18 / 44
聖女は、誰が為に在る? 3
しおりを挟む寝かかって、目が開かない状態のあたしを見てきたからか、カルナークに目のことは知られていなかったのに。
「今日はこいつも一緒に学びの時間とする」
いつもの司祭のおじいちゃんはいなくて、誰かの部屋に連れていかれた先にジークとアレックスとカルナークがいた。
カルナークは二人に睨まれながら、ソファーに座っている。顔色が悪い。
「カルナーク、顔色悪いのに一緒にやらせるの?」
アレックスにそう聞けば、「自業自得だから」と顎でカルナークを指す。
「ひな」
最近ジークがあたしを呼ぶ時の言い方だ。
「ん?」
「これに、あれを外して入れて? カルもこっち側に巻き込むことにしたからさ」
と、見慣れた聖水の瓶と器を渡される。
「え……、いいの? 本当に?」
味方が増えるのはいいけど、大丈夫かな。
「不安かもしれないけど、カルは君の見た目をどうこう言わないだろ。多分」
確かにそうかもしれないけれど、でも……。
「はい。鏡も渡すから、カルの向かいに座ってから外して見せてやって」
ジークは考えなしに決めたわけじゃなさそうだ。
話し方がチャラい時はあるとはいえ、この二人はこの一か月の中でいつもあたしを優先しようとしてくれた。
「……それじゃ、信じて…やる、ね?」
カルナークの向かいに座り、器に聖水を先に入れておき。
鏡を見ながら、あたしが指先を目に近づけた時、カルナークが「…ひ、な……っ」と動揺をそのままに声をあげた。
ぺろっと目からはがれて、指先にあるカラコン。
反対も同じように外していく。指先に少しだけ聖水をつけて、指先から滴らせて目に落とす。目薬っぽい。
「陽向……?」
黒目のあたしを、驚きを隠すことない表情で見つめるカルナークがそこにいる。
「あたし、ピンクの目じゃないの。本当は」
沈黙が痛い。緊張する。これ、目をそらしたらダメでしょうかね。
しばし見つめあって、カルナークが胸の中の空気を一気に吐き出す。
「はあ…ーーーー」
って。
「がっかり、した? カルナーク」
両手をすりあわせるようにして、もじもじしながら質問する。聞かずにはいられないや。
「聖女の色じゃないし、さ。ニセモノっぽいし、さ。嫌だよ……ね?」
自分の中の不安を、そのまま言葉にしてしまう。
「ご、ごめんね? びっくりしたよね? あの……あたし…」
自分が悪いことをしたわけでもないのに、重ねてしまう。
言い訳めいたものや謝罪っぽい言葉たちを。
耐えきれなくなって、カルナークから視線を外した。次の瞬間だった。
カルナークが立ち上がり、テーブルを回ってあたしの左横へとしゃがんだ。
「陽向!」
勢いのいいその声に、びくんと体が反応して反射的に目を閉じてしまう。
すり合わせていた両手を包み込むように、カルナークの両手が重ねられて。
「可愛い!!!!!! 好きだ!」
思いもよらない言葉に、目を見張ってカルナークから距離を取ってしまった。
「逃げるな! 可愛いから!」
よくわからない誉め言葉に、どうしていいのかわからなくなって。
「アレックスぅ……」
お兄さん的な空気のあるアレックスに助けを求める。
「あー、うん。はい、はい」
めんどくさそうなのに、どこか声は笑ってて。
「やっぱ、カルには聖女どうこうはさほど浸透していないね」
ジークが、ふわりと笑ってみせる。
「ひな」
「あ、はい!」
穏やかな声で名前を呼ばれて、逆に緊張感が走った。
学校の先生みたいな感じで。
「カルは、巻き込める。だから有効活用しようと思ってね」
と、説明を始めてくれる。
「カルは、俺たちの中で魔力の制御する能力が高い方なんだよ。それを使わせてもらおうかと思ってさ」
魔力の制御力。
こうして話を聞いている間にも、カルナークはあたしの手を握って離そうとしない。
「カルナーク。お前に確かめたいことがあるが、いいか」
アレックスがカルナークに話しかけると、うなずいたままで、なぜかあたしの横に座りだすカルナーク。
そのまま話を聞くつもりなの?
「カル。お前、ひなに自分の魔力混ぜ込んでいるだろ」
ジークがものすごくいい笑顔で、カルナークにそう告げた。
(……これって)
万が一に備えて不問にしてきたことだよね? 今明かすの?
カルナークの体が、まるでギシッと音が鳴ったように揺れて固まる。
ゆっくりとジークを見上げるカルナークは、今にも泣きだしそう。
「好き勝手しやがって。俺のひなに」
ジークがそう言った瞬間、カルナークと声が重なる。
「「えええ???」」
まるっきり同じ声をあげて、互いに目を合わせ、一緒にジークを見上げる。
「いつ! いつ、そんなことになったんだよ! 俺は知らない! そんなこと聞いてない!」
「あ、あたしだって、誰かのモノになった記憶ないもん! いつなったの? 知らないうちになにかしたの?」
カルナークに言い訳をしているようで、なんか変な気分。
「え? ひな、カルのモノだったの?」
ジークが、冷えた声でそう言うので、とっさに包み込まれていた手を離す。
手をブンブン左右に勢いよく振って、違うと伝える。
「まだ、誰のモノにもなってませんっっ!」
大きな声でそう宣言したら、「それじゃあ」とジークがその言葉に続けて。
「俺の、にする。ひなの世界の、早い者勝ちシステムで!」
こんなことにまでも使うの? と思えることを言い出す。
「ダメダメダメダメェエエエ! それは、早い者勝ちシステム使っちゃダメッ!」
混乱したまま、どうにかしてジークの無茶苦茶なそれを止めようとするけど。
「あー……、そう…だよね。俺なんか、ダメだよね。ひなの好みじゃないよね、きっと」
今度は自分を下げたことを言い出すし。
「違う違うっ! ジークはいい人だよ? かっこいいし、イケメンだし、イケボだし。えーとそれから……甘い囁きが得意でしょ? それと……それと……背も高いし、頭も多分いいし、目がきれいで」
好みさておき、ジークにもいいところあるって言いたかっただけなのに。
「そんなに褒めてくれるってことは、俺のこと好きってことでしょ? やっと、俺に落ちてくれた?」
あの日の言葉を繰り返し、嬉しそうに腕を広げてあたしが抱きつくのを待つ格好をする。
「ち、違っ」
首を振り、違うと伝えているのに、横にはあたしの袖を引っ張って泣き出しそうなカルナークがいて。
「ア、アレックス! 助けて」
ぐちゃぐちゃな状態にどうしようもなくなって、助けを求めたのにもかかわらず。
「楽しくやっていけそうで、なによりだ」
誰よりも呑気な言葉で返してくれた。
「アレックスのばかぁっ!」
あたしが泣きそうになりながらそう怒鳴りつけると、ジークがカルナークと反対側に跪いていて。
「こんなに好意を寄せられて、応えないのは男として恥にしかならない。だから、ひなは俺の!」
あたしの右手を取って、手の甲に恭しくキスをした。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
婚約破棄された聖女は、愛する恋人との思い出を消すことにした。
石河 翠
恋愛
婚約者である王太子に興味がないと評判の聖女ダナは、冷たい女との結婚は無理だと婚約破棄されてしまう。国外追放となった彼女を助けたのは、美貌の魔術師サリバンだった。
やがて恋人同士になった二人。ある夜、改まったサリバンに呼び出され求婚かと期待したが、彼はダナに自分の願いを叶えてほしいと言ってきた。彼は、ダナが大事な思い出と引き換えに願いを叶えることができる聖女だと知っていたのだ。
失望したダナは思い出を捨てるためにサリバンの願いを叶えることにする。ところがサリバンの願いの内容を知った彼女は彼を幸せにするため賭けに出る。
愛するひとの幸せを願ったヒロインと、世界の平和を願ったヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:4463267)をお借りしています。



私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる