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好きだよ 9

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~水無瀬side~


俺がそう、さも当然な顔をしてそう伝えると、はく…っと口が呼吸でもするように開き、何も言うこともなく閉じた。

「諦めた方がいいよ? 俺って、意外と一途だから」

ニッコリと微笑んで、エンジンをかけ直す。

すると、まだ”ボク”と名乗る方の悠有が愚痴のように呟く。

「一途な人は、体のつながりがある相手が切れない生活をしないって言うけどね? ”ボク”と付き合う前の誰かさんについて、他から聞いた噂だけどさ」

とか言うもんだから、この悠有・・・・は一体いつから悠有の中に潜んでいたんだろうと眉をひそめた。

「そうだったけど、今は悠有一筋だってこと…その身をもって知ってると思ってたのに」

ミラーで後方を確認し、ハザートから右ウインカーへと切り替える。

車道に戻り、すぐの道から右へ曲がって店へと向かう。

「のに? ……何?」

その後になんて続くのかってことか。どうやらまだ不機嫌ぽいな。声のトーンが低いや。

「……のに」

彼が素直に聞いてくるのなら、聞こうとしているうちに返さなきゃな。

「わかってないなら、まだまだ教えなきゃだよね? って思っただけ。心にも、身体にもね」

一番わかりやすい言葉で。

後は右へと曲がるだけの道で、ウインカーを入れてから対向車が通り過ぎていくのを待ちながら。

左手で彼の服をグイッと引っ張ってから、その頬にキスを一つ落として。

「でも今夜は、俺の方が悠有に知らされそうな空気なんだけどさ」

さっき交わした約束を忘れずに、今夜の時間について匂わせおく。

「あ…」

一瞬視界に入った彼の右耳が、赤みを帯びていたようで、相手にバレないように口角を上げる。右の口角だけ。

「さ、着いたら作業の続きかな。それか、中で出来る他の作業の割り当てがあったら、そっちに入ってもいいし」

「ん…うん」

初めて家に泊まった後の彼のように少し照れくさそうにうつむいて、短い返事だけ返してきた。

車を停め、シートベルトを外してから赤らんでいたその耳に囁く。

「だから…戻っておいで? 悠有」

悠有であって悠有じゃない誰かに、わざと言い聞かせるように。

ガバッとあげられた悠有の表情は、どこか悲しげで。けれど、わずかによせた眉が彼の焦燥感を露わにもしていて。

「荷物は、俺の方で持つよ」

そう言いながら、車を先に出て後部座席から荷物を手にする。

…と、背後から声がかかった。

「おかえりぃー」

声だけでわかるようになってしまった相手、悠有の義弟くんだ。

「戻ってきたの?」

「うん。さっきの本、読み終わっちゃったから」

「ふーん。それで、何しに来たんだ」

「えー。本屋さんに本を探しに来たに決まってるじゃん。…あ、悠有にいもお疲れさまぁ」

遅れて車から降りた悠有にも、笑顔で声をかける義弟くん。

「なん…っ、また」

なんでまた←って言いたかったんだろう。けれど、動揺が言葉に乗ってか、つっかかってしまった。

呆然とした表情で義弟くんと車越しに向き合う悠有の目が、チラ…と俺の方へ流れる。

「…さ。仕事に戻ろうか、小林くん」

仕事モードに戻すよと暗に示して見せ、頭を右へ一度だけ振って" コッチへ"と目線も動かす。

「あ…」

小さくもれた声で、現実に戻ってきた様子なのがうかがえた。

「荷物、やっぱり自分で持ちます」

「あ、そう? じゃあ、お願いね。俺は店長に報告あるから、そっちに向かうよ。荷物の置き場は知ってるよね」

「はい」

「この後のことは、さっき車の中で話した通りに」

そこまで話してから、義弟くんの方へと振り向き。

「まあ、ゆっくり探したら? 本。何かいい一冊に出会えるといいね」

わざとらしい笑顔でそう呟いて、店内へと入っていく。

「待っ…」

悠有にじゃなく、俺に声をかけようとしたのを知った上で無視をして。

何でか俺にばかり声をかけてくる義弟くんを置き去りにしたままで、悠有には笑顔を見せてから自動ドアを通っていく。

「戻りましたー」

「あー、水無瀬くーん、おかえりー」

「店長、今どこに?」

「裏、裏」

「ん、ありがとね。じゃ、裏いってきます」

「あ、小林くんもお疲れさまー」

「あ、は…はい。ただいま戻りました」

荷物を手にレジ前を通り、荷物を運んでいく悠有が見えた。悠有の後ろから、ムッとした顔つきで入ってきたのは義弟くん。

でも、もうちょっと様子見をしていてもよさそう。どっちにしてもこの後は、悠有はまた中での作業。俺は出たり入ったりだ。

「てーんちょー? いますー?」

裏の方で別の作業をしていた店長に声をかけて、この後の作業について確認を先にして。

その場を一旦離れて、悠有の方に声をかけて作業の内容をもう一度確認。

過保護だって言われてもいい。今日はひとまず様子見の一日でもあるから、店内での作業をさせる気はないや。

「あとさ、店長がこれ入力って頼める? って。…どう?」

A4の用紙いっぱいに、店長の癖字が並ぶ。

「元のテンプレートは同じタイトルで保存されてるはずだから、さっき使ってって言われていたパソコンで入力。で、作成後の保存名は…コレ」

説明をしながら、店長から預かってきた数枚の付箋を順に貼っていく。

「フォルダは、コレ。それとね」

時間的にまだあの時間まで余裕がある。

さっきまでの作業の続きと言ってほっといても、きっとなんだかサボってるみたいな感じに取りそう。

出かける前の悠有の雰囲気からすれば、ある程度のところまでPOP自体進められた様子だった。下手すりゃ、直さないでもいいところを直した方がいいのかとかなりそう。

それか、こんなにボーッと仕事してて給料もらってもいいのかな? とか悩みかねない。あの悠有の性格だからな。

だったら、もうちょっと仕事らしい仕事を追加で与えておいて、それをやった上で時間があれば元の作業に戻ってと伝えてまた部屋を出る。

ちら…と時計を横目に見てから、店長に急ぎの電話してきてもいい? とヘラリと笑って見せてからお願い。

店長も個人的な電話は、仕事に支障がない程度にしていることがあるのを黙認していたからか、「手短にね」と苦笑い一つで許してくれる。

「ありがとうございます」

そう言ってから店内の様子を一旦確かめ、大丈夫そうだなと別室へ向かいそこでスマホを手にした。

数コールした後に、相手が不機嫌そうな低い声で「急用か」とだけ吐き出してきた。

「ああ、どうも。今、お忙しいですか?」

向こうの温度が低そうなのに対して、コッチはそれをちっとも気にしてなさそうにつとめて明るく返事をする。

「…要件次第だ。要件を早く言ったらどうだ」

俺から電話が来ると、いい話じゃないことがわかっているのかもしれないな。

クスッと笑って、「何のために電話したのかは、なんとなくわかってるんじゃないですか?」と切り出してみる。

「……どういうことだ。なんだ。悠有くんに何かあったというのか? アレは留学させるという形で、距離を取らせただろう。それともなにか? 悠有くんに問題でも起きたのか」

留学させたとは言っていたけれど、この人って、ちゃんと最後まで送り届けさせたのか? 留学先まで。

それとも空港まで送って、搭乗ゲート付近でそれじゃとヨシとして。それでいいだろうってなったとか? 誰か付き添いとかなかったわけ?

「大問題が起きましたよ。…お宅の息子さん、こちらに来店されましたけど? 今日。しかも俺に向かって、今日泊めてくれとか言い出している始末なんですが。……ちゃんと話をしたんですか? きちんと留学先に送り届けたんですか? 自由に飛行機に乗ってこれるような環境下に置いていなきゃ、こんな事態にならないですよね? どういうことですか」

淡々と状況を伝える。

義弟くんが俺んちに泊まりたいと言い出していることに関しては、悠有にはまだ相談していないから、この義父の対応次第になりかねない部分もある。

(極力避けたいところではあるけど、見張る必要があれば見張っておいて引き渡すのも考えなきゃだよな)

「そんなはずは…っ」

まさか戻ってきていると思いもしなかったようで、そう呟いてから黙ってしまった悠有の義父。

「息子さんの行動力を甘く見ていたようで。それか、単純に息子に対して甘かったというべきか。……なんにせよ、早々に対処していただかなければ、こちらでは対応しかねるんですが。出来れば俺と悠有が普段過ごしている場所を、彼に知られたくないんですよ。悠有が契約しているアパートもそうですけど」

もしもどちらかを知られてしまうとするならば、俺の方がまだ許容範囲内だ。

(悠有に話さなきゃいけない状況は、本当は避けたいんだが。義父の方で対応が遅れるのなら、時間稼ぎが必要…か)

大したしないうちに、あの時間帯になってしまう。そのタイミングで、義弟くんがまた…余計なことをやらかさないとも限らない。

顔をしかめながら、義父の返事を待つ。

「…数分、時間を。回収するようにする」

そう言い、電話は一方的に切られた。数分時間をということは、かけ直しがあると思っていた方がいいのか?

「って、回収って言い方してる父親なんかクソだろ」

よそんちの事情だってわかってても、悠有のことじゃなくて義弟くんのことだって理解してても、なんだか胸の中がモヤモヤして気分が悪い。

画面の様子が変わったスマホの画面を見下ろし、小さく息を吐く。後頭部をガリッと乱暴に掻きながら振り向いた先に、悠有がクリアフォルダを抱くようにして立っていた。

「どうしたの? 悠…小林くん」

悠有と言いかけ、あわてて小林くんと言い直す。

俺に名を呼ばれた悠有は、口を引き結んでからぺこりと頭を下げた。

「え」

そうして、ずっと頭を下げている。

「ちょ、小林くん? 頭を上げてよ」

彼の方へと踏み出し、近づき、コッチへと倒されたままの体を肩を掴んで起こす俺。

「家族がまた、迷惑かけてる…ん、ですよ、ね」

家族がという言い方をした時点で、義弟くんだけの話じゃないというのを知られていると思った方がいいのか。

何でこの部屋にいるって知られたんだ? あえて一番奥の、滅多に使われていない部屋に入って電話をかけていたのに。

電話の最中にでも、自覚なしに声が大きくなっていたとか?

(それが一番濃厚だろうな)

またやらかしたなと口元を歪める。こんな顔をさせたくて立ち回っているつもりはないのに、どうしてもなにかしら抜けているように、何かが起きてしまう。

もっといろいろ上手く立ち回れる人間だと自負していたはずなのに、一番大事にしたい人が絡んだことこそ上手く出来ないのはどうしてだ。

(ただ、普通に恋愛が出来る環境にしたいだけだってのに…)

「迷惑だとかは思ってないよ。ただ、これ以上…辛くさせたくないなって思ってるだけ。って、話はどこまで把握してるか、聞いてもいい?」

焦りもあるけれど、この状況で悠有が勝手に先走って勘違いしないようにと確認をする。

話を聞いてしまったことで、俺が怒ってるとか思いかねないからな。それでなくても、迷惑をかけていると思っているくらいなんだ。

「多分だけど、一葉が頼みごとをしてきて、それの対応を頼んだ? と思ってて。細かい話までは聞けていないけど、今日の様子だと泊めてよとか一緒に遊んでとか、一緒にいることを求められたんじゃ? 実家に戻っても、うちの母親に義父がどんな風に話をしてあるかわからないけれど、母親が動揺するようなことをすれば、今以上に義父に責められる事態に陥る。…となれば、別の場所を確保するしかないから、甘え上手な一葉が甘えてよさそうな相手に目をつけるのはあり得る話」

数年とはいえ、義兄としてそばにいて、嫌な思い出ばかりの中で彼の性格や行動を分析してたのか。それでもその話をしながら、困ったように笑む悠有は、どこか哀しげだ。

「ホント…羨ましいくらい甘え上手なんですよ。あの義弟おとうとは。人の懐に入って、甘えて、嫌な気持ちにさせない。そうして味方をどんどん作って、人脈を拡げていった。器用で、俺の憧れで」

憧れ、か。

たしかに時々出てくる”ボク”と自分を呼ぶ悠有は、今の話を準えて考えれば、素直に甘えてくるところがある。普段の遠慮がちな、甘え下手な悠有とは違って。

義弟くんに傷つけられながら、なりたい自分を目の前にして。

(一体、どんな気持ちで義弟くんのそばにいたんだろう)

形容しがたい感情を、悠有はどうしていたのか。見ないフリし続けていたのか?

自分の母親にだってきっと、自分とは違って素直に甘える姿を見てたんだよな。

世間一般でいうところの、お兄ちゃんなんだから弟に譲ってあげなさいとかいうパターンじゃなくて、兄である悠有自身が甘えられずにその場をズルズル譲っていたことだってあったかもな。

指でドアノブを示して、鍵をかけるようにと伝える。金属音が聴こえてから、コッチにおいでと手招きする。

俺の目の前まで来た悠有に、一歩踏み出し。

「んな憧れなんか、すぐになくなるよ。…そのうち俺には甘えられるようになっちゃうから」

頭を抱くように右腕を回して、自分の肩に悠有の頭を乗せた。

「だって…」

子どもの言い訳のようにも聞こえるその呟きに、手のひらで後頭部をゆっくり撫でる。

「だって、じゃないよ? 甘えたがってる悠有の一番の障害は、だって…って言いながら壁を作ってしまう悠有自身でしょ? 俺相手なら甘えてもいいと、そう思っていいんだよ。誰にだって誰かに甘えていい権利があるんだから」

「誰にでもだなんて……そんな都合いい話なんか俺には」

どれだけ肯定したところで、悠有はそう簡単に受け入れやしない。知ってたことだ。これまでは、自分が甘えることで誰かに負担がかかるとしか思えていなかったんだから。

長いことかかった入院生活に回復期間にと、悠有の母親への心身へと負担と金銭的な負担を必要以上にかけないように。

長い、長い呪縛。

それをほんのちょっとの言葉やハグ程度で、手のひらを返せるはずがない。そんな薄っぺらい遠慮じゃない。

時間はかかると覚悟の上で、悠有を甘やかしたいと思ってるんだ。素直に甘えてくれた時の悠有を知ってるからこそ、出来た覚悟でもある。

「存在してんの……ここに」

俺のそばに在るんだよと、背中に回していた腕に力を込める。

「だからそばにいなよ。俺が甘やかしてあげる。なんだったら、時々悠有のお母さんになったっていいよ?」

ほんのちょっとのおふざけを混ぜ込んで、強張っている悠有の肩の力が抜けないかな? なんてね。

「…うちの? 母親? ……ふ、クックック…。バッカじゃない? 瑞ってば」

俺の肩に乗せている頭を左右に動かして、スリスリと猫のようにじゃれついてきた。その反応に、内心ホッとする。

「いいじゃん。俺だけにしか出来ないでしょ? そんなこと」

頭を擦りつけている悠有の頭を、手のひらでポンポンと二回軽く叩くと彼の肩が揺れた。これも甘えさせてるんだって、体感してくれたらいいのに。心地よく、クセになったらもっとイイ。

「何回でも言うけど、俺は、悠有の、味方。だからいつだって一番の場所にいたい。どんなことがあっても、すぐに動き出せるようにしていたい。…大事にしていきたい」

あえて言葉を短く切って、しっかり意識してもらう。そして、最後の言葉に一番力を込めて呟いた。本当に大事に想ってると伝わって欲しくて。

「俺も…何回でも言うけどさ。ほんと、バカだよ。瑞。…………こんなののそばにいたって、こんな風に面倒なことばっかなのに」

きっとこんなやりとりは、今後も何度だってあるはず。心が弱いからこうなってるんじゃなく、誰かに頼らないようにって我慢できちゃっていたからこうなっている。

堪える強さを持ちすぎてしまったから、悠有はこうなったんじゃ? と。強さ故に。

義弟くんのこと含めての話をしてるんだなと思いつつ、「バカで結構」と言い返す。

「俺の中では悠有は俺の一部なの、とっくにね? だから、面倒だとかどうとかって以前の話なんだよ。そもそも面倒って思えない。面倒っていうのは、もっとメンドクサイことだから」

と言うと、悠有がそっと肩から頭を離す。

「メンドクサイこと、経験済み?」

「まあ、多少はね? なんせほら、俺って悠有に一途になる前は下半身のフットワークが軽かったから」

なんて話しながら、(そこまでメンドクサイことにならずに来たはずなんだけど、嘘も方便っていうしね)とか小さな嘘を吐いた自分を隠す。

「自分で言う? そういうこと」

笑みを浮かべながら俺に「困った人だね」とか言いつつ、頬に手を伸ばしてきた悠有。

手のひらはすこし冷たくて、緊張していたのかもなと感じた。俺がしていた電話のせいで、かける言葉を選んでいた可能性もある。

自分のせいで誰かが困るのは嫌で。けれど、誰かのせいで自分が困るのには少し甘くて。その甘さのせいで、義弟くんをつけあがらせてしまった過去があるのに、それでもかなり長いこと彼を許し続けてしまった。

今、悠有が苦しんでいることだって、彼の中で心の傷がまだ言えていないタイミングで義弟くんが来てしまったことで過剰反応してしまった結果だ。

嫌いになれていれば、あそこまでの状態になることはなかっただろうに。

突き放しきれない、優しさを捨てきれない。悠有の長所で短所かもしれないところ。悠有自身が苦しんでいるその性分も、俺は抱きしめてやりたいと思っている。

「そんな俺は嫌い?」

首をかしげて、わざとらしく甘えるように目だけ微笑むと。

「プハッ。パッと見クールに見えるその格好で、目だけ笑って、そういうこと言うの? バランスおっかしいって」

やっといつもの顔で笑った。

「そ? そんなことないと思うけど?」

今度は自分の頬に手のひらをあてて、首をかしげてみる。なんでかしらね? とでも言ってるみたいに。

「瑞ってたまにおっかしい。ははっ」

すると、悠有がすこし幼い顔になって破顔した。

「はー…っ、めちゃくちゃ笑わせてもらった」

俺の顔を見て肩を震わせ、好きなだけ笑ったかと思ったらそう呟き、パチンとスイッチでも切り替えたみたいに表情を戻してきた。

その切り替わりの速さに、一瞬顔がこわばる俺。

「それで? この後はどうなるの? 盗み聞ぎじゃなく、瑞の口からちゃんと聞きたい」

こう伝えてきたのは、どっちの悠有なのかと右手をコッソリ腰の方に折るようにしてからこぶしを握る。

悠有は現状に向き合う覚悟をしたとでも言わんばかりに、口元をキュッと引き結んでいた。

「一葉と義父と瑞の間で、どんな会話があったのか。……隠し事なしで」

さっきまでの悠有とはまた違う感じもするし、腹を決めた時の悠有にも見えるその姿に息を飲み。

「もうすぐ、あの時間になるけど…話をしてもいいの?」

悠有が危惧していることへの確認をし、彼がうなずいたのを見てから口を開いた。

義弟くんのこと、義父にした電話とこの後の展開について。そして、最後に悠有本人がどうしたいのかを聞くことにもなり。

「…………義父に、今日は迎えに来ないでって伝えてくれない? 代わりにさ」

俺の話を聞いてからしばし無言だった悠有が口を開き、最初に告げたのがそれだった。

「今は、俺もあの人と話す気にならないし、なれないや。…たとえ、うちの母親が惚れた人だとしても」

義弟くんと同じく義父をあの人と呼ぶ目の前の彼に頼まれたそれに、俺は親指と人差し指で輪を作って。

「ん。オッケ。いいよ、伝えるよ。…他には?」

了解と伝える。そして他に願いがないかと尋ねた俺に、両手をパチンとあわせてわかりやすくお願いと示してから。

「今日は俺の部屋に行こうよ。一足先に俺が一葉を連れて行くから。悪いんだけど瑞は夕食の材料と必要な道具があれば、瑞の家から持ち出ししてほしいんだ」

と、俺が避けたかった場所へとあの義弟くんを誘おうとしていた。

しかも先に二人だけで向かうというその提案に、俺は即答できずに悠有をただ見つめていた。



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