「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。※シファルルート

ハル*

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空を仰いで、アナタを想う 7 ♯ルート:Sf

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~シファル視点~


なんだろう。

自分の中のちっぽけなものを捨ててしまっただけで、こんなにも心が自由な気持ちになる。

凪いでいる感覚もあり、自分を一番苦しめていたのは自分なんだと嫌でも理解する。

「ナーヴ?」

不意に親友に声をかけると、いつものそっけない声で。

「後から話はいっくらでも聞いてやる。今は大人しくしとけ。もうちょっとの辛抱だ」

なんて返してくる。

「…了解」

だから俺もそっけなく返すだけだ。

俺たちの会話を聞き、カルナークが不思議そうな顔をして。

「ほんと、会話だけ聞いていたらさ、仲がいいのか悪いのか時々わからなくなるよね」

っていう。

「まぁ…な」

なにが、まぁな…なんだか。返事のようで返事じゃない。

そんな自分が可笑しくて、ふ…と笑うと俺以上に嬉しそうな顔で目の前の弟が笑う。

遠くではジークとアレクの声だろう、多分。教会関係者を遠ざけているようなのが、視線の端にちらっと見えた。

「面倒だよな……。何も事が起きなきゃ、制することが出来ない……関係って。……ツッ」

体の中で、ツキンと一瞬痛みが走った。

「だ、大丈夫か? 兄貴。あんま、早く治せなくって…ごめん」

「…いや。ダメかと思ってたから、十分助かってるよ」

治療を施されながら、上空の二人を見上げつつ思案する。

――そもそも、の話。

どうして“俺”が攻撃された?

それと、教会の連中には攻撃魔法は“ほぼ”ない。唯一あるとするなら、聖女とは違う質の聖属性魔法だけ。

浄化には適していないからという理由で、今回は異世界からの召喚になったわけだ。

教会関係者の中から、浄化に適している人間がいたらそっちで賄えただろうし、聖女を召喚するよりも威厳云々につながったんじゃないのか?

適任者がいなかったから、召喚した。…だけ、だったよな。

そして、その聖女と懇意にしていると言われているのが、俺。

俺を傷つけることで、何をしたかった? 見せたかった? なんらかの状況に陥れたかった?

教会の連中は、他のどんな奴らよりも欲深い。自分たちへの利益が多くなればなるだけ、頬をゆるめているはずだ。

「…カル」

小声で弟を呼べば、何かを察したらしく同じように小声で「なに?」と返してくる。

「俺が攻撃を受けた瞬間の状況、もしくは、治療をしながら受けた攻撃の属性なんてもの…把握できるものか?」

他の人間ならいざ知らず、ナーヴとカルナークの魔法に関しての知識や応用力は、他の追随を許さない。

どこぞのやつらには頼めないけど、もしかしたら二人なら…と思うことは過去にも多々あった。

口に出してみて、無理なら仕方がない。

可能性の問題だな。言ってみて、検討可能かどうか…から、調査が可能かまでは二人にしか判断しきれないはず。

これまで得てきた経験や知識のなにがそれに適用するかなんて、二人からすれば素人に毛が生えたみたいな俺たちには見当がつかないんだから。

「え? そんなのとっくに調べ済みだけど」

(…ほーら、な?)

こっちがアレコレ思案するまでもなく、勝手に動いていることも多い。

(ホント、よく出来た弟だよ)

「それって、まだ誰にも報告は?」

そう呟けば、あごでアッチに報告済みだと示してくる。

それもあって、あの二人が教会関係者を抑えているってことなのか?

「でも、その攻撃の意味がどうしてもわからない。その攻撃の中に、別の属性も混ざっていたからさ」

「別?」

「んー…、なんていうか、土…なんだけど、兄貴も持っているからどういう感じかの感覚は知ってるはずなのに、魔力が弱いというよりも、触れられる感触っていうの? それがひどく…鈍い? うー…ん、なんて表現すればいいのか難しいな」

多分だけど、その言葉のままなんだろう。形容しがたい感覚の土属性の何かしらが在る、と。

「どうして土属性だったんだろうな。俺が土属性だって知ってるやつはいたはずなんだけど。薬学の勉強をしていく中で覚醒したものだったから、教会の方にも話は行っていたはずだし」

「土属性に、土属性で攻撃をする意味……。なんだろな、このモヤモヤさせられて不快感しかないのって」

眉間にしわを寄せて、心底嫌がっている時に見せる顔になる。

「治療に影響って出そうなのか? それ」

呼吸を整えながら、手を何度も開閉を繰り返してみる。さっきまでは手に力が入りきらなかったけど、すこしずつ戻ってきている気がする。

「治療は出来ると思う。教会のやつらよりは時間はかかるけど、全回復まで出来なくても…。ただ、さっき話した土属性のやつが、兄貴の魔力と混じりはじめてて…剥がしきれない」

「え。俺のと、混ざりはじめた?」

嫌な予感がする。

「俺が陽向にマーキングしたりしたものって、剥がせるようにって輪郭つけてあるんだよ。だからいざという時に回収しやすい。……でも、コレ……細かい粒子みたいになってて、別個の魔力を体に認識させて弾かせるっていう仕掛けでも作らないと、完全に体内から追い出せない」

「カル」

弟の名を短く呼べば、その顔には緊張が走っている。

「俺が言いたいこと、わかってるのか?」

痛みで冷や汗が浮かんでくる中、思考をまとめるのが難しい。

「なにがどうかはわからないけど、仕込まれた…? 時限式かそれとも……」

その言葉に、俺も無言で同意を示す。

胸の奥が重たくて、どうにかなりそうだ。

「もしもそのせいで、浄化かひなに影響が出るなら…俺は」

腕を両目を隠すようにしてかぶせると、俺は唇を噛んで涙をこぼした。

大切な二人が頑張っているのに、足を引っ張るようなエンディングを迎えさせたくない。

俺が浄化のサポートに入りたいなんて言わなきゃ、そんなモノ仕込まれなかったかもしれない。

それかもっとわかりやすい形で手を出してこられた方が、こっちも制しやすかったんじゃないのか?

俺の存在は、この場所に……。

「…貴? 兄貴?」

弟が俺を何度となく呼んでいた、らしい。

――のに、俺は気づけない状態になっていた。

されていた。

「!!!!!!! 兄貴!」

「どうした、カルナーク! シファ!」

弟の声にナーヴが反応して、俺たちを呼ぶけれど。

「兄貴っっ!」

俺に聞こえてくるのは、何層にも膜を張られたような距離感の遠くからの声。

誰の声かも判断できないほど、頭も回らなくなっている。

治療を受けていたはずの俺は、ふわりと淡い緑色の光を纏って大樹の下側の魔方陣の前に立つ。

まっすぐに手を魔方陣へ突き出し、手のひらで魔方陣をトン…と押し出すように当てて。

連係解除リリースそして、彼の力を届け、封印せよ』

俺の口から出た言葉は、カルナークが知らない言語のもので。

「兄貴!」

カルナークが俺に触れようとしても、淡い光の膜がそれを拒み続けていたらしい。

魔方陣の中心から、淡い緑の光が陣の端の方へと広がっていき。

「え? …は? おい! どうした!」

上空で浄化をしていた二人にも異変が起きて、戸惑い慌てる声が通信魔法経由で届いていた。

それを俺は遠くで聞きながら、どうすることも出来ないまま。ドコカを漂いつづける。

自分のせいで起きている出来事に、何一つ手を打てないで。

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