「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。※ジークムントルート

ハル*

文字の大きさ
上 下
21 / 60

聖女は、誰が為に在る? 5

しおりを挟む



「まあ、後でじっくりしっかり話させてもらうから。ひとまず許す」

その“ひとまず”が怖すぎる。

「それでさ、ひなが魔力をコントロールするのに、魔力を感知しなきゃいけないのが必須で。そのコントロールの訓練に、カルにも参加してほしいんだよね」

俺? と言いたげに、カルナークが自分を指さす。

アレックスがうなずき、「お前がやらかしたおかげでの副作用みたいなもんだ」とニヤリと笑う。

強面の笑顔、ある意味怖い。

普段はすごくあったかい視線で見てくれるけど、なにかされそうな笑顔に見えてしまう。今日は。

「陽向の魔力だけだと、誰かの魔力に引っ張ってもらってっていうのがなかなか難しいらしい。特殊な魔力だからな。だが、お前は魔力の扱い関係に関しちゃ、相当に巧い。しかも、ちょっとずつ違和感がないように、まわりにもバレないようにと少量ずつ混ぜていった。陽向の体を覆っている魔力の至る所に、カルナークの魔力の痕跡が残っているらしい。ようするに、馴染んでいるから、カルナークがその魔力を操作して、陽向に意識させたりコントロール訓練のサポートをするのに準備万端な状態になっている。……ということだ」

「それと、それだけ馴染ませてあったら、カルがひなのサポートしてても、ひなにかかる負担も少ないだろうし、ひなが上手く扱えなくなった時に抑え込むことも可能だろう? ……ね? 出来るよね? カルだったら」

アレックスの説明の後に、ジークの命令に聞こえなくもないお願いっぽいのが含まれている。

こ、怖い。

カルナークは大丈夫かなと心配になって顔を覗きこめば、意外な顔をしていた。

「……カルナーク?」

キリリと、今まで見たことがない引き締まった表情。

真剣に二人の話を聞いている姿に、驚いた。

自分が怒られているって、やらかしたって、オロオロしているとばかり思っていたから。

「陽向……」

不意にあたしへ体ごと向きを変え、カルナークが頭を下げる。

「悪かった。悪意はなかった。これは本当。嘘じゃない。謝ったからって、やったことが帳消しになるとかぬるいことは望んでいない。陽向に言っていたように、お前の魔力が心地よすぎて、一回触れたら“もっともっと”って陽向の魔力に触れたくなっていって。――――止められなかった俺が悪い。でも……今後は陽向が魔力の訓練をするのに、俺が一番支えてやれる! こんなことになることを望んで馴染ませてきたつもりはなかったけど、陽向の力になれるなら俺の力を使いたいだけ使ってくれ。お前にだったら、俺のすべてをやってもいい!!!」

“お前にだったら、俺のすべてをやってもいい”

「な…………な、んってこと、いうのぉ……」

言い返したいのに、無自覚な爆弾発言の破壊力がすごすぎて、言葉の最後は蚊の鳴いているような声になってしまった。

「…………もう、やだあ」

両手で顔を覆って、三人に顔が見えないように隠す。

こういう台詞に免疫なし、異性にこういう感情を投げつけられたこともない、自分だけ特別扱いをされたこともない。

「カルナークのばかぁ…」

顔の熱が引かない。

「えぇー。なんでばかって言われてるの? 俺」

投下した本人は、ばかと言われた理由をわかっていない。

天然無自覚系ですか、この人。

「……ばか」

もう一回繰り返すと、「よくわかんないけど、ごめん。悪気ないんだよ、ほんと」って困ったような声で呟いた。

どうしていいかわからなくなって、顔を隠したままジークに聞いてみる。

「説明はわかったから……戻ってもいい? お部屋」

一人になりたい。今はこの場所にいるのは、ちょっと耐えられない。

「んー、まあいいけど。カルはまだ話があるから、部屋に帰るなよ」

とジークがいえば「俺が部屋まで送ろう」とアレックスの声がした。

すこし考えた後に、一回だけうなずく。

「顔を見せたくないんだろう? 俺が抱きあげていってやろうな」

なんて優しげな声が聞こえたと同時に、体がふわりと浮く。

これはこれで予想よりも、恥ずかしい。もう、なんでこうなるのー。

「あ、ちょっとアレク。動きがずいぶん早くないか?」

ジークがドアの前に立ちふさがり、部屋に戻るのを止められる。

「今は俺たちの感情よりも、陽向がどうしたいかを優先すべきだろう。それにジークはカルナークとここで待っていてくれた方がいい。部屋へ送っている間に、残りの話をしておいてくれないか」

抱きあげられて、耳のすぐそばでイケボが優しくあたしを護ってくれている。

(夢みたいなイベントが起きている気がする。ボイスレコーダーで撮っておきたいくらいいい声だった)

この場には不謹慎なことを脳内で考えつつ、アレックスの上着の胸元をちょっとだけつまむ。

「お願い、部屋に行かせて?」

胸元のシャツをつかんでいるあたしの手に、アレックスの手が一瞬重なる。片手で抱きあげているたくましさに、すこしドキドキした。

ドアノブに手をかけてアレックスが「すぐに戻る」と告げて、二人が残る部屋を出ていく。

高身長で、もちろん脚が長いアレックスは歩くのも速い。

……のに。

あたしの部屋までが、ずいぶんと遠い気が。

「アレックス?」

顔を隠していた手を外して、間近にあるアレックスの耳元に囁く。

強面の顔が、目が合った瞬間ふにゃりとだらしなく崩れる。

「へ?」

動揺を隠せないあたし。

アレックスって、こんな顔も出来る人だったの?

「自分で歩くよ、やっぱり」

身をよじって降りようとするけれど、たくましい腕の中から降ろしてはもらえないみたいだ。

「俺にまかせて、たまには甘えてくれていいんだからなっ」

すこし弾んだ声で告げたその言葉に、機嫌がいい時のお兄ちゃんを思い出してしまった。

「…………う、ん」

でも、上手に甘えることは出来ないあたしが返せる、精いっぱいの返事がこれだ。

遠回りしたような気がしたものの、部屋にちゃんと送り届けてくれた。

「それじゃ、またな」

ベッドにそっとあたしを運んで、少し乱れた髪を撫でて整えてくれ。

「ありがとう、アレックス」

あたたかくなった胸の奥。その気持ちを笑顔に込めて、感謝を伝えたら。

「イイコにしてるんだぞ?」

耳元で囁かれて、声の余韻が残ったのかと思うような感覚で。

頬に、キスされてた。

ピシリと固まってしまったあたしに気づくことなく、アレックスは鼻歌まじりで部屋を出ていく。

どの人も、日常のあいさつ感覚でいろんなものを投下しないでほしい!

抱えきれない情報を処理しきれないまま、ベッドで意識を手離した。

――――その日の夜。この世界に来て初めて、熱を出した。

気づいたのは、カルナーク。

あたしに馴染ませていた魔力のおかげで、というのは、若干複雑。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された聖女は、愛する恋人との思い出を消すことにした。

石河 翠
恋愛
婚約者である王太子に興味がないと評判の聖女ダナは、冷たい女との結婚は無理だと婚約破棄されてしまう。国外追放となった彼女を助けたのは、美貌の魔術師サリバンだった。 やがて恋人同士になった二人。ある夜、改まったサリバンに呼び出され求婚かと期待したが、彼はダナに自分の願いを叶えてほしいと言ってきた。彼は、ダナが大事な思い出と引き換えに願いを叶えることができる聖女だと知っていたのだ。 失望したダナは思い出を捨てるためにサリバンの願いを叶えることにする。ところがサリバンの願いの内容を知った彼女は彼を幸せにするため賭けに出る。 愛するひとの幸せを願ったヒロインと、世界の平和を願ったヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:4463267)をお借りしています。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

処理中です...