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 暇を持て余していたり

 日々つまんないと感じていたら

 探してみるのもいいかもね

         ◆

「芸術祭?」
「そうだよ。聞いたことないかい?」
 食堂も兼ねる宿屋の一階。カウンターで温めたミルクをちびちびと飲んでいたルーチェは、宿の女将の言葉に「初耳」と首を振った。
 街道沿いにあるとはいえ、村の宿屋はそれほど宿泊客が多いわけでもなかった。それがどうしたことか、ここ数日で宿の部屋は全部埋まり、村の人口密度が一気に跳ね上がったのだ。村の広くはない通りは旅の者と行商人、その護衛でごったがえすほどに。
 数日前から逗留しているルーチェにしてみれば、この急激な人口増加は首を傾げたくなるものだった。そこで朝食の際に宿の女将に話を振った結果、冒頭の会話へと繋がる。
「五年に一回開かれる祭で、随分と昔から続いてたんだけどね?」
 女将の言葉はルーチェの流れるような金髪からのぞく、先の尖った耳を見てのもの。
 ルーチェはエルフだ。
 寿命をもたないとも言われる、悠久の時の旅人であるならば知っていてもおかしくないのではないか。言外にそう言っているのだろう。
 ミルクを飲み干し、ルーチェは肩をすくめた。
「放浪してるからねえ」
 一般的にエルフは森の奥で排他的な生活を送っていると言われているが、永く生きるがゆえに旅に出る者も少なくはない。停滞したかのような森と時の中で死んだように生きるのを由としない者もいる。ルーチェもその一人だ。
 ルーチェは自分が何年生きているのか、もはや覚えていない。だが少なくとも、この大陸を端から端まで十回以上は往復しているはずだ。その間に芸術祭を訪れていないとなると、よほどタイミングが悪かったのだろう。
 もしかすると、忘れているだけかもしれないのだが────。

(忘れたくなるようなこと、あったのかな?)

 ルーチェは小さく首をかしげた。なにかがチクリと、胸の奥を刺したような気がしたのだ。
「大戦が終結して五十年。ずっと中断していた芸術祭がようやく復活するんだよ。行ってみたらどうだい」
 女将の説明によれば、芸術祭が開かれる町の名はリマーレ。神話の時代の遺跡を利用して造られた町であり、町そのものが重要な歴史遺産とも言われている。芸術的な建造物の名残が各所に見られ、それに導かれるように芸術家たちが集まってできた芸術の町だそうだ。
 先の大戦で大きな被害を受けたが、祭りを開催できる程度には復興したようだ。
 芸術祭の開催日は五日後。この村からならば徒歩でも二日でたどり着けることをルーチェは知っている。町だけなら何度か訪れたことがあるから。
 女将にそう言われたからでもないのだが、ルーチェは芸術祭が開かれる町へと足を向けることにした。もとよりアテのない旅だ、祭りを覗くのも一興だろう。
「……換金しておこうかな」
 祭りとなればいくらかの散財はするだろう。そして、祭り当日の換金には手数料が上乗せされることが多い。
 村に商業ギルドはないが、商人が来ているなら換金は可能なはずだ。
 ルーチェは商人を探して宿を後にした。
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