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久遠 16 ♯ルート:Sf end
しおりを挟む~シファル視点~
シューヤが言っていた通りで、桜は咲いていない。でも、今日はあの日だ。
「シファル! 遅刻するよ?」
ドンドンドンとけたたましくドアを叩く、シューヤ。
「お隣さんに迷惑だから、そこまでしなくてもいいって」
バタバタとジャケットを羽織って、その上に薄手の上着を一枚。それとリュックを背負い、部屋を出る。
耳には、シューヤからもらったピアスをつけて。
校則とかいう、決まりごとが比較的ゆるめの高校らしくて、ひなも金髪で来るのが確定している。
「渡し忘れてたけど、これ…動画の収益から教科書代とかいろいろね。金額デカいから、失くさないように」
「お…あ、あぁ。そういえばそんな話もしてたっけね」
学校にかかる費用はほぼかからないっていうけど、教科書というものに関してはかかるとか。
人によってはその金も後で返ってきたりもするらしいが、俺はその対象には該当しない。って、シューヤが言うなら、そうなんだろう。
「俺とひなの兄貴は先に行くから。っていうか、卒業したばっかだから、もう校内に入るのに手続きいるから入らないよ? あと…こないだ道教えたから、問題ないね? 行った道以外で行かないように。いい? わかった?」
顔を寄せてきて、めちゃくちゃ至近距離で念押ししていく。
イケメンの顔面破壊力、こぇえ。
「…うん。制服、似合うじゃん。シファル……っと、こっちでの名前は覚えた?」
「え? …あー……、慣れないけどな」
シファルの名前は、配信の時だけってことにして、学生でいる俺のためにシューヤが用意してくれた名前は。
「椎名、だろ? 名字が。で、下が…ルカ」
「し…と、る…を残しましたぁ!」
「んな基準で名付けたの?」
「え? てきとーさが売りなんでね」
「…えぇー」
ここでの過去がない俺のために、シューヤが記憶操作魔法を使ってあれこれやってくれたのはいいんだけど、その設定を俺自身が憶えるのが結構…かなり…大変だった。
ザックリした説明は、シューヤの遠縁。以上!
細かい部分は、まぁ…聞かれたら答えるってくらいの気持ちでいる。
「とりあえず、途中まで一緒に行くよ」
「…ん」
わかりにくい、つかめない優しさ。
(俺が緊張してると思って来てくれたんだろ?)
なんて、心の中で思えば、コッチへと視線を向けて「ふふん」と鼻先で笑う。
「…ありがと」
心の中でじゃなく、直接いいたかった感謝の言葉。
向こうの世界では体験したことがないことばかりの繰り返し。そのゴールへと向かって、ただただやれることを続けてきた。
そして、そのゴールとスタートになる今日。入学式。
ひなとの、再会の日。
着なれない服で身を包み、いざ……決戦の場所へ! という心持ちで歩き出した。
制服の色合いは、不思議なほど落ち着く色合い。
俺が得た情報の中ではあまり見ない色合いの制服。淡い茶色がベースになっている制服だ。
大人っぽいといえば大人っぽいのかもしれない。
俺が元いた世界で、ひなと出会った時に着ていた服の色も茶系の長めのジャケット。それに白いスラックスだった。
普段は薬学の方をやっていたこともあって、白衣を着ている回数の方が多かった俺。
それでも、この色合いを身に纏ってひなと再会出来るのは正直嬉しい。
ひなも俺のとは若干デザインが違う、女の子用のそれを着てくるはずだとシューヤ。
上が淡い茶色のジャケットに、黒い縁取りがされていて、腰のあたりにはポケット。
下が同色のチェックとかいう柄なんだけど、ものすごく細かい模様らしくて、チェックと言わなきゃわからないし、近づかないと認識しにくい模様だとか。
よくわからんけど、全体的に高校生の年齢というよりもすこし上の年齢ぽくも見えるデザインだと俺は思っている。
ポケットにも、ジャケットの方と同じように、黒いラインが走ってて、腰のあたりと後ろのポケットの位置がわかりやすい。
その縁取りの線も、太すぎず見ための印象をむしろあげている気がする。…俺的に。
「じゃあ、ここから先は一人でね?」
家を出て裏通りを歩き、信号がある通りまで出てきたところで、シューヤが俺の肩をポンと叩く。
「いいかい? ここから先は、信号を渡る。まっすぐ行ってから、あの赤いポストがあるところで右に曲がる。そこまで行けば、遠くに学校が見えるから。道なりに行くといいよ」
「…ん。ここまでありがとう、シューヤ。入学式終わったら、連絡する?」
入学式の今日、ひなとの再会があるとはいえ、万が一再会が出来なかった時の保険をかけておきたい。
その思惑も、俺の心の声が全部聞こえているのならわかるはず。
確認をした俺に、シューヤは首をかしげて「いらなくない?」と語尾を上げる。
「…は?」
え? なんで? と思った俺に、シューヤは繰り返す。
「いらないって、連絡なんか」
と。
「ど…っ」
どうして? と聞き返そうとする俺をスルーして、早く行けとばかりに信号が変わった瞬間、背中を軽く押された。
「いいから、早く行きな?」
そう言いながら、時間がないよとでも言いたげに、自分の腕にある時計を指でトントンと示してみせる。
ひらひらと手を振って、シューヤは信号を渡らない。
渡りきったところで振り向くと、シューヤの姿はもうどこにもなく。
さっきまで一緒に来たのが嘘だったみたいなくらい、信号の手前の道のどこにもそれらしい後ろ姿も見えない。
「……行くか」
まるで放り込まれたような感覚を味わいながら、教えてもらった通りに学校までの道を進んでいく。
歩いていくと、俺と同じ制服を着た生徒が学校に近づくと増えていく。
俺が記憶しているのでは、あのポストを曲がるとそこから見えるすこし小高い位置に高校が見える。
ポストで曲がって、まっすぐ行って、そこからさらに左へ。ゆるい坂をのぼっていくと、やがて高校にたどり着く。
…の、はず。
入学祝いだと買ってもらったリュックというカバンには、まだ大したものが入っていない。これがこの後、かなり重くなるという。
まあ、何かあってもコッチでも多少の魔法は使えるし、こっそり使えばどうにかなるだろう。
一応、土属性と風属性持ちなんで。
ポストの道で曲がって、まっすぐ歩いていく。
思ったよりも寒くなくてよかった。この時期の北海道は、寒いんだって念押しされてたから、ジャケットの上に一枚羽織ってきて正解だった。ダウンとかいうのまで着ていたら、かなり見た目が暑苦しくなりそうだった。
緊張もしているけど、どこかのタイミングでひなに再会出来ると思えば、足取りも軽くなるって話だ。
――そうして、左に曲がる手前の道。そこで、結構な勢いで何かがぶつかってきて、俺は後ろへ向かってよろけた。
「ご…ごめん!!」
の声と同時に、その衝撃はあった。
よろけはしたものの、倒れるまでもなく踏ん張って。
「…っふぅーーーー」
思わずホッとして息を吐く俺に、誰かに見られている気配を感じて。
「危ないだろう?」
声を荒げすぎないように、声をかける。
ゆっくりと後ろを振り向きながら。
「………っっ」
息を飲む。
(――――ひな!)
ぶつかって転んだのか、道路に座った格好のままのひながいて、俺を見上げている。
召喚された時と同じように、金髪で肩ほどまでの髪の長さで。カラコンは入れていないようで、黒目のひなが俺をまっすぐ見上げていた。
俺と揃いのジャケットに、スカートの生地もデザインが短めのスカートなだけで大差ない。裾の方にも黒いラインが走っている。…可愛い。まだピアスは開けていないように見える。
ひなの様子からいけば、俺のことはまだ思い出している感じがしない。
ゴクッ…と唾を飲み、動揺を悟られないようにと自分に何度も落ち着けと言い聞かせる。
「だ…大丈夫か?」
俺が手を差し出すと、ひなが懐かしい顔を見せた。ふにゃりと笑う、気の抜けた笑顔だ。
「朝ごはん咥えながら走っちゃ、ダメだね?」
とかいうひなの手には、食べかけの見慣れた形のクリームパンがあった。
俺の手をつかみ立ち上がり、スカートをパンパンと手で汚れを払い、残っていたパンを目の前で美味そうに食っていく。
俺はどうしていいのかわからずに、朝食をすますひなを黙って見ていた。
「…はーっ、食べたー。ごちそうさまでした…っと」
本当に満たされたって顔をしたひなの口元に、パンかすとちょっとのカスタードクリーム。
元の世界でも、よく口に何かしらつけてたっけ。
(あぁ…いつものくせで、キスのついでみたいに取らないようにしなきゃ)
懐かしさと、まだその思い出に浸れない切なさが混在する。
「ここ、ついてるよ?」
指先で拭ってもいいけど、一応初対面で俺は男でひなな女の子で。それはさすがにダメだなと、ティッシュを使って拭おうとした俺。
「あ……やだ、恥ずかしいねー。高校生にもなって」
拭おうとした俺の手に、ひなの手が重なってそのまま二人で口元を拭うような状態になった。
キンッッ…と高めの金属音が聞こえた気がして、一瞬、まわりの気配を探ろうと視線を右へと流した俺。
「…………シファ、ル?」
と、誰かが俺を呼ぶ。
俺の耳は、その声を疑う。まさか、と思ったから。
だって、つい今まで、俺のことなんか初めましてって顔をして見てたんだぞ?
ゴクッ…と唾を飲み、何か言わなきゃと思うのに言葉が出ない俺の目に、ある物が映る。
「…その石は」
ひなの耳に、さっきまでなかったピアスがついている。しかもその石は、間違いじゃなきゃ俺と揃いの石だ。
マラカイト。
ピアス買ってあげると言ったシューヤに、ガラでもないけど願掛けの石が欲しいと告げた。
なんの邪魔もなく、もう一度ひなと生きていきたい。ひながこの場所で強く、明るく、笑っていくために。再会に向けての石を、と。
俺のは石がまんま、丸くついているだけのシンプルなデザイン。ひなのは、四つ葉のクローバーの形のピアスだ。
(さっきまで耳に何もついていなかったのに?)
手が震える。
触れたい、抱きしめたい、キスしたい、待ってたって…会いたかったって…入学式なんか行かないで、家に連れて帰りたい。
でも、ダメだ。今日という日は、ひなにとって始まりの日になるんだから。
今日という日を迎えられた時点で、ひながここに来た段階で、向こうでの瘴気の問題は聖女を召喚する必要がなくなっているということだ。
ひなに向かって、おずおずと手を差し出す。手のひらをひなに向け、タッチでもするみたいに。
少し驚いた顔をして見せてから、ひながその手に自分の手のひらをくっつけて、指の間に自分の指をさしこむとギュッと手に力を込めた。
やわらかくて小さな、ひなの手だ。
「…っ」
声にならない。言葉に出来ない。
「会いたかった……シファル」
ひなの手も俺の手と同じで少し震えてて、目には今にもこぼれ落ちそうなほど涙が溜まっている。
「…ん」
「お待たせ…」
「…うん」
本当はずっと見守ってきたけど、顔を知らなかったわけじゃないが、こうして会って触れてみてやっぱり違ったんだって痛感する。
「会いたかった…よ、ひな」
抱きしめたい気持ちを飲み込んで、今はつないだ手だけで我慢だ。
俺も気を抜くと涙がこぼれそうだ。
「入学式の朝に、二人でなにやってんだろうね。…ふふ」
どちらからともなく、手をつないだまま歩き出す。
「…だな?」
夢の中で触れた手からは、温度なんか感じることは出来なくて。
(あったかい…)
今はアレは本当に夢で、これが現実なんだと信じられる。
「そのピアスって」
とボソボソと小声で呟けば、「シューヤ兄ちゃんだよ」とあっさり答えをくれた。
「え?」
驚き、思わず足を止めると、ひなは自分のピアスを指先でトントンと突きながらこう言った。
「願いが叶うようにって、金髪にしてすぐに買ってくれたの。お兄ちゃんもなにか買ってくれたんだけど…なんか…こう…違うなーって特殊なデザインばっかりで」
そういえば、シューヤのところにピアスの話をしに来ていたっけな。
ようするに普段使いしにくいって感じだったんだな?
まるっきり知らない相手じゃないだけに、可哀想に思えてくる。
「家ででもいいから、着けてあげたら?」
俺がそう言えば、「うん、そのつもり」と外でつける気はないような返事が返ってきた。
一緒に左に曲がってから、遠くに見える高校へと歩いていく。
「桜…本当に入学式の時期に咲かないんだな」
とか言えば「この街じゃ、毎年入学式に咲いたためしがないよ」と笑う。
「シューヤから、オススメの桜並木を教えてもらったから、咲いたら一緒に行かないか?」
いつかのお誘い。
それに、ひなはあの場所で見た顔と変わらない笑顔で返事をする。
学校に着き、二人で自分の教室がどこかを探す。
「…ね。ないんだけど、シファルって名前」
その声が聞こえたタイミングで俺は、自分の名前が書かれた場所を見つけていた。
ひなが本気で困った声をあげ、真剣に何度も俺の名前を探してくれているのがわかる。
「あー……、申し遅れましたが」
なんて畏まった前置きをしてから、ひなの耳元にそっと手をあてて、ひなだけに聞こえるように囁いた。
「椎名ルカです。し…と、る…だけ一緒の名前なんで、以後お見知りおきを。ひとまず、一年間よろしくね? 1年3組のクラスメイトとして」
って。
まばたき数回分の間の後に、ひなが破顔して抱きついてきたけど、抱き返すのはガマンして、俺はイイコイイコするだけに留める。
シューヤが仕込んだ再会は、こっちの世界じゃよくあるベタな展開ってやつらしく。
「本当はトーストでも咥えさせたかったんだけど、どうしてもクリームパンがいいってひなが譲らなかったってさ。ひなの兄貴…ひなには甘いから、しょうがないよね?」
なんて、ヤレヤレって感じで俺の部屋で話すシューヤの横で、ひながぶつぶつと文句を言っている。
「だって、トーストだとパンかすすごすぎて、走れないんだもん。制服にこぼれまくるし」
とかなんとか。
俺はそんなひなの頭をイイコイイコとまた撫でて、シューヤに耳打ちする。
「早く帰ってよ、ねえ。せっかく二人きりになれると思ったのに」
って。
俺のそんなお願いなんか聞こえなかったふりをして、シューヤはひなに「ねえねえ」と呼びかけた。
「入学祝いに、飯食いに行こ? ひなの兄貴も誘ってさ」
なんて。
俺が知らないところで、入学式の後に会うことになってるんだったら、そりゃ…俺からの連絡なんかいらないっていうよな?
「あー…ぁ」
ガッカリもするさ。待ちに待っていたんだから。なのに、この仕打ちだもんな。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、ひなはいつものように、ふにゃりと笑っていた。
ひなと二人きりで過ごすのは、いつになるのか…今はまだ、不明。
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