【本編完結】「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。

ハル*

文字の大きさ
上 下
10 / 44

聖女の色持ちではないんですがね 10

しおりを挟む



心地よかったといいながら、頬を赤らめる男の子が目の前にいる。

嬉しそうにしているのはいいんだけど、ほっとくとそのうち口元を手のひらで押さえて何かを堪えているように体を震わせているんだ。

(これって、一体どういう状態だって思ったらいいの?)

魔力はあると言われた。

彼のスキルで、それがわかったんだということも。

「……そんなにわかりやすい揺らぎだったの? カルナークがわかるほどって」

素直にそう聞けば、「いや」とだけ返すものの、あたしを何度かチラチラ見る割にその先を言ってくれない。

「教えて!」

願うように手を祈りの形にして、カルナークを見つめる。

「怒らない?」

こっちを見ず、うつむいたり頭をかいたり、手をあっちこっちにさまよわせてみたり。

「言わなきゃ、怒るかも!」

怒らない条件を示せば「卑怯だろ」とため息まじりに呟いてから。

「先に謝る。……申し訳ない」

と、頭を下げてきた。

彼の行動と発言に首をかしげていると「マーキング」と聞いたことがあるワードが聞こえた。

「マーキング?」

あまりいい意味合いに取れないんだけどと思いつつ、言葉の続きを待つ。

「さっき、俺をベッドに連れていこうとした時、お前の魔力に触れた」

赤くなったり青くなった彼の体調を心配して、ベッドに寝かせようとした時の話だな。

「俺の手を握ったお前の手から、魔力の揺らぎが感じられて。本当に俺のことを心配してくれているのがわかって。それで」

「……うん」

「それで……」

「うん」

「あの…………俺の魔力を、ほんのちょっとだけ…本当にちょっとだけ……混ぜて、馴染ませた」

「?????」

魔力を、相手の魔力に混ぜて、馴染ませた。

「……ら? どうなるの?」

この世界のそのへんの定義なんかわからないのに、中途半端で話をやめないでほしい。

「その、魔力が混ざると」

「混ざると」

「……悪意はなかった。本当だ。悪意はなかったんだ。とっさにやってしまったんだ」

「それはいいから、教えて!」

「相手の状態や位置が、大まかにだけど……わかる」

状態や、位置。

「って、GPS機能! え? ちょっと待って、それって」

防犯カメラはなかったけど、あたしがもうすぐ起きそうだとかがわかってた?

「それと、その、声なんかも、聞こえたり」

どんどん声が小さくなっていくカルナーク。

「声、聞いて……たの?」

あたし、起きてからなにか話していたっけ。

「お腹空いたって、聞こえて……それで」

「あ! あぁ!!」

それだ。

食べたいもの、食べたい順に並べてた! 脳内じゃなく、声に出して。

「わからない食べ物ばかりだったから、最後に言っていたのだけなら何とかと思って、生活魔法を使ってすぐ食材に火を通して作って……持ってきた」

それで、か。

野菜いっぱいのスープがあのタイミングでなんて、都合がよすぎる展開だって思ったもの。

「そ、っか」

悪意はなかったって言った。聞き間違えていないはず。

「とっさに、って?」

そうしたかった理由が、何かあった?

あの短い時間で、それをすればどうなるかを知っている本人がそれをした。

「どうして?」

繰り返し聞けば、「……かった、んだ」と途切れ途切れの言葉だけが耳に入ってくる。

「カル……」

名前を呼びかけた瞬間、髪色にも近いほどに真っ赤になったカルナークが立ち上がり。

「魔力がっ! 心地よかったんだ! 触れたいって思ったんだよ! お前に!」

怒鳴るような勢いでそこまで言ってから、最後に。

「好きだって思ったんだよ! お前の魔力に一目惚れしたんだよ! 悪いか!」

爆弾を投下するだけして、トレイを持ってあっという間に部屋から出て行ってしまった。

「…………聞き間違い?」

今のは何だったんだろう。

思い出す。つい今しがた落とされた爆弾発言を。

「好き。魔力が。一目惚れ。……触れたい…あたし、に」

思い出した順に、確かめるように口からこぼれていく。

魔力にって言われても、あたしにはどんな魔力があるのかわからない。

ネット小説とかだと、誰かに好かれる魔法は魅了の魔法だよね。

「え、知らないうちに魅了の魔法でもかけていた……とか?」

形がないものを知ることが出来ないもどかしさ。

「でも、そんなものでもなければ、あたしが誰かに好かれるなんて」

これまでの自分を振り返ってみても、どこにも誰かに好かれる要素が思い出せない。

告白自体。

「今のって、もしかして……生まれて初めての…告白……」

言葉にしてしまえば、それがどんなことかを思い知る。

「告白……うそ、だぁ」

ゆっくりと立ち上がり、鏡の前に向かう。

姿かたちを好きになったわけじゃないとわかっているのに、自分を見つめずにはいられない。

鏡に手をあてて、鏡の中の自分と手を合わせる。

「あたしが? 誰かに?」

考えなきゃいけないことばかりなのに、もうひとつ悩みが増えてしまった。

「もしも魅了の魔法だったら、どうしたらいいんだろう。……カルナークに、悪いこと、しちゃったんじゃないのかな」

体を反転させて、鏡に背を預ける。

天井を仰ぎ見て、胸の奥の重さを吐き出す。

「……はあ。どれから片付けたらいいの?」

眠った方がいいはずなのに、あたしはそのまま床に座ったままで朝を迎える。

太陽が部屋を白く照らしはじめたことに気づいていても、立ち上がらずに。

静かな時間だけが過ぎていく中で、頭に浮かんだのは。

「スープ、美味しかったんだよね。すっごく」

キッカケが何であれ、カルナークがあたしを想って作ってくれたかもしれないスープのことで。

「カルナーク……聞こえてる? ね……、聞こえていたら、あたしの顔を見なくてもいいから…食べさせてくれない…かな」

癒してくれたあの味を、確かめたいなと思ったことだった。

きっと部屋を出てからの呟きも聞かれていたんだろう。

あたしと会うのは、恥ずかしくて嫌かもしれない。

魅了の魔法がかかっていたら、その心情はどんなものなのか。

(わかんない。わかんないよ、カルナーク)

だから。

……だから。

「カルナークがくれた想い、もう一回確かめたいんだ」

願うように、祈るように、聞こえますようにと呟いた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

婚約破棄された聖女は、愛する恋人との思い出を消すことにした。

石河 翠
恋愛
婚約者である王太子に興味がないと評判の聖女ダナは、冷たい女との結婚は無理だと婚約破棄されてしまう。国外追放となった彼女を助けたのは、美貌の魔術師サリバンだった。 やがて恋人同士になった二人。ある夜、改まったサリバンに呼び出され求婚かと期待したが、彼はダナに自分の願いを叶えてほしいと言ってきた。彼は、ダナが大事な思い出と引き換えに願いを叶えることができる聖女だと知っていたのだ。 失望したダナは思い出を捨てるためにサリバンの願いを叶えることにする。ところがサリバンの願いの内容を知った彼女は彼を幸せにするため賭けに出る。 愛するひとの幸せを願ったヒロインと、世界の平和を願ったヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:4463267)をお借りしています。

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

王命により泣く泣く婚約させられましたが、婚約破棄されたので喜んで出て行きます。

十条沙良
恋愛
「僕にはお前など必要ない。婚約破棄だ。」と、怒鳴られました。国は滅んだ。

処理中です...