54 / 60
「それでも、アイシテル」 2 #ルート:S
しおりを挟む~ジークムント視点~
ひなは今にも目を覚ましそうなのに、モゾりと動いただけで起きる気配がなくなってしまった。
「とりあえず、部屋に寝かそう」
「ああ、そうだな」
ひなをそっと抱きあげて、腕に感じる重みと体温にやっとホッとできた気がする。
生きている。そばにいる。その事実が、たまらなく嬉しくて愛おしい。
「ナーヴ!」
シファルが弾けたような声を出して、いつの間にか下に降りていたナーヴに駆け寄る。
「なんだよ、シファ」
こっちは、心底ウザそうな顔をしているし。まぁ、いつも通りといえばいつも通りだ。
「もう、部屋から出てさ。こっちに来れるよね」
「…あー、まぁ、瘴気もなくなったしな。なるべく顔出すけど、期待すんなよ」
「うん!」
さっきの感じからして、シファルはカルナークとのつながりがそれなりに深かったように見えたけど、ナーヴとも俺が思っていたより仲が良かったんだな。
思っていたよりも、シファルは誰相手でも人当たりがいいってことなのかも。
なんとなく大人しめと決めつけてシファルを見ていたんだと、こんな時になって自分を知った。
まわりを見ていたようで、本当は見えていなかったものが多かったのかもしれないなんて自嘲する。
「あぁ、アレク」
「ん? なんだ、ナーヴ」
「あとで報告書書くのって、どっち?」
といいながら、ナーヴが俺とアレクを指さす。
「今回は俺が書くか。…ジークは、そのまま陽向と一緒にいろ」
「え? 今までその手は俺の仕事だったじゃん」
そういう俺に、まるで兄貴みたいな笑顔で。
「陽向が目を覚ました時に、最初に顔を見たいのはお前の…だろ? きっと」
なんていう。
ひなを抱きあげた俺と、プラス三人と。並んで一緒に歩き出す。
いつもいたはずのカルとは、もう一緒に歩けないんだと改めて感じた。
父親でもある国王にちらりと視線を向けると、何も言わずにそのまま前を通り過ぎるのを許してくれる。
本来であれば、一言だけでも挨拶と状況説明あって然りな状態だから。
「後ほど、報告書を」
とだけ告げて頭を下げたアレクにも、手をスッとあげるのみ。
正直、かなり助かる。疲労困憊って感じだしね。
――あの痛みは本当に体が引き裂かれそうなほどに痛くって、痛みがなくなったはずなのにすぐに思い出せそうなほど。
痛みの記憶はカンタンに消えない。消せない。
その痛みの中、得られたものは大きかった。
腕の中で眠るひなが、死ななかったことと、元の世界にも戻らなかったこと。
それと、ひなを一番愛している人として俺が選ばれたという事実。
そればかりはステータスにも出ないモノだったろうけど、一体どういう風に選ばれたのか不思議だ。
カルはカルの愛し方で、ひなのことを相当愛していたはず。
それも相当重たい愛だったんじゃないかと思うだけに、あの時にカルが自分の愛が認められなくてショックを受けたのも、俺なら理解できる。
カルがいた場所は、もしかしたら…俺の場所だったかもしれないと思えるだけに余計に理解ってしまう。
いつものように、いつものひなの部屋へ。
慣れた感じで、体を少し起こしてベッドに寝かせる。
人差し指の背で頬を撫でると、ひなはくすぐったそうに首をすくめた。
(…可愛いな)
思わず顔がゆるんでしまう。
「ジーク、顔が危ない」
なんてナーヴが言うもんだから、とっさに顔をそむける。
どうせ、しまりない顔になっていたって言いたいんだろ?
「さ…て、と。ついでにここで話をしてしまおうか、ジーク」
とアレクが切り出し、ドアのそばにいたメイドに手をあげて指示を出す。
程なくして軽食を含めてお茶の準備が整い、俺たち以外は部屋から退室した。
浄化に関係する4人での報告会みたいなもんだよね、これって。
ひなが起きたら云々は俺がベッドに飛んでけばいいし、他の連中はその後にってだけの話だ。…うん。
実質ひなも浄化のメンバーなんだから、うるさくしなきゃいいだけだしさ。
仲間外れみたいになるの、本当は嫌だったんだよな。……うるさくて起きちゃったら、許してくれるかな。ひな
「これを使わせてもらう。すべてをメモするのも、なかなか骨な作業になるからな」
アレクがそう言いながらテーブルの上に置いたのは、つるんとした光の球みたいなもの。
「記録するもの、だったか? ナーヴ」
「時間がなくて今ここにあるのは音声のみだけど、そのうち映像つきのを完成させるから」
ナーヴがそういいながら、指先に魔力をまとわせて球に触れた。
「…ん。いいよ、始めても」
「まずは、被害が少なく、かつ浄化が無事に終わったようだな。ナーヴが普通に過ごせているのが、その証拠だな」
アレクがそういえば「俺は瘴気感知役じゃねえよ」といかにも面白くなさげに、ナーヴが紅茶に手をつける。
「あの陽向の姿は、もう一人の…と単純に考えていいのか? それと言葉のままならば、浄化にまつわる懸案事項がなくなるということで…いいのか? ジーク」
二人でちらりとひなの方を振り返り、俺はそのままの格好で「ああ」とだけ返す。
「もしも瘴気が生まれて人に影響が出そうだったら、それを浄化してくれるってことなんだと思う。それこそ、永続的に。あの言葉を……信じたらね」
―――アレも…コレも、どっちもひなで。
召喚のことで同じことが繰り返されることは望んでいなかったひならしい願いといえば、なんとも優しいエンディングだなとは思うけどさ。
「今後、また瘴気が発生することでも起きない限り、本当に浄化されるのかを確かめられないからね。どれくらい時が過ぎて、信じててよかったなってなるのかなぁ」
ふう…と胸の奥にある重いものを吐き出す。
「結局、アッチのひなが言っていたように、聖女という…国民でも王族でも何でもない全くの他人に、すべての責任をおしつけ苦労だけ与えて、お礼のように与えてきたのが」
シファルがそう言えば、
「聖女としての、名誉。それがメインだろう? だから、聖女って称号がついているだけで持ち上げたり、出来なきゃ下げまくったりしていた教会の態度が、一番明確だよな。そんなもん、誰だってしたくねえよ。拉致軟禁の上に労働なわけだから。しかも、欲しいなんて言ったことない称号をやるからって、それで帳消しになると思っている時点でかなり狂ってる話だよな。……今までそれを当たり前なんだと疑いもせず、今回アイツを召喚した。俺たちみんなが犯した罪を、アイツが尻拭いして、今後同じことがないようにと対策までしてきた。何百年とかけて、何も手を打たなかったことを、わずか数か月の間で」
ナーヴが辛辣な物言いで、自分含めて全員を詰る。
「それがわかってたから、俺はアイツが依頼してきたことをなるべく具現化してやった。瘴気がなくなるなら、俺も生きられるし、話に乗るほかはなかったな。浄化に光属性が必要なのはわかっていても、どう絡めれば浄化につながるのかは、本当にギリギリのタイミングで聞けててよかった。まるで、こうなるってわかってたみたいで、聖女の力かなんか知らないけど、すげぇなって思った。素直に」
真剣な顔つきでそう呟いてから、ベッドに眠るひなの方へと目を向けたナーヴ。
「……それなんだよね」
と、シファルがひなとの会話を思い出しながら、そう話し出した。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
世界のピンチが救われるまで本能に従ってはいけません!!〜少年聖女と獣人騎士の攻防戦〜
アマンダ
恋愛
「世界を救ってほしい!でも女ってバレないで!!」
え?どういうこと!?オカマな女神からの無茶ぶりに応え、男の子のフリをして―――異世界転移をしたミコト。頼れる愉快な仲間たちと共に世界を救う7つの至宝探しの旅へ…ってなんかお仲間の獣人騎士様がどんどん過保護になっていくのですが!?
“運命の番い”を求めてるんでしょ?ひと目見たらすぐにわかるんでしょ?じゃあ番いじゃない私に構わないで!そんなに優しくしないでください!!
全力で逃げようとする聖女vs本能に従い追いかける騎士の攻防!運命のいたずらに負けることなく世界を救えるのか…!?
運命の番いを探し求めてる獣人騎士様を好きになっちゃった女の子と、番いじゃない&恋愛対象でもないはずの少年に手を出したくて仕方がない!!獣人騎士の、理性と本能の間で揺れ動くハイテンションラブコメディ!!
7/24より、第4章 海の都編 開始です!
他サイト様でも連載しています。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる