銀獣-王道BLを傍観するつもりが巻き込まれました-【本編完結。SS公開予定】

レイエンダ

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第二章 表と裏

生徒会へようこそ

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 理事長室を出て、生徒会室へと向かう為に足を進める。
 あのバ会長……蓮夜が仕事をしているかを確認するためだ。
 蓮夜だけではない。
 他の二人もだ。
 いや、政宗も珍しく興味を抱いていたようだし、もしかしたら三人かもしれないな。

 理事長の廊下の隅にあり、“生徒会、理事長以外使用禁止”という貼り紙がしてある扉の前で立ち止まった。
 その扉にはドアノブは無く、カードをスラッシュするくぼみと暗証番号を入力するための機械が設置されている。
 くぼみに青いカードをスラッシュし、暗証番号を入力。
 それだけでら終わらないのが、お金持ちの凡々ばかりが通うこの学校。


『指紋認証と眼球認証を行います。まず暗証番号入力ボタンの横にある黒い部分に人差し指を置いてください』


 どこからか聞こえる女性のような声に、拒むこと無く従う。


『ピピーッ。指紋を確認。続いて眼球認証を行います』


 その声を合図に、天井から細長い機械が出現し、俺の両目を覆うように被さる。


『ピピーッ。指紋認証、眼球認証共に終了いたしました。データを照合。高等部生徒会会計監査、鵤 春都と確認。ロックを解除します』


 時間がかかっているように感じるかもしれないが、カードをスラッシュしてから認証が終わるまで、一分もかっかっていない。
 驚くほど処理速度が高い機械。
 お金をかけているだけはあるというものだ。


「さんきゅー」


 返答がないとわかっていながらも、“開けてくれてありがとう”という意味を込めて、お礼の言葉を口にする。
 特に意味があるわけでもない。
 一人で何をやっているんだ、と思われても仕方がないが、なぜ?と言われると上手く説明はできない。
 ただ、なんとなく。
 それだけだ。

 そして扉は開かれ、下へと続く階段が現れる。
 その階段を降りていくと先程と同じような扉があり、ロックを解除すると理事長室の前の廊下と同じような場所に出る。
 レッドカーペットが敷かれた廊下を真っ直ぐ進むと、理事長室ほどではないが、豪華な扉が。


『ピピーッ』


 三度目である指紋認証、眼球認証を終え、扉の中へと足を進める。


「あ、春都だぁー!どうだった?転校生は!」
「俺様の代わりに行ったんだから感想ぐらい聞かせろ!」
「蓮夜。コーヒーが溢れましたよ」
「うぉっ!まじかよ!」


 騒がしいのは毎度のことだが、今日はいつも以上に騒がしい。
 やはり転校生…野山の影響なのだろうか?


「転校生?普通だったよー。見た目通りガリ勉オタクって感じ」


 取ってつけたような言葉を返して自席につけば、左斜め前のデスクを使っている小柄な男が身を乗り出す。
 身を乗り出すといっても、背が低いせいか、向かい合って設置されているデスクとデスクの境目すら越えられていないがな。


「うっそだー!だってあれ絶対カツラだもぉーん!」
「俺、別に興味ねーもん。そんなに言うなら見に行けばー?」
「うぅっ!だって書類が……」

 出てもいない涙を拭うような仕草をしながら俯いたのは、生徒会書記の佐野 麗香さの れいか
 可愛い見た目と名前のせいか、月に一度行われる『抱きたい!抱かれたい!校内ランキングー!!!』の抱きたいランキング四年連続一位。
 本人も自分が可愛いことは自覚しており、それを最大限に活用して生活している。


「おや?体育祭の書類はもう理事長に渡してきたのですか?」


 いい香りがするなーと思っていたら、隣のデスクで作業をしていた人物が、ミルクティーの入ったティーカップを俺のデスクの中央に置く。
 さらに俺の好物である芋羊羹いもようかんも一緒に。


「あおちゃんさんきゅー。もちろん出してきたよーん。理事長の印も貰ってきた」
「ふふ。ありがとうございます」


 微笑みながらメガネをあげる仕草をするこの男は、生徒会副会長の姫路 葵ひめじ あおい
 俺はあおちゃんと呼んでいる。


「あおちゃん。俺にもコーヒーくれ」
「淹れたてを溢したやつに飲ませるコーヒーはありまんよ」


 普段は穏やかなのだが、時折、背後に黒いオーラが出現する。
 生徒会の裏番長といえるだろう。


「わ、悪かったって!」
「それともう一つ。お前にあおちゃんと呼ばれる筋合いはない。殺されたいか?」
「ひぃっ!」


 椅子をひっくり返し、物凄い勢いで生徒会室の隅へと逃げたのは、生徒会会長の佐伯 蓮夜さえき れんや
 抱かれたいランキング二位である。
 一年半前までは一位だったらしいが、残念なことに抜かされてしまったらしい。
 転校してきたばかりの、この俺に。

 結果発表後に壇上へ上がるのだが、“何でお前なんかに!”という顔で睨まれ、不愉快だったのをよく覚えている。

 ここの学校は少し変わっていて、抱きたいランキングと抱かれたいランキングの上位五位以内生徒が、生徒会か風紀委員に入ることになっている。
 一位が会長と決まっているわけではなく、生徒会か風紀委員、役職を生徒自身が自由に選ぶことができる。
 だから俺は、名前がカッコよかった“生徒会会計監査”という役職についた。
 大変な役職というは、もちろん知ってはいた。
 しかし、俺は大変な場面や仕事に直面した時ほど、やる気が出る性格。
 ぴったりだと思った。
 一応言っておくが、Mではない。
 決して。


「おや?政宗はどこに行ったんですか?」


 蓮夜に詰め寄っていたあおちゃんが、顔だけをこちらを向け、俺と麗に問いかける。


「あ、なんか書類終ったから、担当の先生に提出してから部活に顔だけ出してくるって言ってたよ!すぐ帰ってくるってー」
「そうですか。では我々も早く終わらしてしまいましょう。早く転校生の顔も見たいですしね」


 あおちゃんは蓮夜をいじることに飽きたのか、デスクへと戻った。


「ねーねー春都。今日の夕食さー、食堂で食べようよー」


 パソコンのキーボードを打ちながら声をかけてきた。
 タイピングが遅いのか、やる気がないのか、間隔をあけてパチ、パチ、という音が聞こえる。
 人差し指でタイピングしている姿が頭に浮かぶ。


「んー?政宗とか、ほかの奴らが行くならいいよー」
「僕は是非行きたいです。恐らくいるでしょうからね。転校生が」
「俺もー」
「じゃあ決まりっ!」


 麗の可愛らしい声を発した後、『ピピーッ』というロックが解除された音が生徒会室に響き渡った。

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