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grace 4  #ルート:S

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あたしを好きだと告げて消えたカルナーク。

魔力を自分で操作できるようにし、瘴気を吸収する速度をあげて、あたしが生きられる可能性を……。

(やっぱり未来は変えられないの? 予定は未定じゃなくて、決定なの?)

泣きたいのに泣けなくて、震えながら二人を見上げるしか出来ない。

ジークがあたしをジッとみて、頭をガリッと乱暴に掻いたかと思えば、アレックスに「ダメだ、これ」とため息を吐く。

「声も映像も、ずっとONの状態だ。……おい、カル。聞こえてんだろ? お前」

あたしを介して、カルナークに話しかける。

「お前はひなに関すること全部把握するつもりなんだろうけどな、こっちだってこのままひなを好き勝手させるつもりはねえからな」

そう言ってから、あたしの頬にキスを一つ。

「ひなは、お前のものにはならねぇし、させるつもりは一切ないから」

キスをしたそのままの位置に、頬をすり寄せてまるで甘えているみたいにくっついてきた。

そのまま腕を回して、ギュッと離さないよとでも言いたげに強く抱きしめてくれる。

肩にジークの頭が乗って、その重みとあたたかさにすこしホッとしちゃう。

自分のそばには力になってくれる人がという事実に。

「……陽向、すまなかった。幽閉したものの、アイツの魔力を封じる腕輪がすぐに用意できなくてな。入れていた場所にもその手の効果があるものが使われていたんだが、それ以上の魔力で破壊したようで。アイツの魔力も魔力の量も、相当なものだったから。……本当にすまない」

そう呟くアレックスが眉間にしわを寄せて、両手をこぶしの形にして強く握りしめている。

強く…強く……。

一度は受けた死の宣告めいたそれ。でも、生きるための方法を探そうと決めて、みんなと一緒に生きたいと心に決めて。

(ああ……。どうあっても、ここには死ぬために喚ばれたということになってしまうのかな)

浄化のために聖女にされているのに。

(――そうだよ。浄化……。浄化はどうするつもりでいるんだろう、カルナーク。あたしに瘴気を集めさせ、ストレスを与えてさらに速度を上げさせて。……好きだと告げた相手=あたしが死ぬことをカルナークが……望むだろうか)

一度死ぬかもしれないって考えたことがあったからのかな。

死が怖くないわけじゃないけれど、おかしいと思ったことから目をそらさずにいられている。

もしも本当に何もかもを失うとしたって、不確かなものをそのままにしておきたくないや。

アレックスに視線を向けて、あたしに触れてほしいと示す。

急のことで頭から抜けていたけど、話が全部筒抜けになるわけじゃない。

『アレックス。話をしよう、これからのことを』

アレックスのスキル、念話しか使えないのがもどかしいけど。

『……俺自身すら忘れていたのに、よく思い出したな』

『あたしも忘れていたけど、そういえばってさ。……力になってくれるでしょ? パパ』

アレックスと念話で話していたら、肩に乗っかっていたジークが体を起こして。

『俺のこと忘れないでいてくれる? 二人とも』

と、拗ねた口調のジークが話に入ってきた。

『これって、カルナークの方には伝わらないよね? 魔力操作の上書きとかされてしまってはいるけれど』

そう聞けば、ジークがまたステータスを確かめて、コクンとうなずいた。

『頭の中まで覗けるスキルとか魔法じゃないみたい。だから、これに関しての対策までは出来ていないんじゃないかな』

だったらまだ、なにもかもを自分一人で考えて動かなきゃってことにはならなさそうだ。

『陽向は、なにか思ったことがあるのか? あるなら、共有させてくれるか?』

の、アレックスの言葉に、さっき頭に浮かんだことを伝える。

『確かにそうだよね。カルがひなのことを好きなんだったら、生きてて一緒にいたいと思うのが普通。……でも、生死にかかわらず一緒にいられたらいいとか思っていたら、話はまた別になるし。…いや、でも……ひなの魔力が好きとかぬかしていたなら、生きていなきゃ魔力には触れられない……ならば……どういうつもりで瘴気吸収速度を最速までにした? ひなが死ぬかもしれないという状態に、どうしてわざわざ持っていく必要が?』

『そこがよくわからなくて』

あたしがそういえば、アレックスがポツリと。

『恋は盲目とかいうんだろう? 陽向の国の言葉で』

合っているようで違うような気もする。どっちかといえば執着とか盲信の類に近い気もする。

『わかんないや。盲目ってほどまで、恋したこと…なかったから』

なんて自虐するように返せば、ジークが子どものように口を尖らせて。

『っていうかさ、さっき起きたことを説明してくれた中に、カルからキスされただの告白されただの。ちっとも嬉しくない情報も含まれていたのに、それについてはなにもないの? ひな』

こんな時に不謹慎かもだけど、妬いたんだと思える言葉をくれる。

『あ……。気にもしてなかった。ごめんなさい』

謝ってみて、改めて考える。

告白されても、心が動く状態でもなかったし、あたしの中にはジークがいたからかな? 気にも留めずに話が出来ちゃったんだよね。

謝ってからあの時を振り返ると、あたしがちっともカルナークへ好意を抱いてないと感じられた。

『……ひな? それって、わざとなの? それとも無自覚?』

ぼんやり考えていたら、ジークにツッコまれる。

『え? なにが?』

と返せば、目の前で真っ赤になってうなだれるジークの姿があって。ジークを見上げていると、視線が合う。

『陽向もジークも、俺って存在を忘れていないだろうな?』

というアレックスの声が脳内に響くまで、何もなくただ見つめあっていた。

申し訳ないけど、アレックスのことは頭になかった。

その状態が、念話を始めた時とは逆だなぁなんて、内心思ったんだ。


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