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好きだよ 7
しおりを挟む~水無瀬side~
悠有の運転で支店まで、気持ち的にはまったりドライブ。
時々互いにからかいあいながら、置かれている状況を一旦忘れたような時間だ。
まだその時間まで長いと知っていながらも、悠有も気になっているのか時計を何度かチラ見しているのが見えた。
元・上司の梅本さんがいる店に向かってる俺と悠有。
(悠有に梅本さんとの関係を話してないけど、多分…大丈夫か)
なんて考えながら、過去にあの喫茶店に連れて行き、自分が指導した神田くんとの仲の良さを誤解されたりもしたのを思い出して。
(やっぱり話すべきかな。……でも、俺はもう気にしてないし、梅本さんもたまに顔を合わせた時に挨拶する程度だしな。……様子見して、状況次第で話すことにするか)
遠い昔の、俺がまだ過度に遊んでなかったころの話。
俺にいろんな遊びや息の抜き方を教えた、反面教師みたいな人だ。
っていっても、ほとんどが悪いことばっかだったんだけどな。悪いことの中には、性的なものももちろん含まれていた。
ヒドイ時には梅本さんと女性二人の四人での乱交にもなったりしたこともあったっけ。
梅本さんとの体の直接的なつながりが、一切なかったとしても。色々、……ホントに色々仕込まれた。
そんなイケナイ遊びを学ぶうちに、梅本さんに惹かれていったりもしたのは、今じゃすっかり過去の話。
ていうか、相手にしてももらえてなかった。恋愛の相手って形では。
そんなアレコレを繰り返した後に、乱交に近いそれの時の女性と梅本さんが結婚したっていうのが驚きだけどさ。
頭の中じゃこんな風に過去を振り返り、悠有が運転する車にドキドキもしつつ支店へと近づいていく。
遠巻きに見える店の駐車場を指さして、どの辺に停めるかを指示して。
店に着き、やることさっさとやって、いつも通りに愛想よく…と頭に浮かべつつ動いていく。
悠有は初めての運転に初めての支店への訪問、そして顔出し…と普段の笑顔がぎこちなくなってて。
(悪いとは思うけど、ふき出してしまいそう。試用期間の時の悠有を見ているようで、懐かしいやら可愛いやら)
あの頃にはそんな感情を抱きながら接していなかったくせに、もしかしたらあの頃から悠有に特別な何かを感じていたんじゃないかということに、今更のように気づかされる。
(なんだ…そっか。最初っから気になってたんだな、俺)
あの飲み会の夜は、ただのキッカケでしかなったのかも。背中を押し、それまでの二人の関係を壊す夜になったってことか。
悠有と一緒になるようになってからは、他の誰ともああいうことにならないし、なってない。そもそもで、心が動かなくなった。
下半身が軽いとか言われたこともあったけど、それも過去の話だ。
今は、悠有一筋。
悠有だけがいればいいと、素直に思える。
とはいえ、俺の軽い下半身とそのキャラがなきゃ、あの夜は始まらなかったわけで。その軽さもある意味役に立ったってことでいいのか? …まあ、お役目ごめんってやつだけどな。
荷物を渡し、梅本さんを探す。この機会に顔を合わせさせておきたい。今後は悠有だけでこの店に来ることもあるから、出来れば俺から彼を紹介したい。
この時間なら、彼がどのコーナーにいるかなんて勝手知ったるなんとやらって感じで歩いていく。
「おはよーございまーす」
いつものように棚の陰から、ひょこっと顔出して声をかける俺。
そして相手もいつものように、時間を決めてもいなかったのに「遅ぇよ」とか言ってくる。
悠有を紹介して、まずは顔合わせ。少しホッとする。この店に来た時に、頼れる人間を一人だけでも紹介したかったからな。
(んなことを悠有に明かせば、過保護って言い返されそうだ)
ぎこちない顔合わせの後、悠有がポツリと口にしたのが、予想外のこと。
仲がいいだの似てるような気がするだの。
梅本さんと互いに見合って、どっちも顔を歪めてあからさまに嫌そうな顔になっていた。
俺は無言で、なんでそんなこと言うんだよと悠有に訴えているが、梅本さんはというとどこか楽しげに肩を揺らして笑って、面白いこと言うねぇとか悠有に言い返す。
梅本さんのその様子を見ながら、悠有が「失礼なこと言って、すみません」と肩をすくめる。
「あー…いいって。気にしてねぇからさ…クックックッ」
二人の様子を見ながら、俺はほんの少しだけ過去に戻る。
あの頃の俺だったら、同じことを誰かに言われてたら…きっと顔には出さずに喜んでいたんだろう。
(俺の元・上司であって、俺にある種の性教育を施してくれた男…だったからな。っても、俺の片想いで終わった話だけど)
直接的な肉体関係は一度もなかった。
爛れた関係といえばそうだったかもしれないけれど、今の俺を形作った一因でもある。
彼に憧れて、似合いもしないヒゲを生やしてみては、似合わないからやめとけって彼本人に笑われたことも懐かしい。
梅本さんに似ていると言われて、まだどこかに梅本さんに寄せた部分があるのか? と複雑な感情になった。
悠有のことが好きなはずなのに、遠い片想いをまだ引きずってたのか? なんて。俺の見た目の中に、目の前の梅本さんに寄せた部分があるとは思えないけど、他から見たら感じる何かがあるのだろうか。
(それで悠有が嫌な気持ちになってしまってるんじゃ?)
複雑な気持ちを抱えつつも、表に出さないようにつとめて笑顔で声をかける。
「それはさておき、梅本さん。彼に今度POPの方もやってもらおうかと思ってまして。参考に梅本さんのをいくつかいただいていっても?」
店内の装飾関係諸々も、梅本さんが一から教えてくれた。俺よりも彼の物を見た方が、きっと勉強になるはず。
そう思って、梅本さんに声をかけたのに。
「俺は、水無瀬さんのPOPを見て、いいなと思ってきたのに? 自分が手本にしたいと思ったものは、ダメなんですか?」
横から悠有が普段にはないような強い口調で、俺に言い返してくる。
「え? いや…それはありがたいけど、いい見本っていうか手本は…いくらあってもいいし。それにいろんなバリエーションを知っておいた方がいいとも思う…ん、だけど」
悠有に言い返しながら悠有の顔をうかがっていると、どんどん不機嫌さが顔に出てきてて。思わず最後の方なんか、俺が言ってることって間違ってるんだっけ? と言い返しながら自信なくなってきたのが言葉にもあらわれた。
「……そう、ですか」
悠有は真顔になって、そのまますこし無言でうつむいてから。
「あ、のっ」
ガバッと顔を上げて梅本さんと目を合わせてから、勢いよく頭を下げた。
「お手数でないなら、お力…貸してください」
その悠有の姿を見て、梅本さんがフハッとふき出す。
「…え」
戸惑うような悠有に、梅本さんはこう言った。
「小林くんったっけ? 君の方が、似てるよ。コレに。っても、昔の水無瀬にだけどな」
コレと言いながら、俺を親指で指さして。
「や、やめてもらえません? なんだか一番恥ずかしいのって俺じゃないです?」
梅本さんが言っている頃の俺は、あの…性教育を施してもらっていた頃のまだどこか真っ直ぐな俺のことなんだろう。
支店に移動になったのをキッカケに、そういう関係は無くなった俺と梅本さん。たった一度も肌を重ねたことはなかった俺は、梅本さんになんとか好きになってもらおうと必死になっていた。
最初は梅本さんの冗談っぽい一言が始まりの合図だっただけの、俺と梅本さんの関係。
その熱に浮かされて、梅本さんに堕ちるのはあっという間で。けれど最後の最後まで、抱くことも抱かれることもなく終わった俺たち。
もしも俺の中に梅本さんの名残りがあるとするなら、ランニングをして健康管理の一端にしたってあたりだろうか。
健康管理も社会人の大事な仕事だぞと言いつつ、同時に欲を昇華させるのはもっと大事だと甘く囁きながら俺の体を開発していったっけな。
おかげでと言っていいのか微妙だが、すぐにどっちでもヤれる状態に持っていける体になっちまった。
悠有に後ろを解された時だって、そこまで過度にしないまでもどうぞ? って感じになれたしな。
(感謝していいのか悪いのか、また複雑な気持ちになるな)
梅本さんに前言撤回を求めていた俺の視界に、悠有がさっきとは違う表情を浮かべているのが見えて。
「似てます? 俺と…み、水無瀬さん」
梅本さんが、悠有をキョトンとした顔つきで見ている。悠有が口にしたことを、不思議なことだと感じたかのように。
「変なこと言いましたか? 俺」
梅本さんの様子を見て、悠有が苦笑いを浮かべる。
すると梅本さんが手にしてたノートを平置きしている本の上にそっと置いてから、悠有の両肩に手をのせて。
「水無瀬! この子は面白い! お前が育ててる割に、いいのが育ってる」
肩に載せた両手を上下させて、肩を何度も叩きながらそう告げた。
「え? は? …あのっ、梅も…っとさん、痛いです。いたっ…ぃです」
若干乱暴に肩を叩かれている悠有は、困ったように俺に視線で助けを求めていた。
上司である俺の元上司に、直接的に手を跳ねのけるようなことは出来ないと思っているのか、言葉にはすれどそれ以上はなくて。
「ちょっと梅本さん。うちの小林をイジメないでくださいね」
だから俺が代わりに、その手を掴んで悠有を反対の手で引っ張った。
「ごめんね、小林くん。悪い人じゃないんだけど、いちいちリアクションがデカいんだよ。なんせ…オジサンだから」
俺の背中の悠有を隠すようにして、梅本さんに嫌味を吐きつける。
「お? 言うようになったなぁ、水無瀬ぇ」
と言ってから、人差し指だけをクイクイと動かして俺を呼ぶ。
「なんですか?」
嫌な予感がしてちょっとだけ近づくと、距離を空けようとしたのに気づいたらしく、右腕を背後から回されてコッチに来いとでも言わんばかりに肩を組まれた。
「あのよ?」
耳元に聞きなれた低めの声が響き、囁く。
「可愛い子ちゃんは、大事にしまっとけ? んな簡単に俺のとこ寄こして、いいのか?」
彼が口にしていることは、ああいうことだろう。
「大丈夫ですよ。彼がコッチの店に移動してくるってわけじゃないんですし。たまに寄こす程度なんで、問題ないでしょ。……そもそもで、それっぽっちでどうにかなるような関係じゃないんで」
だから、しっかりと釘を刺す。
「…ふぅん。やっと本命出来たのか。…よかったな」
とか囁いた後、肩を組んだままで俺の頭に手をのせて、思いきり力任せに撫でまくってきた。首がちぎれるってレベルで。
「髪ぐっちゃぐちゃにすんなって、いつも言ってんだろ?」
だからつい、二人きりの時のような口調になってしまった。
「ははっ、いいじゃねえか。弟子の旅立ちのようなもんだ。手厚い祝いだ」
「手荒い…の間違いでしょ。梅本さん」
手を払いのけて、悠有の方へと一歩踏み出すと悠有が戸惑いを露わにした顔で立っていた。
俺が近づいたのに気づくと、その表情が消えて笑顔になる。
「先ほどのお願い、やっぱりやめておきます。うちの店の方ででも、その手の物を取り出す時に結構な手間になってるますしね? よその店でも大差ないんでしょうから」
先ほどのってことは、POPの手本にって言った話か。
「そこまでのものじゃないから、いいと思うよ? ねえ、梅本さん」
「かまわねえよ。コッチの店は、俺が完全に管理してるからな。すぐに出せる。五分くらい待てるなら、持ってきてやるよ」
俺が梅本さんに声をかけると、すぐさま動いてくれた。
「もうちょっとだけここで待っていようよ。うちの店のとは違って、管理者が一人ならたしかにどこにあるとかどれなら貸し出していいとかがハッキリしててわかりやすいし」
補足説明のようにそう伝えると、悠有は無言でうなずくだけだ。
五分もせずに、梅本さんが持ち出ししやすいサイズのものだけをまとめて持ってきてくれた。
「ほらよ。持ってって、がんばってPOP描きあげてみな? 誰かの目か心にそれが留まって、その本を読みたいと思えるように願いながらな? ってかよ、最初に何の本のを描くかってのもあるけどな。…ま、がんばれよ」
とかいう、俺には絶対言わなさそうな励ましのお言葉つきで。
「ありがとうございます。…大事に見させていただきます。後日、返却にまた来ますので…」
「ん。俺がいなくても、どこに片付けるかはスタッフに話が伝わってるから。いつでも返しに来ていいぞ。いつまでとか括らねえから、参考になるなら時間かけて見てくれていいぞ」
「…はい」
悠有はそう返してから、ペコリと深く頭を下げた。
「それじゃあ、失礼します」
そうして、踵を返して俺よりも先に出入り口へと踏み出した。
「小林くん?」
その後を追うように、「じゃ、また」と短い挨拶だけをして梅本さんの前から去る。
先を行く悠有は、カウンターにいるスタッフに声をかけて軽く会釈をしてから出ていった。
「それじゃ、また来まーす」
「はーい、おつかれさまでーす」
「じゃーねー、水無瀬くん」
「はーい」
俺もそれに続くように見知った仲間に小さく手を振って、車の方へと急ぐ。
すこし離れた場所から、車のロックがピピッと電子音を立てて外された音がした。
悠有は後部座席に、梅本さんから借りたものを置き、それから運転席へと車の後ろを回って向かう。
俺は小走りで助手席へと向かった。
悠有はエンジンをかけ、ただまっすぐに前を向いている。
「…お疲れさま。あとは店に戻るだけだよ。帰りは俺が運転しようか? 疲れたんじゃない?」
らしくなく、なんだか会話がぎこちない。
「いや、いいです。…道、憶えなきゃでしょ。……乗ってて不安かもしれないけど、帰りも…俺が運転します」
そして、それは悠有も。敬語の混じった、しゃべりかたに迷いがある時の話し方になっていた。
「……悠有?」
店内とは違って、下の名前で呼ぶ。ここに来るまでと同じように、と。
けれど、彼の口から返ってきたのは思っていた言葉じゃなく。
「…運転に集中したいんで、話しかけてもらうのやめてもらえますか」
拒絶の言葉。
上司に対してあり得ない言葉ではあるけれど、頭の端っこに一瞬それがよぎっても、それ以上に彼氏としての俺を拒まれた気になった。
「悠有…?」
戸惑いが胸の中からあふれ、彼の名を呼ばずにはいられない。
「……行きますよ? 水無瀬さん」
のに、彼の口からは俺の下の名前は呼ばれることがなかった。
――瑞、と。
来る時同様で、勝手に流れ出す洋楽。どこかで聴いたことがある曲の話を、さっきしたはずなのに。
(ここまでハッキリと拒絶させるなんて……)
重たい空気の中に流れる、陽気なメロディラインの昔の洋楽。曲調とは違って、ちっとも上がらない気分に。
(どうして…?)
悠有の顔を横から見ることも出来ず、何度も走った場所で見慣れた景色を窓から流し見ることしか出来ない。
どれくらい走っただろうか。不意に、悠有から話しかけられる。
「途中でコンビニに寄ってもいいですか?」
それに俺は、「いいよ。入りやすそうなのが、この先の信号向こうにあったはずだよ」といつもの癖で情報つきで返事をしていて。
「…そ、ですか」
悠有はまだぎこちない返事をして、そのまま車を走らせていく。
すこしして、話してあったコンビニへと入る。
「休憩しちゃダメですか、水無瀬さん」
駐車場へと車を停めて、すぐに車を出るのかと思ったら、そんなお願いをされる。
「すこしならかまわないよ。なにか食べるか飲むかしたい?」
久々の運転なら、運転しながらなんて余計に危なっかしいか。なら、この提案はアリだ。
「何かいりますか? それとも、水無瀬さんも降りますか?」
「俺も降りようかな。ついでにトイレも行ってくるよ」
「…了解です。じゃあ、買い物が先にすんだら、車に戻ってますね」
「……うん」
これまでにない距離感に、寂しさが胸にこみあげてくる。
ほぼ同時に車を降り、各々用事をすませる。
トイレから出た時には、ちょうど悠有がレジで会計をしていた。小さなレジ袋を指先に引っ掛けて、コッチに気づいたのかチラッと見てから出ていった。
(何買ったんだろう、悠有)
店内をうろつけば、新しいスイーツが入荷していた。
小さめなチーズケーキだ。手のひらにチョコンと乗るほどの大きさ。ちょこっと食べにはよさそうだ。
(横にはチョコ味のもあるな。…悠有、運転で疲れてるだろうし、頭使ったしな。すぐに食べなくても、後ででも食べてよって言ってみよう)
プレーンのとチョコのをひとつずつ買い、悠有同様に小さなレジ袋を指先に引っ掛けて車へと戻った。
駐車場の端の方に停めた車内で、何をするでもなくジッとしている俺たち。
「悠有…さ、買ってきたもの…食べたりしないの? 休憩するんだよね?」
俺だけじゃなく、休憩を言い出した悠有がまったく動かないのは変だなと声をかける。
「何時間とかじゃなきゃ、多少はいいからね? 体調のこともあるし」
入ったコンビニの駐車場は、どのくらいの時間そこにいるかで停める場所が違うという区切りがあって。
たまたまか、コンビニのすぐ前は30分までという場所なのにそこには停めず、3時間以内という場所に停めている。
本当にその時間をコンビニの駐車場で過ごしている車がいるのかは知らないけれど、悠有の体調次第じゃ仮眠も可能だなと思った。元々店の方にも、長めに時間を申請してあるから問題はない。
俺が彼の様子を探りながら声をかけたのに対し、うつむいていた彼が顔を上げて俺を睨みつけてきた。
そうして「…ん!」とレジ袋を押しつけてくる。
「これ、俺に?」
なぜか、涙目で睨んでいる悠有。
「じゃ、あ。…遠慮なく」
持ち手が握られてて、グシャグシャのそれを開く。
「……あ」
間違い探しのようだと思った。
悠有から受け取ったレジ袋を太ももの上にのせ、自分が買った方のレジ袋を悠有に渡す。
「一緒に食べない?」
悠有に両方の味のを。
そう思って買ったはずのそれを、一緒に食べない? と言った俺。
「…なんで」
悠有が驚いた顔を見せ、涙が頬を伝っていく。でもその後に涙は続かない。
「慣れない運転で疲れている悠有に、って。…悠有は、どうして俺に? 会話もしたくないくらいだったんでしょ?」
なんて言いながら、悠有から渡されたレジ袋の中を取り出す。
全く同じものを同じ数、何の打ち合わせもなしに買っていた俺と悠有。
「つまらないこと…したから。うまく…ごめんっていえる自信、なかった」
大きな体を縮こませ、いかにもしょげている表情を浮かべている。
「つまらないことって?」
「話したくないって言った」
「…うん。寂しかったなぁ」
「運転代わろうかって言ってくれたのに、断った」
「まあ、悠有が言ったことも正解だからね。それについては、いいかなと思ってた」
「…っっ」
彼が息を飲んだ気配がした。
「コンビニ…入りたいって言っただけなのに、道のこと…教えてくれた」
「まあ、うん。それは、悠有が来たことない場所だからね。それに久々の運転でしょ? だったら、情報があった方が危なくないかなって思っただけ。…だってさ、すこしでも悠有の気が楽になるなら、その方がいいに決まってるもん。…余計なお世話かな? って内心思わなくはなかったけど」
正直な気持ちを吐き出すと、悠有が「ごめん」と呟いた。
「何に対して?」
なるべくやわらかい声でと意識して、聞き返す俺。
「……つまらない嫉妬、した」
その言葉が出た瞬間、またやらかした…と顔を歪める俺。
「あ…っ! 本当にごめん! そんな顔、させるつもりなかったのに」
顔を歪めた俺をみて、違う方向に勘違いをする悠有。
「…………違うよ、悠有。俺はね? 俺は」
肩を落とし、自分を情けないなと思いながら彼に伝える。まっすぐに受け取ってもらえますようにと願いつつ。
「怒ってなんていないし、呆れてもいない。むしろ、自分がしたことに。…いや、しなかったことに怒っているし、呆れたんだ」
その感情の矛先が、悠有じゃないよとハッキリと告げた。
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