【本編完結】「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。

ハル*

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聖女の色持ちではないんですがね 8

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どれくらいの時間、眠れたんだろう。

横になってすぐは咳が時々出てしまい、体を完全に起こしたり咳をしすぎてフラフラしながらベッドに倒れこんだり。

うとうとしながら、少しだけど眠れた気がした。

「静かだな」

ベッドからおりて、窓際へと歩いていく。

大きな窓すぎて、カーテンがめちゃくちゃ重たいや。

カーテンとカーテンの隙間に頭を突っ込んで、窓の外の景色を眺め見る。

地球ではないということがハッキリわかった。

「月がこんなに大きく見えるなんて」

月……で合っているのか不確かだけど、それっぽいものがまるで山のように視界いっぱいにあって。

不意にすぐそばにある窓のレバーを下ろす。そのまま、外へと押せば、バルコニーに出られるみたいだ。

裸足のままで、ヒタヒタと足音をさせながらバルコニーに出てみる。

「冬ではないみたいだな。夏……でもないし」

そもそもで季節の概念があるのかも、不明。

早いところ情報を集めなきゃ、いろんな意味で不安が多すぎる。

さっきの5人が、どういう立場の人たちなのかとか、なんであたしの部屋に来たのかとか。

召喚した時のことや、あたしの立場が一番偉いって言っていたことについての説明も欲しい。

「あぁ、お腹も空いてきた。さっきはおやつの時間みたいなものだったしなぁ。この場所での食事がどんなものなのか知りたいなぁ」

お腹が控えめにクウ…と鳴る。

「ハンバーグ、唐揚げ、ママが握ったおにぎり、お味噌汁。ファストフードいろいろ」

今の自分を満たせそうなものが、口からボロボロ出てきちゃう。

「野菜いっぱいのスープでもいいんだけど、こんな時間に食事なんか出ないよね」

はあ…とため息をつき、空を仰ぐ。

星がきれいだ。

星座は一緒なのかな、もしかして。

見覚えがある星の並びを見つけて、他にないかと視線を彷徨わせる。

北斗七星をみつけて、その近くにはこぐま座がある。

こぐま座は、北を指し示す星座だったよね。

道に迷っても、あの星座を見つけたらそっちに行けば北なんじゃなかったかな。

「道に迷っても、か」

中学校では、友人関係を拡げられなかった。

いちいち迷ってばかりで、迷っているうちにまわりはどんどん先に行ってしまっていた。

出来上がっていたグループには、簡単に入れない。

タイミングがつかめなかっただけで大人しい人扱いで、暗いよねって決めつけられる。

何をするでもなく本を読んでいたら、人の輪に入る気がないだの、本を読んでいる割にテストが出来ていないだの。

イメージがひとり歩きされて、そうじゃないと見てもらおうと思っても、話に割り込んでくる女の子たちに違う話題に変えられてしまったり。

「高校では、元気なキャラでって思っていたのにな。練習、台無しだ」

練習している時点で、本当の自分じゃない。

でも、なりたい自分でもある。

「なれると……思いたかった、のにな」

うつむくと、自然と顔にかかる金髪。

美容室で金髪になった自分を見た時、ものすごくテンションが上がった。

形から入ったとしたって、変われる気持ちが強くなったもん。

でも、ここは知らないドコカ。

揺らいでしまう、簡単に。

いつもそばにいた人は、誰もいない。

とりあえず、黒髪のアレはさておき、二人は話を聞いてくれそうな。

こういう話は、最初が肝心っていうよね。

みんなが決めつけている聖女の色について、ごまかさずに話したい。

話をして、聖女じゃないんだったらってなっても、あの二人なら何らかの提案をしてくれそう。

「でも、本当に信じていいのか…迷う」

矛盾しているけど、これも本音だ。

はあ…とため息をつき、部屋へと戻ろうと、カーテンの隙間に両腕を差し込んで勢いよく開く。

「…わ……っ。びっくりした」

開いた瞬間に、大股で部屋に一歩入ったら声があがる。

「へ」

声がする方へ顔を向けると、意外な人がそこにいて。

「起きたみたいだったから、食べないかと持ってきてみたんだが」

真っ赤な髪の、確か。

「カルナック」

「…カルナーク、だ」

「あ、それ」

さっき着ていた服装じゃなく、もっと軽装で。

「こっちに」

といい、手招きをする。

部屋の明かりを増やして、テーブルにランプを追加してくれる。

「好き嫌いはないか?」

そういう声はまだ幼さの残る高めの声なのに、やわらかくて、優し気で。

声に誘われるように、彼の方へと近づいていく。

なんだかいい匂いがする。

くん…と匂いがする方へと進めば、テーブルの上にはスープ皿が置かれていて。

その中にはなみなみと注がれたスープがあり、透明なスープにいろんな野菜が沈んでいる。

(野菜スープ!)

どこから持ってきたのか、女物のカーディガンを羽織らせてくれて。

「ほら、これ持って」

なんて、まるで子ども扱いをして、手を添えてスプーンを握らせる。

「これ食べて、元気になったらいい」

そういいながら自分はあたしの向かいに座って、傍らにあった本を手に読み始めた。

「ゆっくり食べろ。その方が消化にいいらしいから」

パラリとページをめくる音がする。

スプーンを手にして、あたしは戸惑ってしまう。

どうしてこのタイミングでこれを持ってきたのかわからないのと、どうして優しくしてくれているのか。

(答えはきっと、あたしが)

「聖女だから…」

自分で言ってて悲しくなる。

聖女というその名がないと、きっとこの世界で関わることがない人たちなんじゃないのかな。

(彼もあたしが聖女じゃないって知ったら、こんな風にはしてくれなくなるんじゃ)

よぎる不安に、なかなかスープを口に出来ずにいた。




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