92 / 96
久遠 12 ♯ルート:Sf
しおりを挟む~シファル視点~
ハイシンシャってなんだ。
駆け出しってことは、何かを始めたばっかりなんだよな。
『ハイシンシャってなんなんだ! なんでこんなすぐに、ひなの兄と顔合わせを? それと、なんでこんなに期待がこもった目で見つめられてるんだ? それに』
元の世界では一応お貴族でもあった俺は、感情を顔に出さずに会話をすることなんて問題なく。
それでもさすがに顔に出そうなこの状況に、目の前の彼には聞こえないようにシューヤに話しかけた。
『質問多すぎ。そんなに答えらんない。最初の質問忘れちゃったから、これだけ答えるね』
という声がしたから、すこしの期待をして何を教えてくれるのかと貼りつけた笑顔の裏で言葉を待つ。
『今、答えることはこれだけ。………彼は、ひなのお兄ちゃんだよ。シファルが知ってるひながコッチに戻ってくるまでの間、多分…あと一年半、かな。向こうの時間で。でもコッチでの時間はかなりゆっくり流れる設定にしてるから、ひなから話を聞いてて得ておきたい知識があったら言って? 学べる準備をするからさ。それと、読み書きは自動翻訳出来るようにしてあるからさ、さっきみたいに彼に話しかけたら普通に会話が出来るから。聞きたいことがあったら聞けばいいよ』
ちょっと待て、待て。
顔を知っていたから、ひなの兄貴だってわかった。…ってだけの話で、シューヤがいらん設定をして予期せぬ出会いを生んだってことで合ってるのか? これ。
(せめてもうちょっとコッチの世界に馴染んでから、誰かと知り合う時間を作ってくれたって……)
心の準備ってものをさせてくれないのは相も変わらずだろうと思っていたけど、まさかの展開だ。
『あー…あと、三日後にひなを見る機会だけ作るから』
そして、さらに増える謎。
『見るって、なんだ。会うじゃなく、見る? しかもさっき、俺が知るひなが戻ってくるまで向こう時間で一年半って言ってたのに、矛盾してないか? 意味わかんない』
よくわからんな。
「お前さ、俺の妹と同い年なんだって? …の割に、老けてる?」
シューヤとの会話の隙間に入り込む、ひなの兄貴からのツッコミ。
「老けて…」
自分よりも上の人から言われるその言葉は、思ったよりもダメージがデカい。
「老けているって言い方じゃなくって、大人っぽいって言い方にしてやんなよ。本当のことかもしれなくても、可哀想じゃん」
シューヤがフォローを入れたつもりなんだろうけど、逆だな。
「俺のこと、実はあまり好きじゃないよね? 多分だけど」
思わず嫌味を込めて直接シューヤに言い返せば、「さぁね」と口角を上げるだけ。
「…ぷは。柊也にしては珍しいな、こんだけ可愛がってるの」
俺たちのやりとりを横目に見、そんな感想が出てくるひなの兄貴。いまいちわからない人だな。
『ね? 悪い奴じゃなさそうだろ?』
今の会話のどこに、そう判断する要素が?
『あと、さっきの補足ね。ひなと再会するまでにいろいろ学んでもらうって言ってただろ? すぐに会わせるわけにいかない。だから…見るだけ』
俺が一番聞きたかった、ひなはまだコッチに来ないのにひなを見るぞという疑問。それに答えはくれない。
察しがよすぎたらよくないんだろうけど、もしかして俺が見るはずのひなの中には俺はまだいない? 出会う前のひな? だから、見るだけってなっている? 後になってひなが戻ってきた時に、アッチもコッチもってならないように、関わるなってことなのか?
(そういうモノの理っていうのか? 仕組みがよくわからないのが、難点だよな)
そんなことを考えつつも、こんなことも頭に思い浮かべる。
コイツがこれまでしてきたことや言ってきたことに、あやふやな部分は数多くあったけど、それでも意味のないことはなかったってこと。
『わかった、わかった』
従えばいいんだろ? ってくらいの気持ちで、心の中で相槌を打った。
『悪いようにはしないから、ね?』
なんて、どこか含みを持たせたことを言ってきてたって、このまま従ってた方がよさそうだ。
「で、さ。その駆け出しの配信者のシファルに、頼みがあって」
そういってひなの兄貴が身を乗り出してくる。
「勉強関係の動画を配信してるだろ? お前」
『ってことになってるから、ひとまずうなずいて? シファル』
「あー…まあ、はい」
テキトーにうなずくと、よしよしと満足気に俺以上にうなずくひなの兄貴。
「今って、中学二年の夏休み前だろ? 夏休み中の勉強のでよ、課題対策みたいなもんで配信ってしねえの?」
この世界の仕組みやここでの俺の設定がハッキリしていない以上、安易にしますとか言えないんだけどな。
「それに関しては、俺も監修にかかわって配信出来たらって感じだよ。…ね?」
だから、シューヤが言うことにうなずくだけ。そればっかだな、俺。
『ってか、やるの? 俺が?』
「それとよ、受験対策もやるんだろ? 俺の妹にさ、お前の動画オススメしとくからよ。俺がアイツに勉強教えてもいいんだけど、どうしても甘くなっちまって。…でも、動画とかだったらアイツが見たいタイミングで見たい動画を見て勉強に活かせるんだろ?」
チラッとシューヤを見ても、いつもの胡散臭い笑顔しか返ってこない。
「まあ、そう…ですね」
と、問題なさげな言葉で濁すと「それが動画の利点だよねぇ」と横から声がした。
『だから、動画とかの意味がわかんないんだってば。もっとフォローしてくれって』
コッチがどれだけ文句を言っても、これだ。
『とりあえず、三日後に今のひなを見に行くから』
そうして、そう繰り返す。
ひなの兄貴と配信の話をテキトーにかわして、見送って。
静かになった部屋で、さっきの話の説明を受ける。そして、三日後にどうしてひなを見に行くのか。
――初めて食べる、牛丼とかいう食べ物屋で。
赤いピリッとしたものをすこしのせると、味がしまって好みの味になった。
「やっぱりねぇ。紅ショウガの味、好きそうって思ってた」
それをカウンター席とかいう場所で、並んで食べながら三日後の話を聞く。
「ひなからさ、過去に起きた話って聞いてるかな。人に誘われて出かけた先で、いつになっても待ち人は来ませんでしたってヤツ」
一緒にいた歳月の中で打ち明けられた、ひなのコッチの世界での心の傷。
みんなが通うはずの学校という場所に行けなくなったひな。
コクンとうなずく俺に、シューヤが告げた。
「三日後が、その日になる。シファルには当日、俺やアイツと一緒にひなが出かけるタイミングで、玄関先で出くわす一人になってもらう。……でも、決してひなを止めないで」
シューヤの言葉に、心臓がドクンと大きく脈打った。
「なんでっっ!!」
――――もしも。
もしもの話で、ひながその時に心の傷を受けなきゃ、もっと違った人生を送れたんじゃないのか? 悲しい気持ちにならずにすんだんじゃないのか?
「回避させたらダメなのかよ」
箸という食事をする時に使う棒状のそれを、牛丼が乗ったトレイにパシッと揃えて強めに置けば。
「シファル、食事は静かにしなよ。まわりに迷惑だよ」
いつものような笑顔なのに、威圧感がすごくって。
「シュ…」
彼の名前を呼びかけて、その続きを飲み込んだ。
「遠い昔に話したから、きっと忘れてるんだろうけど……ひなの人生の中で、あの出来事は経験しなければならない。その先の選択肢の中をすこしだけ軌道修正するけれど、三日後のそれは手出しも口出しもさせない。…もちろん、アイツにもね」
シューヤが言った、アイツ。ひなの兄貴のことか。
「ひなに何が起きるか知ってるなんて言えば、アイツは絶対に祭りには行かせない。それか、一緒に行こうとするはず」
さっき話をした時の印象だけでも、ひなのことを大事に大事にしているのが垣間見られた。
「三日後に、アイツと俺と他数人でひなんちに行くことになってる。その数人の中に、混ざって?」
シューヤの説明に、その瞬間を想像してしまう。
「いいね? 絶対に声をかけるな。間違っても腕を掴んだりなんかも、許さないからな」
釘刺しってやつか。
「……そこまで言うくせに、俺はその場に必要なのか? どうして…このタイミングの場所に俺を」
肝心なところをシューヤは説明してくれない。
「俺はただ……ひなと再会するためだけにコッチに来たんじゃない」
そうだ。
俺は、何度となくひなから聞いていた心の傷の話を、何も感じずに聞いてきたわけじゃなかった。
カルへの劣等感から暴走した結果、自爆した俺。
鬱屈としていたくせに、何も感じていませんよって顔をしてまわりに本音を明かすことも出来ずに生きて。
その中で聖女のサポートに選ばれ、カルと一緒に聖女をサポートすることになったことで、さらに仮面を貼りつけるようになり。
長いことかけて胸の奥に抱えていた傷を隠すことしか出来ずにいたのに、ひなと出逢ってからは仮面の端っこから崩されていった。
それは怖くもあったけど、それでもひなが一緒に前を向いて歩き出そうとしてくれているみたいで、躊躇いは半分になっていた。
ひなが俺を救ってくれたように、掬い上げてくれたみたいに、俺もひなを……って頭の端っこにはいつもあった。
元の世界で召されるまで、ずっとずっと…気がかりだった。
元いた場所での傷があって、召喚までに過ごした時間があって、そうして俺たちの元にやってきて。
魔法で時間を戻せるのなら、戻せたのならって思ってたんだ。
今、俺のまわりにある光景は、まさにそれのはず。
ひなだけに時間軸を置いたとして、時間は戻ってる。俺の中ではコッチでは始点ってものがない。だから、ここがスタートだ。
そのスタート地点にひながいるのなら、過去のひなに俺という存在がなかったのなら。塗り替えることが出来るんじゃないのか? って願っていたことが、こうして現実になっているのに。
「……傷ついてほしくないんだよ…俺は」
そうこぼす俺を横目に、最後の一口を容器に直接口をつけて流し込むようにシューヤが食べていた。
なんて行儀悪いんだろうな。俺たちが身に着けさせられてきた作法なんて、まるでなかったみたいな食べ方だ。
シューヤは俺よりももっと上の立場にいたはずで、きっとそういう作法だっていろいろ学ばせられたはずなのに。
「あのね、シファル。郷に入っては郷に従えってことばがあるんだけどさ」
「ご…ごう?」
初めて聞く言葉に、何とかギリギリ聞き漏らさなかった部分だけを繰り返す俺。
「郷に入っては郷に従え。たとえね、自分の価値観とは違ってても、その土地や場所っていうか集まりっていうの? そういうとこの慣習ってか習慣? に従って暮らした方が生きやすいよってやつね。かしこまった場所でかしこまってもいいけど、こういう場所でお上品に食べるよりもこうやって食べた方が旨い。だからってんじゃないけど、今までの場所とは何もかも違うってことを俺も知ってて言うけどね? ここで生きるつもりなら、ここで過ごしやすくしてた方がいいじゃないの? そういうのも人の中には、小さな負荷がかかって、溜まって。それがアッチにいた時の瘴気になっていた原因の一旦でもあっただろ。けど、生きててさ。なーんの負荷もかからずにいられる環境なんて、ぶっちゃけ存在しないもんなんだよ」
という最後の言葉に、俺も同意する。
「けどね、ひなに関しては、あの時あの瞬間の出来事を経ていなきゃ、ひなにとってキッカケが出来ない。俺だってね? シファル。ひなのこと……大切なんだよ。守りたいんだよ。シファルからしたら俺のやり方に付き合わせるようなもんだから、余計に納得できないんだってわかってるよ。でもね、俺は……未来が視えてたから。そこを経るのと経ないので、どう違うのかを知ってる。だからさ……シファル」
店から出された緑色の、薬草茶によく似た飲み物を一息で飲み干してから。
「信じて、一緒にひなを見守って…支えるための力を貸してほしい。その方法の中に、配信者ってのがあるんだ。そしてそれは、現状でいえばシファルにしか頼めない」
いつになくシューヤが真剣な顔つきをした。
「俺だって、あの子を愛おしく思ってんだよ。恋愛のそれじゃないけど、大事なんだよ」
「…シューヤ」
(恋愛のそれじゃないけど、愛おしい相手。俺がひなに抱いた感情に近いそれを、シューヤが抱いたきっかけは何だったのかな)
いつもみたいにいろんなことをはぐらかす部分は、微塵もない。そんなシューヤに聞きたいことが増えたけれど、今はその質問を飲み込む。
「わかったよ、シューヤ。俺がコッチで何をすればここでの未来がどう変わるのかはわからないからさ、ちゃんと教えてくれるなら。それなら…力を貸すよ。それが結果的にひなを救うことになるんだろ?」
と、俺が言えば無言で微笑むだけ。
(ああ、これは肯定だな)
なんだかんだでかなり長いことシューヤとは時間を過ごしたからな。なんとなく、イエスかノーなのかを仕草でわかるようになってしまった。
(ちょっと不本意だけどな)
どうせならひなとそういう関係になるのが、もうちょっと早かったらとか思ったくらい…シューヤの方がわかりやすかった。
ただし、腹黒な空気が漂うことが多いから、理解しても嫌な予感しかなかったんだけど。
「それじゃ、ここでの食事を終えたら、シファルがコッチで暮らすために必要なものを買いに行こう」
なんてシューヤに誘われて出かけた、たくさんの場所。物。人。
どれもこれも、元の場所とは違いすぎて、俺らしくなく視線があちこちに動いてしまう。
「くっくっくっ…。シファルがらしくなくって、かぁーわいいねー」
俺を小バカにしているとわかる、間延びさせた口調のシューヤに。
「るっさい」
シューヤと過ごすようになって出るようになった、崩れた口調の俺。
(でも、悪い気分じゃあ…ない)
この世界で生きていく中で、ひなだけじゃなくて俺自身も新しい俺と出会える予感もして。
「さ。次はこっちね。…ほら、信号が変わるよ?」
「え、あ」
シューヤの後を追って、俺は駆けていった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
黎
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――


我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★

親友に裏切られ聖女の立場を乗っ取られたけど、私はただの聖女じゃないらしい
咲貴
ファンタジー
孤児院で暮らすニーナは、聖女が触れると光る、という聖女判定の石を光らせてしまった。
新しい聖女を捜しに来ていた捜索隊に報告しようとするが、同じ孤児院で姉妹同然に育った、親友イルザに聖女の立場を乗っ取られてしまう。
「私こそが聖女なの。惨めな孤児院生活とはおさらばして、私はお城で良い生活を送るのよ」
イルザは悪びれず私に言い放った。
でも私、どうやらただの聖女じゃないらしいよ?
※こちらの作品は『小説家になろう』にも投稿しています

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる