【本編完結】「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。

ハル*

文字の大きさ
上 下
15 / 44

聖女の色持ちではないんですがね 14

しおりを挟む





『ちなみに…なんだけど、髪の色ってどうして違うの? 目みたいにかぶせているんじゃないんでしょ?』

と質問が続く。

『脱色っていって、髪の色を抜く薬剤をかけて金髪にしたの。髪が伸びてきたら、元の黒髪にちょっとずつ戻ってしまうの』

そう念話で返せば「それはまずいな」とアレックスが呟くのが聞こえた。

なにがだろうと思いつつ、アレックスの方をジッと見ていると。

「見すぎだよ。陽向の可愛い目で見つめるのは、俺だけにしてほしいな」

なんて……低く響くいい声で、そんなことを言わないでほしいのに。

『陽向』

脳内で名前だけ呼ばれて視線を彼へと向ければ。

『聖女の色持ちじゃないけど、違う形での聖女だって、ステータスには出ているよ。ただ……』

新しい情報が飛び出した。

脳内で、“NEW!”とか付いていそう。

『ただ?』

最後の言葉を拾い、彼へと問う。

すると『一部の文字の上に邪魔がいる』と、不思議な状況を伝えてくる。

『邪魔……?』

そう聞き返しても、目の前の彼はへらりと笑ってみせるだけだ。

「陽向」

今度はハッキリと耳に入る声で呼ばれる。

「ん?」

同じように声に出して返せば、握っているあたしの手を強く握りなおしてからこういった。

「俺に落ちてよ」

笑顔のまま、囁くような声で。

囁きの瞬間だけ、顔を近づけて。

その手のことに免疫がないあたしは、冗談なんだろうと内心で思っていても反応してしまうんだ。

真っ赤になって視線をそらしたあたしに、アレックスの声で。

『ジークは冗談が好きだ』

と、真面目そうな声色で脳内に響く。

『アレク。邪魔しないでってば、もう』

まるで冗談みたいなやりとりが続く。ただし、脳内でのみ。

こっちでこのやりとりっていうことは、今の台詞はそのままにするっていうことなのかな。

二人が何を考えて動いているのかわからないけど、今は流されるがままにいた方がいい気がした。

『見えないステータスへの干渉は、俺には出来なさそうだな。試してみたけど』

話をしながら、いつの間にか試してくれていたジーク。

ステータスに干渉って、どうやってやるんだろう。

この世界の魔法について、あたしは何も知らないようなものだ。

彼らにはそれぞれに何らかのスキルがあるみたいなのはわかったけどね。

『……お前、そんな無茶するな。場合によっては、自分が喰われるぞ』

アレックスの、どこか心配げな声がして。

「俺、本気で陽向に好意を抱いてるから、覚悟してね」

言いながら、またへらりと笑っているのに。

『陽向のためだったら、無茶出来るよ。俺。結構、マジだから』

アレックスの心配なんか気にもせずに、表も裏もであたしへの好意を伝えてきた。

(どうしよう。さっきカルナークにも告白されたばかりなのに、耐性がなさ過ぎて体が勝手に過剰反応しちゃう)

告白のようなそれに、またドキドキが止まらない。

真っ赤になってうつむき、どこを見たらいいのかわからずに視線を彷徨わせていたら。

「はぁ? 俺より先に告白したの? カルのくせに」

と、思ったよりも怒らせてしまったよう。

思わずさっきされた告白を思い出してしまったばかりに、カルナークに飛び火させてしまったみたい。

「あ、あの……さ」

言っていいのか迷ったけれど、二人に詰め寄られているカルナークしか浮かばなくて。

「カルナーク、いじめないで? ……おねがい」

小首をかしげながら二人を交互に見つめる。

沈黙が続いた後に、アレックスがぽつりと。

「今の台詞、カルナークが聞いたら喜びそうだな」

と呟く。

するとジークが、右の口角だけを軽く上げてから。

「あいつは今、どっちも完全に閉じてる状態だから、聞いてもいないし喜んでもいない。絶対に教えてやらない。陽向がなんて言ったかなんて」

ざまあみろと最後につけて、顔をそむけた。

「それはそれとしてさ、陽向」

すぐに顔をまたこちらへと向け、手を離す。

カルナークのスキルが発動してないのがわかったからか。

「どんなものかわからないとしても、ひとまず聖女としての儀式のための勉強っていうのを受けてみない?」

ジークがそう言えば、横にいるアレックスも「そうだな」と同意する。

「髪の色はすぐにバレないとしても、目は? みんなにこのことを明かすの? それとも明かさずにさっきみたいにして嘘をつくの?」

そこまで数があるわけじゃないから、いつまでも騙せない。カラコンの使いまわしなんてしたくないし。

「どうしたら、使い続けられるのか。もしくは、似たようなものが出来ないかとか、目の色を変化させるアイテムを作る……だよね。さっきのは、ずっと使っていたらダメなの?」

ジークに指で×を作って見せて、「衛生的に無理」と返す。

リュックの中からカラコンのストックを取り出す。

「ピンクのが、残り9回分。薄い緑のが、10回分」

「……どうしたら、使いまわせるんだ」

アレックスに聞かれて「基本的に使い捨て仕様だよ」とだけ返す。

いろいろ劣化もするらしいし、なにより不衛生だ。場合によっては失明する可能性だってある。

「じゃあ、短期決戦……か」

アレックスが、こぶしを口元に持っていき小さく唸る。

短期決戦とはいうものの、聖女の勉強ってそんなに簡単に憶えられるものなのかな。

不安が胸の中にじくじくと傷のように広がっていく。

「あたしって、一体、何が出来る聖女なんだろう」

聖女は聖女らしいけど、望まれている聖女の能力じゃなかったら?

「うー……ん。言っていいのかわからないんだけどさ、能力が成長する早さに難ありって出てるんだよね」

「早さ?」

能力について悩んでいたら、別の悩みを増やされそうな予感がする。

「こっちの言葉にはないものなんだけど、意味わかる? “大器晩成型”って何?」

大器晩成かぁー……。

「それはないなー」

思ったよりも前途多難な現実を知らされてしまった。

「ごめんなさい。短期決戦は出来なさそうです」

「……え」

「は……」

二人の反応が、思いのほか驚きを隠せていなくて。

(一番ショックなのはあたしなんだけど)

内心そんなことを思いつつ、浄化自体が叶えられる気がしなかった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

婚約破棄された聖女は、愛する恋人との思い出を消すことにした。

石河 翠
恋愛
婚約者である王太子に興味がないと評判の聖女ダナは、冷たい女との結婚は無理だと婚約破棄されてしまう。国外追放となった彼女を助けたのは、美貌の魔術師サリバンだった。 やがて恋人同士になった二人。ある夜、改まったサリバンに呼び出され求婚かと期待したが、彼はダナに自分の願いを叶えてほしいと言ってきた。彼は、ダナが大事な思い出と引き換えに願いを叶えることができる聖女だと知っていたのだ。 失望したダナは思い出を捨てるためにサリバンの願いを叶えることにする。ところがサリバンの願いの内容を知った彼女は彼を幸せにするため賭けに出る。 愛するひとの幸せを願ったヒロインと、世界の平和を願ったヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:4463267)をお借りしています。

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...