【本編完結】「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。

ハル*

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聖女は、誰が為に在る? 3

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寝かかって、目が開かない状態のあたしを見てきたからか、カルナークに目のことは知られていなかったのに。

「今日はこいつも一緒に学びの時間とする」

いつもの司祭のおじいちゃんはいなくて、誰かの部屋に連れていかれた先にジークとアレックスとカルナークがいた。

カルナークは二人に睨まれながら、ソファーに座っている。顔色が悪い。

「カルナーク、顔色悪いのに一緒にやらせるの?」

アレックスにそう聞けば、「自業自得だから」と顎でカルナークを指す。

「ひな」

最近ジークがあたしを呼ぶ時の言い方だ。

「ん?」

「これに、あれを外して入れて? カルもこっち側に巻き込むことにしたからさ」

と、見慣れた聖水の瓶と器を渡される。

「え……、いいの? 本当に?」

味方が増えるのはいいけど、大丈夫かな。

「不安かもしれないけど、カルは君の見た目をどうこう言わないだろ。多分」

確かにそうかもしれないけれど、でも……。

「はい。鏡も渡すから、カルの向かいに座ってから外して見せてやって」

ジークは考えなしに決めたわけじゃなさそうだ。

話し方がチャラい時はあるとはいえ、この二人はこの一か月の中でいつもあたしを優先しようとしてくれた。

「……それじゃ、信じて…やる、ね?」

カルナークの向かいに座り、器に聖水を先に入れておき。

鏡を見ながら、あたしが指先を目に近づけた時、カルナークが「…ひ、な……っ」と動揺をそのままに声をあげた。

ぺろっと目からはがれて、指先にあるカラコン。

反対も同じように外していく。指先に少しだけ聖水をつけて、指先から滴らせて目に落とす。目薬っぽい。

「陽向……?」

黒目のあたしを、驚きを隠すことない表情で見つめるカルナークがそこにいる。

「あたし、ピンクの目じゃないの。本当は」

沈黙が痛い。緊張する。これ、目をそらしたらダメでしょうかね。

しばし見つめあって、カルナークが胸の中の空気を一気に吐き出す。

「はあ…ーーーー」

って。

「がっかり、した? カルナーク」

両手をすりあわせるようにして、もじもじしながら質問する。聞かずにはいられないや。

「聖女の色じゃないし、さ。ニセモノっぽいし、さ。嫌だよ……ね?」

自分の中の不安を、そのまま言葉にしてしまう。

「ご、ごめんね? びっくりしたよね? あの……あたし…」

自分が悪いことをしたわけでもないのに、重ねてしまう。

言い訳めいたものや謝罪っぽい言葉たちを。

耐えきれなくなって、カルナークから視線を外した。次の瞬間だった。

カルナークが立ち上がり、テーブルを回ってあたしの左横へとしゃがんだ。

「陽向!」

勢いのいいその声に、びくんと体が反応して反射的に目を閉じてしまう。

すり合わせていた両手を包み込むように、カルナークの両手が重ねられて。

「可愛い!!!!!! 好きだ!」

思いもよらない言葉に、目を見張ってカルナークから距離を取ってしまった。

「逃げるな! 可愛いから!」

よくわからない誉め言葉に、どうしていいのかわからなくなって。

「アレックスぅ……」

お兄さん的な空気のあるアレックスに助けを求める。

「あー、うん。はい、はい」

めんどくさそうなのに、どこか声は笑ってて。

「やっぱ、カルには聖女どうこうはさほど浸透していないね」

ジークが、ふわりと笑ってみせる。

「ひな」

「あ、はい!」

穏やかな声で名前を呼ばれて、逆に緊張感が走った。

学校の先生みたいな感じで。

「カルは、巻き込める。だから有効活用しようと思ってね」

と、説明を始めてくれる。

「カルは、俺たちの中で魔力の制御する能力が高い方なんだよ。それを使わせてもらおうかと思ってさ」

魔力の制御力。

こうして話を聞いている間にも、カルナークはあたしの手を握って離そうとしない。

「カルナーク。お前に確かめたいことがあるが、いいか」

アレックスがカルナークに話しかけると、うなずいたままで、なぜかあたしの横に座りだすカルナーク。

そのまま話を聞くつもりなの?

「カル。お前、ひなに自分の魔力混ぜ込んでいるだろ」

ジークがものすごくいい笑顔で、カルナークにそう告げた。

(……これって)

万が一に備えて不問にしてきたことだよね? 今明かすの?

カルナークの体が、まるでギシッと音が鳴ったように揺れて固まる。

ゆっくりとジークを見上げるカルナークは、今にも泣きだしそう。

「好き勝手しやがって。俺のひなに」

ジークがそう言った瞬間、カルナークと声が重なる。

「「えええ???」」

まるっきり同じ声をあげて、互いに目を合わせ、一緒にジークを見上げる。

「いつ! いつ、そんなことになったんだよ! 俺は知らない! そんなこと聞いてない!」

「あ、あたしだって、誰かのモノになった記憶ないもん! いつなったの? 知らないうちになにかしたの?」

カルナークに言い訳をしているようで、なんか変な気分。

「え? ひな、カルのモノだったの?」

ジークが、冷えた声でそう言うので、とっさに包み込まれていた手を離す。

手をブンブン左右に勢いよく振って、違うと伝える。

「まだ、誰のモノにもなってませんっっ!」

大きな声でそう宣言したら、「それじゃあ」とジークがその言葉に続けて。

「俺の、にする。ひなの世界の、早い者勝ちシステムで!」

こんなことにまでも使うの? と思えることを言い出す。

「ダメダメダメダメェエエエ! それは、早い者勝ちシステム使っちゃダメッ!」

混乱したまま、どうにかしてジークの無茶苦茶なそれを止めようとするけど。

「あー……、そう…だよね。俺なんか、ダメだよね。ひなの好みじゃないよね、きっと」

今度は自分を下げたことを言い出すし。

「違う違うっ! ジークはいい人だよ? かっこいいし、イケメンだし、イケボだし。えーとそれから……甘い囁きが得意でしょ? それと……それと……背も高いし、頭も多分いいし、目がきれいで」

好みさておき、ジークにもいいところあるって言いたかっただけなのに。

「そんなに褒めてくれるってことは、俺のこと好きってことでしょ? やっと、俺に落ちてくれた?」

あの日の言葉を繰り返し、嬉しそうに腕を広げてあたしが抱きつくのを待つ格好をする。

「ち、違っ」

首を振り、違うと伝えているのに、横にはあたしの袖を引っ張って泣き出しそうなカルナークがいて。

「ア、アレックス! 助けて」

ぐちゃぐちゃな状態にどうしようもなくなって、助けを求めたのにもかかわらず。

「楽しくやっていけそうで、なによりだ」

誰よりも呑気な言葉で返してくれた。

「アレックスのばかぁっ!」

あたしが泣きそうになりながらそう怒鳴りつけると、ジークがカルナークと反対側に跪いていて。

「こんなに好意を寄せられて、応えないのは男として恥にしかならない。だから、ひなは俺の!」

あたしの右手を取って、手の甲に恭しくキスをした。

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