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アレだよ、アレ。…って、なんだっけ。
能ある兎や狼は、技を隠す
しおりを挟む思ったよりも高さというか深かったその穴を落ちながら、真上を見上げてみれば一瞬でその穴が消えた。
「いやああぁああ」
女の子みたいな声をあげながら、落ち続ける俺。手には、紐を握ったままで。
その俺が握っていた闇属性の紐は、落ちたんだろう場所から突き抜けて。天井にも見えるそこからぶらさがっているようにも見えるんだけど。
「アペル! よけろ!」
その声に、見たくないけど視線を下へ向ければ、カムイさんが人化した姿で俺へ向かって人差し指を突き出していた。
ただ、問題なのが。
「な! なに、撃つつもり!!!」
突き出していたその指先が、淡く光ってて何かの攻撃をしようとしていた途中だったっぽい。キィイイイ…ン、とか謎の音が鳴ってるし。
「け、結界! 結界展開!」
慌てて自分へ結界を張る。
(えーい、半端に調整なんかできない! めっちゃ防げ、結界! あらゆるものを!)
カムイさんの攻撃も俺が落下していく勢いも、どっちも止められない状態だ。
結界を優先してて、風魔法が使えるの忘れてた。えーっと…勢いを殺した方がいいのか増した方がいいのか。カムイさんが放とうとしているものって、なんなんだ? 速さは? 情報がゼロって困るってば。どうしたらいい? 俺。
なんだろう。人間、時間がなくてひっ迫している時こそ、瞬きほどの時間でものすごい量の考え事が出来るもんだ。
「アペル!!!」
カムイさんがそう叫んだ時には、光はその指先を離れ俺の方へと向かってきた。
けど、俺が落ちていく方が若干早かったみたいで、カムイさんが放った光の何かが俺が落ちてきた場所とすこしズレた場所に着弾した。
ドカーン! と結構な音をたてて、当たったものの着弾した場所には何の変化もない。
ここまできたら、風魔法を使ってもよさげだ。風魔法を使って、落下速度を落としてふわりと地面に下りていく。
「悪い! まさか、すぐにここに来るとか思ってなくてよ。…物理的に穴を開けてみたらどうだ? ってよ。レーザーぶちかましてみたんだが……さすがは、アペルの結界だな。それにタイミングもよかったのか、直撃は免れたようでよかった。…っはー、ドキドキしたぜ」
「ドキドキって、さっきのアレは途中で解除できない代物だったの? っていうかさ。初めて見たんだけど、カムイのああいうの」
打撃とか角からなにか出すとか、その手は何度か見たことがある。あと、剣も使えるし。それ以外は、俺が贈ったピアスでの雷魔法か。
レーザーってあのレーザーで合ってるの? んな技、いつ身に着けてたのさ。てか、持ってたパターン濃厚かもだよね。この感じだと、撃ち慣れてっぽいしさ。
「どの程度の威力かわかんなかったから、当たってもいいようにって…とっさに一番強い結界張っちゃったじゃん」
急すぎたのと、高い場所から落ちた感覚のせいで。
「パニックおこしかけてたな、たしかに」
それです、カムイさん。
「アペルはパニックになると、結界は最強のを使うってことか。…憶えとこ」
カムイさんが、なぜかその部分に関して冷静に分析するように話し出した。
「そういう問題じゃなくて」
とか話している間に、時間が経ったのか。
「ひぎゃあぁああ」
俺と大差ない叫び声を上げながら、サリーくんが落ちてきた。
「…あ」
「お」
落ちてくる様を、俺とカムイさんとで見守る。
「ちょっと、よけて! そこの二人! 潰しちゃ…っうわぁああ」
ジタバタと腕を振りつつ、よけてと言い続けるサリーくんの落下地点に、例の…人がダメになるクッションの特大版を出す。
それから、風魔法で落下速度を調整して…っと。
「カムイ! もう、何も撃たないでよ?」
「わかってるって」
落下速度を調整したのに、思ったよりも結構な勢いでクッションの上にボヨンと落ちてクッションにめり込んだサリーくん。
「大丈夫?」
「生きてるか? サリー」
ちょっと離れた場所で待機していた俺とカムイさんは、サリーくんの方へと駆け寄っていく。
「うぅうううう…」
サリーくんにしては珍しく、グッタリしてて。俺とカムイさんに声をかけられて視線を向けてきたものの、どんよりって感じだ。
「もしかしてだけど、高いとこ苦手だった?」
俺と一緒かなと、聞いてみる。
カムイさんがサリーくんに向かって手を差し出す。と、それにおずおずと手を伸ばしてつかまるサリーくん。
「高いことっていうか、単にここまでとは思ってなくて」
それは俺も同意だ。
「高いってわかってたら、全然問題なかったのに。…カッコ悪いとこ見せちゃって、恥ずかしいっす」
でも、サリーくんは高いとこってわかってたら平気なのか。そこは俺とは違うんだな。
「サリーよりも、アペルが落ちてきた時の顔と声の方がすごかったけどな」
そんなサリーくんにカムイさんが何を言い出すかと思ったら、俺と比べるとか…ひどい。
「そこまで言わなくたっていいじゃん」
「いやいや、ひどかったって」
多分、コレ、ワザとだな。なんだかんだ言いながらも、カムイさんってサリーくんを可愛がってるから。
俺を比較対象にして、元気出せってことでしょ? まあ、この程度の比較だったら許せるけど。
「カムイが落っこちた時だって、ひどかったんじゃないの? もしかして」
でも、悔しくないってわけじゃないんで、すこしだけ意趣返し。
「滅多に聞けない声だったよね、カムイも」
ふふんという感じで、腕を組みつつそう言えば、カムイさんが俺を見下ろして。
「お前もガキだな」
と、呟いた。
お前”も”という言い方をしたってことは、カムイさんも認めてるってことだな。
「カムイもね」
だから、言葉通りに言い返す。
クツクツと二人で肩で笑って、無事にこうして合流できたのをそっと喜んだ。
「で、アレはなんだ」
カムイさんが闇属性の紐を指さして、聞いてきた。
「あー…アレは念のためっていうかね。コッチから見たら天井部分にあたるんだろうけど、元の場所でいえば地面でしょ? 落ちて来る時に、連絡手段と引きあげられるのかわからなかったけどロープみたいなのを持って下りてみようって思ってね。なんていうか、通り抜けただけで意味をなさない気がしてきた」
そう言いながら、その紐を試しに引っ張ってみる。
「……へ」
思わず変な声が出た。
上から抜けてくるわけでもなく、紐がコッチへと引くことが出来たんだから。
「あの紐が生きているなら、この玉も使えますかね」
いくらか落ち着いたのか、サリーくんがあの玉を取り出した。
ガチャガチャの玉と似た形状の、通信用の玉だ。
「どうだろ。…とりあえず使ってみないことには、何が有効か無効かわかんないな。紐…引っ張ってみたけど、ジャンの方で握ってないのか、握ってるけどあの天井を挟んで紐と握ってる対象者の感覚が違うのかもだ。…えっと、三回連続で引っ張ったら、思いきり引いてってギリギリで言っといたんだけど…っと」
話をしながら、思いきり三回引っ張ってみた。
何の音もなく静かだ。
「アペル。その紐はお前の闇魔法なんだろ? じゃあ、終わりはないってことか? 引っ張りすぎたら、終わりが落っこちてきてオシマイとか…ないだろうな」
「それはないけど、向こうの状況がイマイチつかめないね」
「俺、もう一発撃ってみるか? レーザー」
カムイさんにしては珍しく、焦れている様子だ。
「んー……、いや、ちょっとだけ待って。鑑定してみるから、あの周辺。その間にさ、サリーはそれで通信できないか何回か試してみて」
「了解! でも、なんかここの場所って、違和感ないっすか? ザワッとするっていうか」
なんだろう。ザワッとするっていう、その謎の直感みたいなの。
俺にはよくわからないけど、今までいろんな場所で戦ってきたり怪しい場所や対象者を調べたりしてきたんだろう…サリーくん(※元・ナンバーズNo.7)だからこそ感じる何かなのかな。
その手の経験は圧倒的に不足している自負があるから、安易に合ってるとも違うとも返さない。
(それくらいは、弁えてるよ)
「なんかこう…うまく言葉に出来なくて申し訳ないんすけどね。……なんだろ、これ」
サリーくんが、玉を発動する前に何度も手を握っては開いたりして、どこかに視線を向けては首をかしげている。
「……ん? 鑑定しにくい。なんだろ、この場所。何かに邪魔されてる? 一部は鑑定可能だったけど、いつもとはなんか違うね。ここ。サリーが言う、違和感ってこういうことも含んでるの?」
と、俺が聞いてみれば、サリーくんは難しい顔をして紐がぶら下がったままの天井を見上げていた。
「あそこ」
紐がぶら下がっている場所を指さして、「あるようで、なくない? アペル」と険しい顔つきになるサリーくん。
「一部がさ、土じゃなく幻影魔法か? あれ。だから、特定の重さ限定で落下できる仕組みになってるんじゃ?」
サリーくんって、鑑定とかその手のものに紐づく魔法…できるんだっけ? そんな話を聞いた記憶があったか?
(うーん…、あの二人の能力についての情報って、まだまだ足りてないはずなんだよな)
俺が把握していないだけで、実はもっといろいろあるんだろう。じゃなきゃ、ナンバーズなんてやってなかったはずだろ?
ジャンさんのあの風魔法だって、俺が知ってるのは猫舌の家族のために使っているってだけのものだけど、それ以上の何かがあってもおかしくないはず。
すこしずつ明かしてくれようとしているんなら、ツッコミは後でまとめてするとして、さっきのことを別にしても何も言わずに様子を見ていよう。
「この通信用の玉なんだけど、無反応だ。……どうやってジャンさんに、この状態を知らせようか」
無反応だと言いながら、その玉を俺の方に放ってきた。
「じゃ、俺も試してみるね。…………あ、ホントだ。この状態じゃ、心配性のジャンがヤキモキしていそうな想像しか出来ないんだけど」
と、俺が言えば「同意」とサリーくん。
「魔力が通りにくいっていう感覚だな、これ」
そしてまた、手を何度も握っては開いてを繰り返す。
「特定の魔法限定って感じもするな、これは」
鑑定じゃないな、サリーくんのコレ。やっぱり経験から導き出されたものかもしれない。
「んー……」
サリーくんがすこしうなってから、俺とカムイさんの方をチラッと盗み見てきた。
見るなら堂々と見てきてもよくない?
「なんだ、サリー」
俺と同じことを思っていたんだろうカムイさんの方が、俺よりも先にツッコミを入れる。
「言いたいことなんかあるのか? それか、打開策か」
「いや、あるっていうか、ないっていうか」
俺たちの方から視線をズラして、何か言いにくそうにしている。
でも、この状況下ではそういうのは逆に邪魔になる。打てるかもしれない手段があるなら、声に出してくれなきゃ。
「手段があるなら、言って? このままここにい続けるわけにはいかないし、ジャンだけほったらかしにしたくない。ここから出る、もしくはこの場所から出入りできるかもしれない方法があるなら、試せることは試すべき。…違う?」
この場所に連れて来た責任者でもあるけど、全員を俺のそばに行くと決めたのは俺。
なら、俺自身がその手段を持っていなくても、協力を仰ぐために声を上げなきゃ。
「ちょっと出し惜しみしてたことがあって」
と口にした時点で、過去に鑑定した彼らのステータス画面の中で、その先に進まず、あえて目を通さなかった彼の能力のことだと気づいた。
「普通の魔法がダメなら、他の魔法に近いものを試してみようかと」
特にツッコミも入れず、ニッコリ微笑みだけにして。
「サリーが経験上、これも試すべきと感じたのなら、やってみて? まかせるよ。それとも、出来れば隠したままにしたかった?」
と聞けば、自分が隠してきたことを自覚してしまったんだろうか。
どこか気まずそうに、目をそらす。
「俺から言うことは、それだけ。どうするかは、サリーにまかせるよ。何もやらないなら、次の手を考えなきゃだから…無理だって思うなら言ってほしい。無理強いをする気もないから、サリーが決めて?」
上でサリーくんがちょっとやらかしちゃったことの挽回を、こういう形で…と思ったわけじゃないけど、彼に任せることであの後から抱えてただろう彼の気持ちを軽く出来るかもしれない。
そんな気持ちも含みつつ、サリーくんに託してみた。
「……俺でいいの?」
ポツッと呟く彼の表情は、どこか子どもみたいだ。
それと思ったのは、(やっぱりな。らしくないこと言い出したし)ってあたり。
「サリーだから任せられるんだよ。…ただ、何をするのかは教えておいて?」
念を押すように、繰り返し伝える。
すると、すこし間があった後に、サリーくんには珍しく少し小声で。
「精霊魔法っていうのがあるんだ」
と、大きな体でもじもじしながら呟く。
「精霊魔法? 普通の属性のとは違うんだ」
初めて聞いた魔法の種類に、首をかしげる。でも、横にいるカムイさんは知っているのか態度が変わらない。
「自分の魔力を使う魔法とは違って、属性とは全く違うとは言い切れないんだけど、土なら土の精霊の力を借りるっていう…魔法の力の根源が違ってくる。だから、自分の手持ちの魔法に阻害がかかっていても、精霊の力が及ぶところだったなら魔法が通るかもしれない。…精霊とのやりとりをしてみなきゃなんだけど、ひとまずそれが通じるか…精霊を簡易召喚っていうのをしてみてもいいかな」
これは、この世界に来て初めてのパターンだ。
「うん。どうやるのか見てみたい。精霊魔法…。精霊か。俺にも視えるといいんだけど」
「視えるかどうかは、召喚してみなきゃだから、大丈夫って安易に言ってあげられなくてごめん」
「ううん、いいよ。なんとなく言いたいことはわかるから」
俺がそう言うと、サリーくんがどこかホッとしたように息を吐き「じゃあ、始めるね」と呟いたと同時に両手を合わせた。その姿はまるで、祈りだ。
彼が何かを小声で呟きはじめると、合わせた手の間が白く淡く光り出す。
最初は両手の間が淡く光る程度だったそれが、呪文かなにかを呟きつづけているうちに徐々にその光の濃さと大きさを増していった。
合掌するように合わせた手を包み込むほどの光量まで増えた瞬間、ゆっくりとその手を開いていく。
手のひらに光が丸く集まって、手のひらのちょっと上にホワンと浮いているように見える。
そうして出来た光の球体が、姿を変えだす。ぐにゅぐにゅと形が歪んできたなと思ったら、ぽふっという小さな破裂音に近い音をさせながらその姿を現した。
「ちょっとー、サリ。召喚しなさすぎ。アタシのこと、なんだと思ってるのよっ」
光を纏いつつ、小さな羽根で羽ばたきながらサリーくんに文句を言い続けている人型をしたモノ。
「悪かったってー。ワザとじゃなかったんだよ。…今度お詫びするから、許してくんない?」
と、ちょっと驚き、カムイさんと互いを見合ってからサリーくんの方をもう一度見る。
(口調が、俺たちが知ってるサリーくんじゃない。年相応にチャラいって感じだ。…え? どういうこと?)
「ん…もう! サリだから許すけどっ! もうちょっとかまってくれなきゃ、泣いちゃうから」
「泣かさないようにするよ。…ごめんね? ほんとに。大好きだから、機嫌直してよ」
「……ズルいんだから、サリは。……って、なに? アンタたち」
やっと視界に入れたようだ、俺たち。
(っていうか、一応視認できてる。これも俺が大賢者だからなのか?)
「…ふん。なんだ、アイツか」
様子見をしている俺の横から、謎の言葉が聞こえた。カムイさんの声で。
(アイツ? ってことは、カムイさんもこの精霊らしいのを知ってるってこと?)
カムイさんへの疑問をどうにかしたいところではあるけれど、優先順位はそれが先じゃない。
「こら、ライラ。そういう呼び方しないの。…俺がすごくお世話になってる人たち。だから、ライラがそういう態度を取るのは…困るし、寂しいかな。二人に紹介したいんだよね、ライラを」
そんな感じでサリーくんがライラという精霊に説明をすると、彼女は口を尖らせながら俺やカムイさんのまわりをふわふわと飛びまわって観察しはじめた。
「ふーん…アンタたちがねー。サリをお世話…。ふぅん。……サリの方がお世話してる…の間違いじゃないの?」
俺の方を見ては、明らかにどこか呆れた感じで。それからカムイさんの方へ至近距離まで近寄ったと思えば、くん…と鼻を鳴らした。
そして、一瞬でサリーくんの背中へと飛んでいって、カムイさんから隠れるようにサリーくんの背中に張りついた。
「え? ライラ? どうしたの? 出ておいでよ。そんな恥ずかしがり屋じゃないだろ? ちゃんと挨拶してほしいのに、どうしてそんな態度とるの?」
窘めるような口調で精霊に話しかけるサリーくん。
「だって…さすがに…モゴモゴ…」
「え? なに? ライラ、とにかく俺の背中から離れてくれるよね?」
やんわりと、優しい声色でサリーくんが話しかけると、「…はぁい」と渋々という感じがありありとわかる表情を浮かべながら、サリーくんの胸元へとふわりと飛んでいった。
「…うん、ライラはいい子だね。…はい、挨拶して? こっちがアペルで、こっちがカムイさん。…この子が、俺が召喚できる精霊の一人で、光の精霊のライラです。体は小さいですけど、中級精霊なので力は相当強い方かと」
「へえ。精霊にも、中級とかの等級があるんだ。サリーがそんなにいうんなら、すごいんだろうね。…こんにちは、アペルです。出来れば…力になって欲しいんですけど、どうでしょうか」
ペコリと頭を軽く下げて、敬意を表す。
俺のイメージの精霊ってプライドが高いってのがあるからね。念のためで。
「サリ…が、お願い…するなら」
と、ライラという精霊が返事をしてくれつつも、俺を見ていないのはわかりやすいほどにわかった。
サリーくんの胸元に戻って以降、彼女の視線の先がカムイさんにしか向いていないからだ。
そのことにサリーくんが気づいていない感じはしないけど、口にしないのには理由があるのかな。
そして、彼女から視線を向けられているカムイさんといえば、憮然とした顔で彼女を見つめていた。
「……じゃあ、お願いしてもいい? あそこなんだけど、仕掛けてあるものを解除って出来る?」
サリーくんの視線は二人の間あたりに向いていた様子ではあるけど、やっぱりツッコミはなしなのかな。
闇属性の紐があるあたりを、サリーくんが指さす。
「じゃ、近づいてみるね? もしも解除出来そうだったら、そのまま解除してもいいのね? サリ」
彼女が羽ばたき、ふわりと宙に高く舞ってあの場所まで近づいていく。
「まかせるよ」
サリーくんがにっこりと微笑んで、手をヒラヒラと軽く振る。
どこかホッとした表情になった彼女が、その場所にあっという間にたどり着く。
「……え? こんなのに引っかかってたの? みんな」
高めの彼女の声は、やたら響くし通る。
引っかかったといえば、たった一人しか該当しないんだけどな…とか思いつつも、サリーくんと一緒に苦笑いを浮かべる。
カムイさんといえば、腕組みをして、どこか偉そうに仁王立ちしていて。
「じゃあ、解除するわよ?」
「うん。お願いね、ライラ」
そのカムイさんの態度と、彼女がさっきまでカムイさんを気にしていたのが引っかかり、チラッと横目で見る。
それから、彼女が解除してくれるだろうそこへと視線を向けて。
「ジャンさん、連絡付けられてないけど…心配が過ぎておかしな行動に走ってなきゃいいですね」
一緒にその場所を見上げていたサリーくんがそう呟いたのに、また別の苦笑いを浮かべる。
彼女が何かを呟くと、その場所に俺が作る魔方陣とは形式が違う陣が浮かんで、天井のその部分を大きく囲った。
「…はぁっ!」
そこへと別の魔力か、光の球体を彼女が投げつけた瞬間。
「あ!」
「お!」
「おぉ…」
通路の幅に見合った大きさの、長方形の穴がポコッと開いた。
それが開いた瞬間、一応予想の範囲内ではあったけど、やっぱりなことが起きる。
「え? え? えぇえええ? ちょ…待って!」
俺が置いてきたつるはしを使って、穴でも開けようとしていたのか、ジャンさんが勢いよく振りかぶった勢いそのままに落っこちてきた。
昔のテレビで、こんな感じの見たことあったような。
ほら…なんだっけ。ものすごく細かいモノマネしたら落ちるやつ。
「ジャン! つるはし、放り投げて! 危ない!」
大声で叫ぶ俺。と同時にあのクッションの準備と、風魔法で落下速度を落として…と。
(そういえば、風魔法は使えるんだな。ここ)
選ばれた魔法の種類に首をかしげつつ、落ちてくるジャンさんをクッションの方まで迎えに行く。
サリーくんといえば、ジャンさんが放り投げたつるはしを拾いに向かってくれてて。
「全員、無事で何よりっすね」
そのままヒョイとつるはしの先の方を肩にのせて、ニカッて笑いながら戻ってきた。
天井だった場所を仰ぎ見れば、さっきまでは誰かが落ちた後には穴がふさがっていたように見えたのに。
「完全に穴が開きっぱなしになったな、今度は」
カムイさんが呟いたように、長方形の穴が開いたままになってしまっている。
「あれはあれで、どうにかしなきゃ…か。ここにこういう場所があるなら、階段もしくは転移陣でもつけるとか?」
通路目いっぱいの穴だけに、今後を考えなきゃあの先には行きにくくなってしまう。
「でも、ここに初めて来た時以降、入り口隠しといたけどさ。その後に人の手が入った形跡はなかった。…ここを明かすなら、そういうのは余計に必要で、そうじゃないなら俺たちだけでも十分な方法でいい気もするんだよね。…カムイは、どう思う?」
洞窟の入り口を開いてからの様子を思い浮かべねがら、話を振る。
「それもそうだな。…ま、それも今回いろいろ探ってみて、見つかる素材次第か」
あごに手をやり、うーん…と唸りながらカムイさんが呟く。
「…かね。その辺の判断は、カムイの方が適任でしょ? 俺はそれに合った方法を考えるから」
そうなんだ。素材探しに来たのに、なにも見つけられていないんだ。
「この場所で使える魔法の属性探しつつ…、使える魔法で対処するよ。それと、特定の魔法が阻害されている原因もちゃんと調べなきゃ。理由があってそうしているなら、元に戻すっていうのも選択肢に入れなきゃ」
「あー…まあ、それもたしかにな」
カムイさんと話を詰めていると、二人が少し離れた場所で俺たちを見ていた。
「ん? なーに? 二人とも。気づいたこととかあったら、話に入ってきていいのに。…特になにもない?」
そう話しかけた俺を見て、ジャンさんが口を開いた。
「素材探しの前に、ちょっと話をする時間を作りませんか? 俺たちの今後のために」
そう話を切り出しながら、その視線の先にはあの精霊・ライラがいた。
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