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第一章 お転婆娘
朝日は一日の始まり
しおりを挟む朝日は綺麗で眩しいものだ、と誰かが言った。その通りだと思う。
カーテンの隙間から差し込む光は眩くて、とても幻想的。
何色かと問われれば、思わず言いよどんでしまうような存在だが、確かにこの世に存在している。時の流れを示す光として。
それが希望の光なのか、絶望の光なのかは人それぞれ。
「ジャスミン様。良い加減に起きてください。私が朝早くに起きて貴女様の為に作った食事が冷めます。私の労力を無駄にするおつもりですか?シーツで絞め殺しますよ?」
私にとっては確実に後者である。
「ちょいちょいエルマナスさん。少々、辛辣ではありませんか?」
「とんでもございません。5回も声をおかけして起きないジャスミン様を思っての言葉ですので」
苛立ちを隠そうともせず、部屋の窓に設置されている全てのカーテンを開けた。
ローラーが回転し、目にも留まらぬ速さで金属板の端へと駆け抜けていく。
その姿はまるで駿馬のよう。
「泥人形のような顔で呆けていないで早く支度をしてください」
「どろっ……はぁ。起きます。起きればいいんでしょ」
「ご理解いただけてなによりです。私はシーツを直しますので、顔を洗ったらこちらのタオルで拭いてください。歯磨きを済ませて机の上にあるいつものお薬を飲む。五分以内でお願いします」
タオルを投げつけてきたかと思えば、こちらを見向きもせずシーツを直し始める。
エルマナス……マナが触れるたびに皺が消えていく。
それはまるで魔法と勘違いしてしまいそうなほど。
そのせいで貴重な五分の内、一分も見惚れてしまった。
残り四分で顔を洗って、歯磨きをして、薬を飲む所まで済ませないと、本当にシーツで絞め殺されてしまう。
いや、今綺麗に整えているから、枕で窒息死させられるかもしれない。
私は怯えるように洗面台へと移動し、マナの指示通り五分以内で全てを終えた。
「いい動きです。ではこちらに着替えてください。皆さんが席についてお待ちですので余計な動きはせずに、さあ早く」
私が渡された水色のシンプルなワンピースに素早く身を包むと、マナが素早く襟や袖、丈などを確認する。
どこから出したのかわからない櫛で髪の毛を上と下に分け、上の髪だけを髪飾りで簡単に留めた。
「凝ったヘアスタイルにしても、ジャスミン様は鳩ノ巣で帰ってきますので私はもう諦めました」
「子供の頃の話を毎朝しないでくれる?」
「今は違うと?」
そう言われてしまうと、もう私は何も言えない。
それを理解しているからこその一言なので尚更タチが悪い。
口喧嘩で勝てる気がしないのはきっと私だけではないはずだ。
「だいたいジャスミン様は……」
火がついてしまったマナの口は止まることはなく、次から次へと話が変わっていく。
何度も聞いた話ばかりなので、そろそろ耳にタコができそうである。
紹介が遅くなったが、彼女は侍女のエルマナス。
愛称はマナ。
エルと呼ぶ人もいるが本人はそう呼ばれることを良く思っていないそうだ。
理由は
“エルってなんだか洋服がLサイズみたいじゃないですか。私はMサイズですし納得できません”
ということらしい。
あからさまに嫌がるので、今ではマナと親しい者たちが、嫌がらせとして呼ぶぐらいになってしまったが……。
愛称の由来を懐かしんでいると、目的の場所に到着していた。
奥に偉い方が待っていると思わせるほど豪華な扉を開け、マナはツカツカと主である私を置いて中に入っていってしまう。
なんて失礼な侍女だ。
まあ中にはお偉いさんなどいないから、自由にして構わないんだけどね。
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