【本編完結】「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。

ハル*

文字の大きさ
上 下
43 / 44

紡ぐ 2

しおりを挟む

 先生との特訓の後、すぐに受験はやってきた。
 そして、合格発表の日も…。

 結論から発表する。

 僕は不合格だった!


 と思ったら、繰り上げ合格になった。

 AO入試でもそんなことあるんだ…。
 私立だからかなぁ。

 実は、不合格になってからも「まだなんか事件が起こって合格になれ!」って念じてた。
 先生の言ってた、メンタルってやつ。
 合格発表後に不合格って書いてあっても落ち込まずに「一般入試じゃ無理なんで、AOで繰り上げ合格する」って念じてた。


 それで、本当に合格しちゃったわけだ。

 自分でも笑っちゃうよ。

 先生に「繰り上げ合格しました!」って報告した。

「そんなの嘘ね。」と先生は僕を信じていなかったみたいだけど、事実だ。

 合格が嬉しくて有頂天の僕は、すぐに理科教員室に向かって、先生に大声で合格の自慢をしたのだった。


「先生。僕、大学合格したんでご褒美もらってもいいですか?」

「ご褒美?まぁ、考えてやらなくもないけど、今すぐは無理よ。一般入試が終わるまで忙しいの。」

 確かに、僕は暇になるけど、これから先生は忙しくなると思う。
 ちょっと寂しいものの、ここは、面倒な子どもだと思われたくないので潔く引くことにした。

「別にいつでもいいんで、お願いします!」



 珍しく、理科教員室に先生1人しかいなかったので本当はこの場に入り浸りたかったのだけれど、先生の周りにはあらゆる書類と荷物が散乱していた。

 多分、相当忙しいのだと思う。

 ちょっと先生、ドライ対応だったし。

 僕は、放課後で人がいない生物室に向かった。

 教室の1番後ろの席に座る。

 今はともかく喜びが大きく、踊り出したい気分である。
 その一方で、大きな不安もある。

 例えば、先生との関係について。

 卒業まで残り何日あるのだろう?
 先生と、学校で会えるのは後何日くらいかな?
 卒業して会えなくなった、僕たちの関係はどうなるのだろうか。



 嬉しさが今は大きいものの、先々のことを考えると、不安になる。
 このままでいたい。

 けれど、時間は止めることができない。

(もう、このままの暮らしのままでいいのに…)

 今まで、特に先生のことを好きになってからは早く卒業したくて、大人になりたくて堪らなかった。だから、時間が早く進めばいいと思っていた。
 それなのに、今は時間が止まって欲しいと思っている。

(僕ってわがままだな…)

 まだ、離れ離れになると決まったわけじゃないのに、先生との別れの事を考えて涙が一粒だけ溢れる。

 センチメンタルな気持ちのまま、僕は生物室に居るともっとセンチメンタルになった。
 だって、ここは、先生とたくさんの時間を過ごした場所だから。

 この場所で、僕は先生を好きになったんだと思う。

 先生とまだ付き合う前のことを、今になってから思い返すと恥ずかしいな。

 一生懸命に、先生に好きアピールをしてた。ちょっと女々しかったかなぁ。
 けれど、先生は僕より想いにこたえてくれた。



 今も充分に子供だけれど、その頃は今よりももっと子供だった。





「だいすき…。」



 呟いてみる。

 誰もいない教室に、僕の小さい声が反響した。


 外は生徒達の声で賑やかだ。

 ただ、この生物室だけが静まり返っている。






「なんか言った?」



「うわぁぁぁっ!」

 突然の声に僕は驚く。

「なんか声が聞こえたんだけど。」

 先生が、教室のドアの隙間からひょっこり顔を覗かせて僕を見ている。


「な、何も言ってないです!」

 本当は言ったけど、僕はシラを切ることにした。なぜなら、恥ずかしいから。


「大好きとかなんとか言ってたよね?」


「聞こえてたんですか…。」

 ちゃんと聞かれていたのか…。

「はい…。言いましたよ。」

「ふーん。」

「興味ないなら聞かないでください。」

「あるよ、もちろん。だって君、目が腫れているし。気になるに決まってるわ。」

 さっきちょっと泣いちゃったから目が腫れていたのかもしれない。

「ちょっと感傷に浸ってたんです。」

「君もそんなことするの?意外すぎるわ。」

「失礼ですね。僕だっておセンチな気分の日もあります!」

「んで、誰のことが好きなわけ?」

 そんなの決まってる…。

 先生は、目をキラキラさせながら僕を見てくる。


「ほら、言ってみてごらん。誰のことかなぁ?」

 先生は、僕を見てニヤニヤしながら生物室に入って来た。

(もう逃げられない…。)

「先生ですよ…。」

 僕が観念して答えると、先生はパッと笑顔になった。
 とても可愛らしいと思った。
 先生はいつもちょっとドライでクールな事が多いから。

「あら、どうも。それで、泣いてたのは?」


 僕は知っている。先生はちょっとしつこい。
 多分、僕が泣いていた理由を知りたがるはず。


「先生とずっと一緒にいたいんです。でも、卒業したら一緒に居られなくなるかもしれないです。端的に言えば、それが不安です。」

「誰も離れるなんて言ってないよね?」

「はい…。でも、不安なんです。先生は忙しいし。何より僕は子供だから。」

「そんな事で泣いたの?本当に子供ね。」

 先生は呆れたように言った。

「大丈夫よ…。」

 先生は、僕が座っている席の前に座って僕の方を向いた。

「絶対に離れないですか?一緒にいられますか?」

「もちろん。」

 微笑む先生が、僕の頭に手を伸ばす。
 優しく頭を撫でてくれる。





「大丈夫。私も君の事が好きだから。」


 先生は、僕にだけ聞こえる小さな声でつぶやいた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

婚約破棄された聖女は、愛する恋人との思い出を消すことにした。

石河 翠
恋愛
婚約者である王太子に興味がないと評判の聖女ダナは、冷たい女との結婚は無理だと婚約破棄されてしまう。国外追放となった彼女を助けたのは、美貌の魔術師サリバンだった。 やがて恋人同士になった二人。ある夜、改まったサリバンに呼び出され求婚かと期待したが、彼はダナに自分の願いを叶えてほしいと言ってきた。彼は、ダナが大事な思い出と引き換えに願いを叶えることができる聖女だと知っていたのだ。 失望したダナは思い出を捨てるためにサリバンの願いを叶えることにする。ところがサリバンの願いの内容を知った彼女は彼を幸せにするため賭けに出る。 愛するひとの幸せを願ったヒロインと、世界の平和を願ったヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:4463267)をお借りしています。

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...