【本編完結】「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。

ハル*

文字の大きさ
上 下
2 / 44

聖女の色持ちではないんですがね 2

しおりを挟む


わちゃわちゃしながら、誰も譲り合うこともなく雪崩こむように部屋に入ってきた男の子たちは5人。

黒髪、短髪、金目かな? 背は5人の中で一番低い子。

アッシュグレーの髪が肩までで、同じ金目で、こっちをみて微笑んでいるけど胡散臭いのがいる。

身長は、まあまあ高い方じゃないのかな。

真っ赤な髪で、前髪がパッツンの短髪。この子は目の色は、何色なんだろう。

(海の色みたい)

例えるなら、ネットで見たことがあるラピスラズリみたいな色だ。

深海っていうのかな。身長は、まあまあある方でしょ。この人も。

それと金髪の碧眼。なんだっけ、エメラルドだっけ。それに近い、透明感がある碧。

腰まで髪が伸びてて、紐っぽいもので結われている。

手入れが大変そうだなとか思ったのは内緒。

身長はこの中で一番高いというか、高い。それと、威圧感っぽいのがパない。

お近づきになりたくない。

最後が、茶髪の無造作に適当に切ったような髪。短髪というにはちょっと長いかな。

セミショートって、あったっけ?

目は、あたしの元の色と一緒で黒い。

この中では地味な方なんだろうな。

メガネをかけてて、いかにも委員長とか風紀委員っぽい感じ。

大きくもなく低くもない身長。

この5人の中でいえば、中間?

この人を目安に、高い低いって考えたらいいかも。

なぁんて感じで、いきなり目の前に現れた5人を分類していく。

服装はアッシュグレーの人と黒髪短髪の人が同じ……かな。

白を基調にしたショート丈のジャケットに、下は細身の体にぴっちりしたスラックス。

茶髪の人は、髪色より薄い茶色の長めのジャケット。コートに近い丈かもしれないな。

それに、白いスラックス。

赤髪の人と金髪碧眼の人は、くすんだ感じの赤いジャケットに白いスラックスだ。

赤髪に赤いジャケット。

(……目に優しくない色合いだ)

とか若干失礼なことを考えて、目をしぱしぱさせる。

ベッドのそばにそれなりに大きな男の子が5人。

さすがに5人もいたら、ちょっと怖い。

内心、寄るな寄るなと念じていたら、反射的にか枕の方へと後ずさっていた。

胸にはさっきの本を抱え込んで。

「聖女はお前か」

「聖女ちゃん」

「お前か、召喚されたのは」

「初めてお目にかかる。聖女さま」

「あなたが聖女でよろしかったでしょうか」

せーの! と誰かが言ったかのようなタイミングで、一気に言わないでほしい。

まあ、ほぼ聖女とか言っていたから、多分確認でしょ。

一人チャラいのがいた気がしたけどね。

「すいませんが、一人ずつお願いしたいんですけど?」

と、首をかしげつつ頼んでみる。

あたしがそう言えば、5人がまたわちゃわちゃしながら「お前が」「俺が」と騒ぐだけ。

なかなかまとまらない5人の姿を視界から外すかのように、ベッドの端に腰かけて水を飲む。

そして、喧騒から離れて本棚へと。

もうちょっと薄めのわかりやすそうな本がいいんだけどなとか思いつつ、指先で背表紙をなぞった。

「この国の歴史の本をお探しですか」

背後からかかった声。

振り返ると、騒ぐかたまりから外れて一人がそこに立っていた。

ズウン……と音がしそうな威圧感。

お近づきになりたくないって思った人だ。

一番の高身長なので、その高さにあたしは顔を思いきり上げなきゃいけなくなった。

(ってか、イケボ。少し高めのアルトっぽい声の高さで、語尾がかすれて聞こえた。ちょっと意外な声かも)

はじめての人相手にちょっと失礼なことを考えつつ、こくんとうなずく。

「ここがどこかわからないので、知りたくて。さっき読んだ本は分厚いし重いし、読んでて疲れそうで」

上手く笑えているだろうか、あたし。

コミュ障気味ゆえ、笑って会話することに不慣れなんだもん。

しかも相手が異性だし。

笑顔のまま固まったあたしをジーッと見ていたかと思ったら、不意に大きな手が頭を2回ポンポンとしたかと思いきや。

「だったら、こっちの方がわかりやすい。子供向けにもなっている。……文字は、読めるのか?」

親切にも、手助けをしようとしてくれているみたいだ。

差し出された緑色の表紙の本を受け取って、ページをめくっていく。

時々挿絵もあって、確かに子供向けだなと思った。

「……っと、ここは……エメラ王国。歴史は古く……て、魔法があって。……んっと、今の王様? が15代目で。…………意外と長生きしてるのね、今までの王様。へえ……」

「本当に読めるんだな、文字が」

俯きながら読んでいるので、頭頂部あたりから声がする。

「なんでだかはわからないけど、読めてるみたい。……あ、聖女! 聖女について書かれて」

聖女の欄を見つけたと喜んだあたしは、その後の文章を読んで黙ってしまった。

(聖女を元の世界に戻すことは試みたことがない。聖女は、国の宝で、保護されるべきもので、国を護る者で、そのために召喚されてこの国で最期を迎えるものである。……って、え、ちょっと待って)

試みたことがないって、帰す気がさらっさらなかったってこと?

喚ぶだけ喚んで、用事がすんだらそれで完結にはならないの?

(なんて自分勝手な拉致だ、この召喚システム)

読んでいけば、100年周期で瘴気がこの世界に満ちてしまい、この世が朽ちてしまう。

ある日、王の元へ謎の本が空から落ちてきて、その本に召喚システムについて書かれていたのが始まり。

藁にもすがる思いっていうんだろうか、そういうの。

王城の魔法使いを集めて、召喚のための魔方陣を描き、贄を捧げて召喚をする。

対価を払わずして、国を護れないということか。

贄については、代々王家に連なる女の赤ちゃんを捧げよと書いてあったという。

「……わけわかんない」

想像しただけで気持ち悪くなる。

まだ産まれたばかりで、世の中のいろんなことに触れてもいない間に生け贄にするだなんて。

そんなことのために、命を授かったんじゃないはずなのに。

「ひどい……」

立ち読みしている間に、うるさいのがおさまっていた。

「君は」

イイ声が聞こえて、反射的に顔を上げた。

「聖女、なのだろう?」

どこか不安げに揺れる瞳と、目が合った。

聖女、なんだろうか。

聖女として、喚ばれたんだろうな。

でも、それを証明するものはどこにもない。

首をゆるく左右に振って、違うと伝える。

「だって、あたしは」

聖女じゃないとわかったなら、あたしはどうなるんだろう。

そう思うと怖くなるけれど、嘘つくのはもっと怖い。

嘘をつく時には、その嘘を守るために嘘を重ねなきゃならなくなるまでが1セットになるもの。

だから、あたしはすこしうつむいて右目に指先を触れさせて。

「聖女の色じゃないから」

右目から、カラコンを外して苦笑いを浮かべた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

婚約破棄された聖女は、愛する恋人との思い出を消すことにした。

石河 翠
恋愛
婚約者である王太子に興味がないと評判の聖女ダナは、冷たい女との結婚は無理だと婚約破棄されてしまう。国外追放となった彼女を助けたのは、美貌の魔術師サリバンだった。 やがて恋人同士になった二人。ある夜、改まったサリバンに呼び出され求婚かと期待したが、彼はダナに自分の願いを叶えてほしいと言ってきた。彼は、ダナが大事な思い出と引き換えに願いを叶えることができる聖女だと知っていたのだ。 失望したダナは思い出を捨てるためにサリバンの願いを叶えることにする。ところがサリバンの願いの内容を知った彼女は彼を幸せにするため賭けに出る。 愛するひとの幸せを願ったヒロインと、世界の平和を願ったヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:4463267)をお借りしています。

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...