はというと、再びキッチンへと戻って行く。
 しばらくしてから水の音が聞こえ、本を読む手を止め、キッチンへと目をやる。
 俺の寝巻きであるスウェット上下に身を包んだ太一は、腕まくりをしながらスポンジでティーカップを洗っていた。
 ソファーに腰をかけていた俺だったが、手に持っていた本を机に置き、キッチンへと向かう。


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