【本編完結】「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。

ハル*

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聖女は、誰が為に在る? 6

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~カルナーク視点~

ジークから今後のことについて、さっきよりも細かく指示が入る。

何から始めて、どう展開させていくか。どうすれば、陽向が魔力を感覚だけでもいいから認識できるかの可能性について。

ジークが俺が仕掛けておいた魔力に気づいたということも明かしてきた。

本当だったらしばらく起き上がれないくらいにボッコボコにするつもりだったとか、笑い話のように言われた。

あっぶねえ。

これから俺が陽向に対してどう準備を進めるか考えるのを課題として、今日は解散となった。

陽向をあんなに近い部屋に連れていくだけなのになかなか戻ってこなかったアレクに、ジークと二人で焦れていた。

戻ってきたアレクは平静を装っていたつもりだろうけど、俺たちは気づいていた。

陽向といいことでもあったんだな、絶対!

感情を乱せば、魔力が揺らいでしまう。

思うことがあっても、なるべく……な・る・べ・く・だ・け・ど! 感情を爆発させないようにしている。

シファルが魔力を枯渇させたのって、まだまだ幼く、子どもらしく心赴くままにまわりを振り回していたころだったと思う。

正確に原因を知っているわけじゃないけど、シファルの心が揺さぶられるような何かがあったんじゃないかと俺は思っている。

ただ、本人がかなり気にしているのも本当なので、話題にすらあげないようにしている。

シファルのことを考えながら、自室へ向かう廊下を歩いていた俺。

ピピピ……と警告音が小さく脳内に流れる。

(……陽向?)

俺のマーキングは、同時に仕掛けられるのは三人まで。

今のところ、陽向にしか仕掛けていない。

目の前に、廊下の景色に混じって赤の背景色が現れた。

「陽向……!!」

踵を返し、陽向の部屋へと急ぐ。

この警告は、マーキングされた対象者の体調に異常があった時に知らされるものだ。

ドアを勢いよく開けて、その気配のなさに背中に冷たいものが走る。

「ひ…な……た?」

ほんのちょっと歩を進めれば、ぐしゃぐしゃになっている布団の陰に陽向の姿があった。

(いた!…よかった)

ホッとしてベッドを半周して、陽向のそばに近づいた。

仰向けから半身をひねってうつ伏せになりかかったような、中途半端な格好。

顔は伏せ気味で見えない。

「陽向? どうし…た……?」

小声で声をかけ、ねじられたようなその体を仰向けに戻そうとして触れたその体が。

「熱っっ!!!」

酷く熱を持っていて、陽向は浅くて早い呼吸を繰り返すばかりだ。

後から聞いた陽向の国の熱の測り方を試す。

俺の額と陽向の額をくっつけて……。

「ありえん。いつからこんな状態に? アレクがいた時からなら、きっと気づいていたはず」

でも、アレクにしては浮かれていたよな。気づいていなかった可能性はないか?

「いや。そんなことより、早いとこどうにかしてやらなきゃ」

呼び鈴でメイドを呼び、医者の手配と着替えの準備をさせる。

「他のやつらには、俺から報告をしてくる。悪いが、ひとまず陽向のことを頼む。医者が来るまでには戻る」

とだけ告げて、行儀悪く廊下を走っていった。

予想通りといえば予想通りなんだが、ナーヴは「また倒れたのか」とこっちを見もしないで本をめくっていた。

俺からすれば、聖女だろうとしても人間なんだから具合が悪くなったって責める理由にはならないということで。

ナーヴは他の誰よりも瘴気に耐性がなく、現段階で森の中までの瘴気が村はずれまで来てしまえば一人だけ隔離されて過ごさなければ生きられない。

聖女の召喚によって、さっさと瘴気を浄化してもらわなければ、常に生きるか死ぬかの日々に放り込まれてしまう。

わからなくはない。すべての思いを共有は出来ずとも、死の恐怖が常にあるのは誰だって怖いさ。

陽向の成長=ナーヴが普段通りに過ごせることにつながる。

「苦しいことは嫌だって、一番知っているナーヴにこそ、見知らぬ世界で慣れない生活環境の中で過ごす陽向のキツさを理解してやってほしいのにな。っていうか、一番の理解者になれそうなのに」

と、そこまで口にしてみて、チリッと胸の中が痛んだ。

最初とか一番とかは、俺がもらいたい。出来ればだけど。

今のところは、陽向に生まれて初めて告白した相手は俺。

他の称号だって欲しいに決まっている。

ジークとアレクは一緒にいて、俺からの報告を聞いてすぐに部屋へと向かっていく。

最後に、「シファル、いるか」と勢いよくドアを開けたら。

いつものようにけだるげに本棚の前にいて。

「陽向がすごい熱を出してて」

「そうか」

「医者を呼んでいるけど、在庫があるならいつものアレ、出せないか?」

「アレは、こっちの世界の人間用の薬だろうが。彼女の体に合うものか、副作用は出ないか。何も確かめもせずに出すことは賛成できないな」

と言い切った。

シファルは魔力が少なくなって以降、他にやれることを探すまでに時間がかかりはしたけど、薬学を学んで俺たちのサポートに回るようになった。

独学で研究をし、薬草を掛け合わせて、新しい薬をいくつも作ってきたシファル。

「だったら、医者と一緒に陽向を診ることは可能か?」

俺には出来ない、してやれないこと。埋められない知識量。

今回に限っていえば、他力にすがることを躊躇っている暇はない。俺の矜持より、優先順位は高い。

シファルは手にしていた本を閉じて、机の上にある別の本を手にする。

「一応、診るだけね。診てみなきゃ、どうするかは答えられない。無責任な発言は、この場では控えておくよ」

そう言いながら、俺と並んで部屋を出る。

――――陽向は、聖女だ。

でも、俺たちと同じ人間でもあるはずだ。

「俺が出来ることがあれば言ってくれ」

速足で駆けていく中でシファルに声をかけると、何も言わずにまっすぐ遠くを見つめていた。

陽向の味方がもう一人増えてくれと願いながら、廊下の角を曲がった。



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