10 / 103
第二章 表と裏
生徒会へようこそ
しおりを挟む理事長室を出て、生徒会室へと向かう為に足を進める。
あのバ会長……蓮夜が仕事をしているかを確認するためだ。
蓮夜だけではない。
他の二人もだ。
いや、政宗も珍しく興味を抱いていたようだし、もしかしたら三人かもしれないな。
理事長の廊下の隅にあり、“生徒会、理事長以外使用禁止”という貼り紙がしてある扉の前で立ち止まった。
その扉にはドアノブは無く、カードをスラッシュするくぼみと暗証番号を入力するための機械が設置されている。
くぼみに青いカードをスラッシュし、暗証番号を入力。
それだけでら終わらないのが、お金持ちの凡々ばかりが通うこの学校。
『指紋認証と眼球認証を行います。まず暗証番号入力ボタンの横にある黒い部分に人差し指を置いてください』
どこからか聞こえる女性のような声に、拒むこと無く従う。
『ピピーッ。指紋を確認。続いて眼球認証を行います』
その声を合図に、天井から細長い機械が出現し、俺の両目を覆うように被さる。
『ピピーッ。指紋認証、眼球認証共に終了いたしました。データを照合。高等部生徒会会計監査、鵤 春都と確認。ロックを解除します』
時間がかかっているように感じるかもしれないが、カードをスラッシュしてから認証が終わるまで、一分もかっかっていない。
驚くほど処理速度が高い機械。
お金をかけているだけはあるというものだ。
「さんきゅー」
返答がないとわかっていながらも、“開けてくれてありがとう”という意味を込めて、お礼の言葉を口にする。
特に意味があるわけでもない。
一人で何をやっているんだ、と思われても仕方がないが、なぜ?と言われると上手く説明はできない。
ただ、なんとなく。
それだけだ。
そして扉は開かれ、下へと続く階段が現れる。
その階段を降りていくと先程と同じような扉があり、ロックを解除すると理事長室の前の廊下と同じような場所に出る。
レッドカーペットが敷かれた廊下を真っ直ぐ進むと、理事長室ほどではないが、豪華な扉が。
『ピピーッ』
三度目である指紋認証、眼球認証を終え、扉の中へと足を進める。
「あ、春都だぁー!どうだった?転校生は!」
「俺様の代わりに行ったんだから感想ぐらい聞かせろ!」
「蓮夜。コーヒーが溢れましたよ」
「うぉっ!まじかよ!」
騒がしいのは毎度のことだが、今日はいつも以上に騒がしい。
やはり転校生…野山の影響なのだろうか?
「転校生?普通だったよー。見た目通りガリ勉オタクって感じ」
取ってつけたような言葉を返して自席につけば、左斜め前のデスクを使っている小柄な男が身を乗り出す。
身を乗り出すといっても、背が低いせいか、向かい合って設置されているデスクとデスクの境目すら越えられていないがな。
「うっそだー!だってあれ絶対カツラだもぉーん!」
「俺、別に興味ねーもん。そんなに言うなら見に行けばー?」
「うぅっ!だって書類が……」
出てもいない涙を拭うような仕草をしながら俯いたのは、生徒会書記の佐野 麗香。
可愛い見た目と名前のせいか、月に一度行われる『抱きたい!抱かれたい!校内ランキングー!!!』の抱きたいランキング四年連続一位。
本人も自分が可愛いことは自覚しており、それを最大限に活用して生活している。
「おや?体育祭の書類はもう理事長に渡してきたのですか?」
いい香りがするなーと思っていたら、隣のデスクで作業をしていた人物が、ミルクティーの入ったティーカップを俺のデスクの中央に置く。
さらに俺の好物である芋羊羹も一緒に。
「あおちゃんさんきゅー。もちろん出してきたよーん。理事長の印も貰ってきた」
「ふふ。ありがとうございます」
微笑みながらメガネをあげる仕草をするこの男は、生徒会副会長の姫路 葵。
俺はあおちゃんと呼んでいる。
「あおちゃん。俺にもコーヒーくれ」
「淹れたてを溢したやつに飲ませるコーヒーはありまんよ」
普段は穏やかなのだが、時折、背後に黒いオーラが出現する。
生徒会の裏番長といえるだろう。
「わ、悪かったって!」
「それともう一つ。お前にあおちゃんと呼ばれる筋合いはない。殺されたいか?」
「ひぃっ!」
椅子をひっくり返し、物凄い勢いで生徒会室の隅へと逃げたのは、生徒会会長の佐伯 蓮夜。
抱かれたいランキング二位である。
一年半前までは一位だったらしいが、残念なことに抜かされてしまったらしい。
転校してきたばかりの、この俺に。
結果発表後に壇上へ上がるのだが、“何でお前なんかに!”という顔で睨まれ、不愉快だったのをよく覚えている。
ここの学校は少し変わっていて、抱きたいランキングと抱かれたいランキングの上位五位以内生徒が、生徒会か風紀委員に入ることになっている。
一位が会長と決まっているわけではなく、生徒会か風紀委員、役職を生徒自身が自由に選ぶことができる。
だから俺は、名前がカッコよかった“生徒会会計監査”という役職についた。
大変な役職というは、もちろん知ってはいた。
しかし、俺は大変な場面や仕事に直面した時ほど、やる気が出る性格。
ぴったりだと思った。
一応言っておくが、Mではない。
決して。
「おや?政宗はどこに行ったんですか?」
蓮夜に詰め寄っていたあおちゃんが、顔だけをこちらを向け、俺と麗に問いかける。
「あ、なんか書類終ったから、担当の先生に提出してから部活に顔だけ出してくるって言ってたよ!すぐ帰ってくるってー」
「そうですか。では我々も早く終わらしてしまいましょう。早く転校生の顔も見たいですしね」
あおちゃんは蓮夜をいじることに飽きたのか、デスクへと戻った。
「ねーねー春都。今日の夕食さー、食堂で食べようよー」
パソコンのキーボードを打ちながら声をかけてきた。
タイピングが遅いのか、やる気がないのか、間隔をあけてパチ、パチ、という音が聞こえる。
人差し指でタイピングしている姿が頭に浮かぶ。
「んー?政宗とか、ほかの奴らが行くならいいよー」
「僕は是非行きたいです。恐らくいるでしょうからね。転校生が」
「俺もー」
「じゃあ決まりっ!」
麗の可愛らしい声を発した後、『ピピーッ』というロックが解除された音が生徒会室に響き渡った。
31
お気に入りに追加
1,401
あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい
椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。
その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。
婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!!
婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。
攻めズ
ノーマルなクール王子
ドMぶりっ子
ドS従者
×
Sムーブに悩むツッコミぼっち受け
作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話
みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。
数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる