【本編完結】「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。

ハル*

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聖女は、誰が為に在る? 7

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~ジークムント視点~


今後の方針についてアレクとカルとで話し合いをして、カルを先に部屋に戻してからアレクにひなとのことを聞こうと思っていた。

なかなか口を割らないのに、俺にゆるみっぱなしの顔を見せないようにしているせいで、いろんな想像をして苛立ってしまう。

俺らしくなく、心を揺さぶられてしまう。唯一の女の子、ひな。

二人にも言っていないけれど、当事者のひなにだって話せていないことがある。ひなのステータスのことで。

この世界の人間よりも、多くの情報がステータス画面に出ていたひな。

その中に見なかったふりが出来ない項目があった。

俺たちには出たことのない項目だった。

『未来』

と書かれたそれの後に浮き上がって見えたものは、めったに動揺しない俺の表情をカンタンに歪めさせた。

遠巻きに見ていた段階で、すでに勝手に鑑定をしていた。俺。

そこで気になった未来の項目と、文字の上が細い線でぐしゃぐしゃに認識阻害されたようなある項目。

後者は、文字の色が黒に近かったからよくないことが書かれているんだと思う。

知りたいようで知りたくない。でも、状態を文字で認識出来るのはあの中では俺だけのはず。

なら、先手を打つ準備に実働するメンツへの交渉だって可能だろ?

後者の項目がいつすべて確かめられるのかわからないから、ひなと一緒の時には常に開きっぱなしにしがち。

(結構疲れるんだよな、実は)

一緒にいる時間が長ければ長いほど、ちょろちょろと魔力を垂れ流しているってこと。

キツイけど、あの子が抱えてしまうだろう不安要素は、一つでも多く……そしてなるべく早めに消してあげたい。

また、あの日のように笑ってスイーツを食べるひなの顔を見ていたい。

(そう思うのにさ、なんか残酷だよね。未来の項目が)

“死亡予定”※三か月以内←とか書かれてるってのを、変えられるなら変えてしまいたい。

三か月以内にひながいなくなってしまう“かもしれない”

もしかしたらそれが浄化のタイミングなの“かもしれない”

不確かな確信。矛盾してるよ、俺。

“かもしれない”なんてあやふやなものならば、ひなが死なない未来を選べるようにしたい。

俺にひなのステータスが見えていることに、意味があるんじゃないかと思いたい。

その『未来』を変えてみせろって言われているんだって思いたい。

どこの誰かは知らないけれど、舞台を整えてくれようとしてるんだ……ってさ。

なんだかまるで、ひなにこの国を護るための対価を払わせようとしているみたいだろ?

(んなの、おかしいに決まってる)

元の世界にいたら、死ぬかもしれないなんて可能性はゼロに近かったんじゃないのか?

――俺たちの国が、あの子を喚んだ。

そのせいで、あんなに小さな存在が消えてしまう。

笑って楽しく過ごしていただろう日常を奪ってしまったのに。

聖女として彼女に進んでもらうことを、こっちの都合だけで強いた。

帰る場所もない現実に、自分を喚ぶために捧げられる生け贄のこと。

優しいんだろうな、見た目そのまんまで。

これ以上にもこれ以下にも、独りだということを抱えさせたくはない。

大事にしたい、唯一の女の子。

ひなのことを考えていると、一日があっという間に過ぎてしまう。

(俺もかなり重症かもね)

なんて自分を慰めていた時だった。

「陽向がすごい熱を出している。メイドに着替えと医者の手配を頼んだ。今からナーヴとシファルのところにも報告をしてくる。話次第では、シファルを同席させてもらうつもりだ」

ドアを開けて、立ち止まって会話をするのが惜しいような勢いで、彼女の異変について報告をくれた。

アレクと一緒に部屋を出る。

速足で駆けていく間、アレクは一度も口を開かなかった。

ノックをして、メイドを待つ。その時間すら惜しい。

「着替えが完了いたしました。医師は間もなく到着のご予定です」

メイドが俺たちへ、どうぞとドアを開けて誘う。

ベッドを遠巻きに見れば、距離があるのにわかるほどの具合の悪さ。

真っ赤な顔をして、息苦しげに呼吸をしているひなの姿が目に入る。

「拭っても拭っても、ひどい汗で。このままでは脱水症状を起こしてしまいそうで」

いいながら冷たい水が入った桶でタオルを濡らし、きつく絞って顔を拭こうとするメイド。

「貸して?」

手を差し出すと、遠慮がちに手のひらにタオルを乗せてくれた。

「……ありがと。着替えが終わったなら、医師が来るまでは俺たちがやっておくよ。馬車が来たらすぐに行けるように、下がっていていいよ」

なにかを言いかけるように、少しの間、口を何度か開いては閉じて……飲み込んで。

「……かしこまりました。では、何か御座いましたらお呼びください」

と、いつものように下がっていく。

「アレク。もうちょっと体起こしてあげたいんだけど、あっちにあるクッション持ってきて」

「……あぁ」

アレクにしては珍しい表情をしてから、応接セットの方へと急ぐ。

手に4つほどのクッションを持ってきて、二人で協力してひなの体を起こしてやる。

(本当に熱いや。かなりな高熱だな。……どれ、現在のステータスは)

アレクも肌で感じたんだろう。眉間に深いしわが寄ったままだ。

現在のステータスは、頭痛・震え・高熱ありで、まだ脱水症状ではないようだ。

それと、神経衰弱と太めに書かれている。

(多分、これが一番重たい症状ってことかな)

心の病、か。

(そうだよね。ひな、最初の日に泣いていたくらいだもんな。その後は泣いたりしたのを見ていなかったけど、知らない場所で泣いていた可能性だってある。この子は……ひなは…俺たちに比べてまわりに気を使いすぎるし、自分に自信がなさすぎる。未知の場所で、頼れるかどうかわからないものを頼るのは怖いよな。なのに、あの…力が抜けちゃうような笑顔で過ごしてた)

タオルでトントンと軽く押さえるようにして、ひなの汗を拭ってやる。

最後にもう一回タオルを濡らして、硬く絞りなおして。

「アレク。これ、ひなのオデコに乗せといて。俺、氷が足りなそうだから魔法師のところでもらってくる」

アレクに絞ったタオルを放って、部屋を出る。

以前見た、ひなの『未来』の項目。

今日の熱がキッカケではないことを祈りながら、急いで廊下を走っていく。

どうすれば心を軽くしてやれるのか。

答えがわかっているのに、口に出していえない問題にぶつかった気分だった。



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