「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。※ジークムントルート

ハル*

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grace 2  #ルート:S

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禁書庫に向かうまでの道は、あたしからすれば城内散策だっけ? お城の中をうろついているようにしか感じられないんだけど、そこにツッコみを入れてもジークはあいまいにごまかすように笑うだけ。

(これも、説明は後からね…ってひとつなのかな)

ことが終わって生き残れたとして、聞きたいことを全部憶えていられるだろうか。

そうしてウロウロして最後にたどり着いたのは、あの日の書庫。

「ここが最後ね」

と開かれたドアの向こうに、人影が。

「……え」

そこでは、一番会っちゃいけない人が立ち読みしていた。

「ナ……ッ」

反射的に部屋を出ようとしたあたしを、「いい」とだけ告げたナーヴくんの声が止める。

「ちょっとだけ入るの待ってもらえる?」

「いーよ」

とジークが答えると、ナーヴくんが書庫の奥の方へ入っていき、少ししてから机の方に数冊の本を持って戻ってきた。

「どうせ、俺の魔法のこと知ってるしね。お前ら」

ため息まじりにナーヴくんが、人差し指を立て宙に光でなにかを描いていく。

文字のようで文字じゃなさそうで、なんとも不思議な光景だ。

全ての文字がつながったままで、端と端をつなぐように指先をくるりと動かして円を描いた。

円の中に文字が整列し、その円の中心にそっと指をあてて反対の手で指をパチンと鳴らすと。

「ほわあぁあああ……キレイすぎる」

なんて、おかしな声が出るほどにキラキラした……。

「け、っかい?」

なのかな? となんとなく思ったことが口をついた。ハッキリと結界とは書いていないものの、文章の内容がそういう流れのものだ。要約すると、結界…みたいな感じ。

「シファが言ってたこと、ホントなのな? お前、この中の文字の内容、判別できるって」

「え、そうなの? ひな」

「あ……多分? 自信はないけど、なんとなくそうじゃないのかなって浮かんだことを言ってるだけなんだよね」

ナーヴくんの机のまわりを囲むように、淡い光の球体が出来ている。

「現状なら、そっちから近づかないでいてくれれば、この結界でどうにか出来る。っていっても、国を覆うだけとかはさすがに無理だから、やれること全部を明かす気はないけど」

そう言ったと同時に、イスを引き、本を読み始めるナーヴくん。

こないだみたいに、一緒にいたら死ぬとか言わない彼の変化が怖いけど、ここにいてもいいのならいさせてもらおう。

「……さて、と。ナーヴはこっちに来ないようにね」

「行かねえよ。行ったら死んじまう」

「……わかったよ」

二人の会話を横目に、ジークに誘われるがままに奥の方へと進む。

ジークが何冊もの本を出したり戻したりしている。何冊目かわからなくなった頃に、ガコンと大きな音がした。

最後に何かの本の背表紙にあてたジークの指先が、かすかに光って見えた。

本棚が一つ分ズレて出来た空間の奥に、見たことのないドアがある。

ジークに誘われるがままにドアの奥へと進むと、これまで入った書庫とは明らかに違う空気感のある書庫がそこにあった。

「ここが禁書庫。…で、どのあたりの文献を読めとか、啓示みたいなのはあったの?」

聞かれてみて、「いや」とだけ返してから「なんとなくなんだけど」と言葉を続ける。

「これまでの聖女のことと浄化についての文献があれば、答え合わせをしたいの」

「答え合わせ…か。……うん、わかった。それならわかるかも。ちょっとだけ待っててね」

禁書庫の中を何回か行き来して、ジークが二冊の本を手にしてくる。

「ここの本は絶対に持ち出し禁止なのと、メモを取ることも不可。だから何か知りたいことがあっても、記憶していくしか出来ないんだ」

申し訳なさそうにそういいながら、ジークが本を差し出す。

「大丈夫。さっき言った通りで、答え合わせしたいだけだから」

エスコートされながら、離れた場所にある机の方で本を読む。

「時間は気にしないでいいからね、ひな」

ジークの言葉にうなずくだけうなずいて、一冊目の本を開いた。

本を読むのは好きだ。

自分のペースで読みたいものだけ読んでもいい。

時には、そんな本読むんだなんて言われたこともあったけど、好きなジャンルは個人の自由だしなって思えたから気にならなかった。

本を読み進めていくと、これまで夢に出てこなかった聖女の話にも触れられていて。

(どうして夢の中に出てくる聖女と出てこない聖女があったんだろう。まるで、誰かが選んでいたみたいで変な感じがする)

疑問を感じながらも、二冊目に手をつける。

二冊目に入って、瘴気についての説明の中に気になった言葉があった。

元々、瘴気というものは物理的な穢れ=公害みたいなものと、人の心に巣くう邪なものが変化したモノ。

量や瘴気の色が増えたり濃くなって、段階的に悪化していく…と。

人の心の邪なモノの中には、いわゆる悪いことを考えるってだけじゃなく、抱えるストレスもそれに含まれるみたいだ。

シファが言っていたんだ。あたしの中にある瘴気は、あたしがここに来てから抱えはじめた心因的なモノもあるだろう? って。

見知らぬ場所で聖女の立場と役割を押しつけられたこと自体が、あたしに瘴気という形とはいえストレスを抱えるキッカケになったんじゃないかと。

ジークの話を合わせて考えれば、最初にはなかった闇属性の項目とカッコ書きの状態説明について、確かめるたびに等級が上がっていたという話で。

その上がり方が、魔力感知などの成長速度よりもかなりな勢いで等級を上げた…と。

そこまで過度なストレス…では、あったか。あったよね、うん。間違いはないけど、それを爆上げした取っ掛かりは“彼”だ。

それをすることで、彼になんのメリットがあったのかは、現段階では不明。

(アレックスが話を聞けているといいんだけど)

見た目が怖いけれど、なんだかんだ言いながらアレックスは聞き上手だ。

本当に父親か兄にほしいかもしれない。

二冊目を閉じて、長く息を吐いてから一言。

「あそこにある本、読んでもいい?」

机から見える位置にある本棚の一番上。白っぽい本が、あたしを呼んでいる気がした。

夢の中に出てきた光景は、まさしくこの場所だ。

「わかったよ。少しだけ待ってね」

先の本を手渡し、戻してもらってから目当ての本を受け取る。

緊張する、ものすごく。

本を開くと夢の中そのまま白紙ばかりの本だった。

「……え。これ、ひなには何か文字が見えていたりする?」

ジークの戸惑いが伝わってくる。

否定を示すように首を左右に振って、「今から唱える呪文は忘れてね」とだけ告げて、夢に出てきた呪文を唱えた。

『遠き場所からいざなわれし聖女の心を、いざ紐解かん』

呪文の言語は、元いた世界の英語がそれにあたるみたいだ。

唱え終わった刹那、本の中で光る無数の文字が光ったかと思えば、あたしのオデコに向かって吸い込まれていくよう。

痛みも何もなく、ただ単純にまぶしいなと思っただけ。

時間にして短かったんだろうけど、体感的にはすごく長く感じられた。

あたしの体内にある瘴気が集まっている場所、頭頂部がジリジリと太陽に照りつけられたみたいに痛くなる。

「……う、っく」

耐えられず、低く唸る。

「ひな…? 大丈夫?」

声をかけられていることはわかっているけど、顔を上げられない。

一気に入ってきた情報に、瘴気と自分の中にある魔法とがぶつかっている感覚。

(どれだけドMな人ならば、この痛みを心地よく思えるのかしら)

とか呑気なことを考えられるから、きっとあたしはまだ壊れていないはず。

「ジ…ク」

なんとか彼の名を呼び「部屋」とだけ頼む。

「本はもういいの?」の声にも、うなずくしか出来ない。

「ちょっとだけ待ってね」

本を元に戻し、あたしを抱きあげて禁書庫を出る。

仕組みはわからないけど、禁書庫のドアを出て数秒後には、そのドアもズレた本棚も元通りになっていた。

「とにかく、一回部屋で休もうね。ひな」

抱きあげる彼の胸元に、甘えるように顔をすり…っとすると、彼が頭にキスをしたのがわかった。

リップ音がしたのが聞こえちゃうんだもん。

「そういうの、ここを出てからにしてくれない?」

ナーヴくんの呆れたような声を後に、あたしは意識を手離した。


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