上 下
1 / 30
第一章 お転婆娘

朝日は一日の始まり

しおりを挟む



 朝日は綺麗で眩しいものだ、と誰かが言った。その通りだと思う。
 カーテンの隙間から差し込む光は眩くて、とても幻想的。
 何色かと問われれば、思わず言いよどんでしまうような存在だが、確かにこの世に存在している。時の流れを示す光として。
 それが希望の光なのか、絶望の光なのかは人それぞれ。


「ジャスミン様。良い加減に起きてください。私が朝早くに起きて貴女様の為に作った食事が冷めます。私の労力を無駄にするおつもりですか?シーツで絞め殺しますよ?」


 私にとっては確実に後者である。


「ちょいちょいエルマナスさん。少々、辛辣ではありませんか?」
「とんでもございません。5回も声をおかけして起きないジャスミン様を思っての言葉ですので」


 苛立ちを隠そうともせず、部屋の窓に設置されている全てのカーテンを開けた。
 ローラーが回転し、目にも留まらぬ速さで金属板の端へと駆け抜けていく。
 その姿はまるで駿馬のよう。



「泥人形のような顔で呆けていないで早く支度をしてください」
「どろっ……はぁ。起きます。起きればいいんでしょ」
「ご理解いただけてなによりです。私はシーツを直しますので、顔を洗ったらこちらのタオルで拭いてください。歯磨きを済ませて机の上にあるいつものお薬を飲む。五分以内でお願いします」


 タオルを投げつけてきたかと思えば、こちらを見向きもせずシーツを直し始める。
 エルマナス……マナが触れるたびに皺が消えていく。
 それはまるで魔法と勘違いしてしまいそうなほど。
 そのせいで貴重な五分の内、一分も見惚れてしまった。
 残り四分で顔を洗って、歯磨きをして、薬を飲む所まで済ませないと、本当にシーツで絞め殺されてしまう。
 いや、今綺麗に整えているから、枕で窒息死させられるかもしれない。
 私は怯えるように洗面台へと移動し、マナの指示通り五分以内で全てを終えた。


「いい動きです。ではこちらに着替えてください。皆さんが席についてお待ちですので余計な動きはせずに、さあ早く」


 私が渡された水色のシンプルなワンピースに素早く身を包むと、マナが素早く襟や袖、丈などを確認する。
 どこから出したのかわからない櫛で髪の毛を上と下に分け、上の髪だけを髪飾りで簡単に留めた。


「凝ったヘアスタイルにしても、ジャスミン様は鳩ノ巣で帰ってきますので私はもう諦めました」
「子供の頃の話を毎朝しないでくれる?」
「今は違うと?」


 そう言われてしまうと、もう私は何も言えない。
 それを理解しているからこその一言なので尚更タチが悪い。
 口喧嘩で勝てる気がしないのはきっと私だけではないはずだ。


「だいたいジャスミン様は……」


 火がついてしまったマナの口は止まることはなく、次から次へと話が変わっていく。
 何度も聞いた話ばかりなので、そろそろ耳にタコができそうである。

 紹介が遅くなったが、彼女は侍女のエルマナス。
 愛称はマナ。
 エルと呼ぶ人もいるが本人はそう呼ばれることを良く思っていないそうだ。

 理由は

“エルってなんだか洋服がLサイズみたいじゃないですか。私はMサイズですし納得できません”

ということらしい。

 あからさまに嫌がるので、今ではマナと親しい者たちが、嫌がらせとして呼ぶぐらいになってしまったが……。
 愛称の由来を懐かしんでいると、目的の場所に到着していた。
 奥に偉い方が待っていると思わせるほど豪華な扉を開け、マナはツカツカと主である私を置いて中に入っていってしまう。
 なんて失礼な侍女だ。
 まあ中にはお偉いさんなどいないから、自由にして構わないんだけどね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

きみは、俺の、ただひとり

Mimi
恋愛
 若様がお戻りになる……  イングラム伯爵領に住む私設騎士団御抱え治療士の娘リデルがそれを知ったのは、王都を揺るがす第2王子魅了事件解決から半年経った頃だ。  王位継承権2位を失った第2王子殿下のご友人の栄誉に預かっていた若様のジェレマイアも後継者から外されて、領地に戻されることになったのだ。  リデルとジェレマイアは、幼い頃は交流があったが、彼が王都の貴族学院の入学前に婚約者を得たことで、それは途絶えていた。  次期領主の少年と平民の少女とでは身分が違う。  婚約も破棄となり、約束されていた輝かしい未来も失って。  再び、リデルの前に現れたジェレマイアは……  

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...