44 / 60
grace 1 #ルート:S
しおりを挟む『どうして、なんのために、なにをするために…産まれたの? 人は』
『聖女は浄化のためだけにしか生まれていないの?』
『あたしじゃなきゃいけなかった理由は、あたしの中のどこにあるの?』
『理由なく生きているのは、罪になるの?』
心の奥の奥に、引っかかり続けたこと。
あっちの世界でも、こっちの世界でも、あたしだからそばにいてほしいって誰かに思われたがってた。
頭の中と口から出ていく言葉の量が違いすぎて、待ってくれないまわりに何も言えないままかかわることを諦めて。
柊也兄ちゃんに髪を切ってもらって、軽くなったのは髪だけで、結局学校にはその後行かないことの方が増えて。
高校になんとか合格したものの、形から自分を変えようとした直後にここに召喚され。
みんながあたしの言葉を待ってくれるのも話を聞いてくれるのも、聖女だからなんだろうなと諦めたことを思う反面、こころのどこかで諦めきれなくて。
いざ好意を剝き出しにされても、信じられず。
信じてみたら、こんなことになっているという。
「……だからね、アレックス。カルナークとの訓練はもう終わりにしたいの。それとね」
ジークとの話を経て、あたしたち二人でアレックスの部屋へと向かった。
何でも相談してくれと、頼ってほしいと言ってくれた人。アレックス。
ジークの部屋で発動させた認識阻害の魔法は、ここでは使わない。
あえて聞かせるつもりで、ここでこんな話をしているのだから。
嫌だよとあたしに訴えてきたカルナークに、見ないで聞かないでとお願いをしたけれど、きっとカルナークはやめないと思ってた。
認識阻害の魔法は、スキルは無関係で。ジークの人物鑑定には影響なく、あの場であたしの状態を書き留めることが出来たんだ。
だから、盗聴と盗撮を試みようとしたことについて、実は知っている。
ジークが鑑定をしている最中に、何度か眉間にしわを寄せて「あの野郎」って呟いていたから。
あたしがその声に気づかなかったと思っているのか、ジークからは特に何の話もなかったから黙ったままだけど。
でも認識阻害の魔法を使っておいたことで、こっちの話は聞かれずにすんだよう。
今あえて話をしているのは、カルナークがこれまでにあたしとの訓練の最中にしてきたことの意味と、それで起きてしまった弊害ともいえることを説明したから。
と言っても、この話を本人がちゃんと聞けている精神状態なのかまではわからないものね。
「それと、ジークが鑑定してくれたあたしのステータスについての報告と相談なの」
スッとアレックスの机の上に、さっきの紙を二枚置く。
あたしをチラッと見てから、黙って順に読み進めていくアレックス。
時々目を見張り、あたしを見て、紙へ視線を戻し。……の往復を何度かしてから、大きくため息を吐いた。
「……ジーク。お前、どういうつもりだ。こんな大事なことをずっと黙ったままで」
低く重い声が、静かな部屋に響く。
静かに怒っている、アレックスが。
「そのままにして、その瞬間が来てからじゃ遅いだろう。お前は何を優先したんだ。何を一番…護りたかった。取捨選択するにしても、これは悪手だろう。……それにそんなに俺は、頼りにならないのか?」
ジークが視線を落とし、体の横にあった手がぎゅっとこぶしへと形を変える。
「…………わかってる。間違ってた、って」
眉間にしわを寄せて重く吐き出したその言葉は、心の底からの思いに聞こえた。
「……はあ。とりあえずは、訓練の中止だな。それと、禁書庫だったか、ひな」
「あ、うん。そう聞こえたの、なんでか脳内に」
あたしがそう返すと、ジークとアレックスが互いに視線を交わしうなずく。
「その時期が来たら、聖女だけに伝わると言っていたそのままだな」
「そうだね」
「????」
二人の会話がよくわからない。
「ああ、置き去りにしてすまないな。陽向。今の話についての説明は、出来れば後からにさせてくれ。今は話せないんだ」
アレックスがそういいながら、机を探っているよう。小さくカタカタと何度か音がした。
「鍵は、これだ。ジーク、案内はお前でいいよな? 俺の方でカルナークの方に話をつける」
そう言うアレックスの顔は、笑っているのにどこか怖い。
「バカなことをしたもんだな、カルナークは。…あ、ジーク、アレは持っているのか? 案内するにしても」
「あ、もちろん。常に携帯してるから問題ないよ」
またよくわからない会話が横で交わされているけれど、きっとこれも今はまだ教えてもらえないんだろう。
「それじゃ、やるべきことをやろう。お互いに」
「うん」
「ああ」
三人揃って部屋を出る。
あたしとジークは左に、アレックスは右へ。
別れる前に、アレックスが頭を撫でて謝ってきた。
「俺には足りない能力のせいで、いろいろ気づけてやれなくてすまないな。…俺は陽向のパパなのになぁ」
っていいながら。
「ちょ…、待ってよ! ジークの前でやめて!」
と、アレックスの口を手のひらでふさごうとしたけれど、身長が高いアレックスの口はちょっとジャンプしても届かない位置。
「陽向は小さくて可愛い、俺の大事な娘だ」
って、おかしな誤解を生みそうなセリフを吐いて消えていく。
「……いつ、親子関係に昇格? 降格? したのさ。アレクは」
アレックスがいなくなった後に、禁書庫までの案内中はずっと説明させられて。
「へぇーーーーーーーーー」
怒ってるのか呆れているのかどうなのかわからない返しに、視線を窓の方へ向けながら歩いていた。
「こっち向かないの? ひな」
なんて言われても、どんな顔して向けばいいのかわからなかった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる