8 / 44
聖女の色持ちではないんですがね 8
しおりを挟むどれくらいの時間、眠れたんだろう。
横になってすぐは咳が時々出てしまい、体を完全に起こしたり咳をしすぎてフラフラしながらベッドに倒れこんだり。
うとうとしながら、少しだけど眠れた気がした。
「静かだな」
ベッドからおりて、窓際へと歩いていく。
大きな窓すぎて、カーテンがめちゃくちゃ重たいや。
カーテンとカーテンの隙間に頭を突っ込んで、窓の外の景色を眺め見る。
地球ではないということがハッキリわかった。
「月がこんなに大きく見えるなんて」
月……で合っているのか不確かだけど、それっぽいものがまるで山のように視界いっぱいにあって。
不意にすぐそばにある窓のレバーを下ろす。そのまま、外へと押せば、バルコニーに出られるみたいだ。
裸足のままで、ヒタヒタと足音をさせながらバルコニーに出てみる。
「冬ではないみたいだな。夏……でもないし」
そもそもで季節の概念があるのかも、不明。
早いところ情報を集めなきゃ、いろんな意味で不安が多すぎる。
さっきの5人が、どういう立場の人たちなのかとか、なんであたしの部屋に来たのかとか。
召喚した時のことや、あたしの立場が一番偉いって言っていたことについての説明も欲しい。
「あぁ、お腹も空いてきた。さっきはおやつの時間みたいなものだったしなぁ。この場所での食事がどんなものなのか知りたいなぁ」
お腹が控えめにクウ…と鳴る。
「ハンバーグ、唐揚げ、ママが握ったおにぎり、お味噌汁。ファストフードいろいろ」
今の自分を満たせそうなものが、口からボロボロ出てきちゃう。
「野菜いっぱいのスープでもいいんだけど、こんな時間に食事なんか出ないよね」
はあ…とため息をつき、空を仰ぐ。
星がきれいだ。
星座は一緒なのかな、もしかして。
見覚えがある星の並びを見つけて、他にないかと視線を彷徨わせる。
北斗七星をみつけて、その近くにはこぐま座がある。
こぐま座は、北を指し示す星座だったよね。
道に迷っても、あの星座を見つけたらそっちに行けば北なんじゃなかったかな。
「道に迷っても、か」
中学校では、友人関係を拡げられなかった。
いちいち迷ってばかりで、迷っているうちにまわりはどんどん先に行ってしまっていた。
出来上がっていたグループには、簡単に入れない。
タイミングがつかめなかっただけで大人しい人扱いで、暗いよねって決めつけられる。
何をするでもなく本を読んでいたら、人の輪に入る気がないだの、本を読んでいる割にテストが出来ていないだの。
イメージがひとり歩きされて、そうじゃないと見てもらおうと思っても、話に割り込んでくる女の子たちに違う話題に変えられてしまったり。
「高校では、元気なキャラでって思っていたのにな。練習、台無しだ」
練習している時点で、本当の自分じゃない。
でも、なりたい自分でもある。
「なれると……思いたかった、のにな」
うつむくと、自然と顔にかかる金髪。
美容室で金髪になった自分を見た時、ものすごくテンションが上がった。
形から入ったとしたって、変われる気持ちが強くなったもん。
でも、ここは知らないドコカ。
揺らいでしまう、簡単に。
いつもそばにいた人は、誰もいない。
とりあえず、黒髪のアレはさておき、二人は話を聞いてくれそうな。
こういう話は、最初が肝心っていうよね。
みんなが決めつけている聖女の色について、ごまかさずに話したい。
話をして、聖女じゃないんだったらってなっても、あの二人なら何らかの提案をしてくれそう。
「でも、本当に信じていいのか…迷う」
矛盾しているけど、これも本音だ。
はあ…とため息をつき、部屋へと戻ろうと、カーテンの隙間に両腕を差し込んで勢いよく開く。
「…わ……っ。びっくりした」
開いた瞬間に、大股で部屋に一歩入ったら声があがる。
「へ」
声がする方へ顔を向けると、意外な人がそこにいて。
「起きたみたいだったから、食べないかと持ってきてみたんだが」
真っ赤な髪の、確か。
「カルナック」
「…カルナーク、だ」
「あ、それ」
さっき着ていた服装じゃなく、もっと軽装で。
「こっちに」
といい、手招きをする。
部屋の明かりを増やして、テーブルにランプを追加してくれる。
「好き嫌いはないか?」
そういう声はまだ幼さの残る高めの声なのに、やわらかくて、優し気で。
声に誘われるように、彼の方へと近づいていく。
なんだかいい匂いがする。
くん…と匂いがする方へと進めば、テーブルの上にはスープ皿が置かれていて。
その中にはなみなみと注がれたスープがあり、透明なスープにいろんな野菜が沈んでいる。
(野菜スープ!)
どこから持ってきたのか、女物のカーディガンを羽織らせてくれて。
「ほら、これ持って」
なんて、まるで子ども扱いをして、手を添えてスプーンを握らせる。
「これ食べて、元気になったらいい」
そういいながら自分はあたしの向かいに座って、傍らにあった本を手に読み始めた。
「ゆっくり食べろ。その方が消化にいいらしいから」
パラリとページをめくる音がする。
スプーンを手にして、あたしは戸惑ってしまう。
どうしてこのタイミングでこれを持ってきたのかわからないのと、どうして優しくしてくれているのか。
(答えはきっと、あたしが)
「聖女だから…」
自分で言ってて悲しくなる。
聖女というその名がないと、きっとこの世界で関わることがない人たちなんじゃないのかな。
(彼もあたしが聖女じゃないって知ったら、こんな風にはしてくれなくなるんじゃ)
よぎる不安に、なかなかスープを口に出来ずにいた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる