「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。※シファルルート

ハル*

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空を仰いで、アナタを想う 6 ♯ルート:Sf

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~シファル視点~


大樹の上に二人がいて浄化を進めてて、俺は下であらかじめ魔方陣に認識させていた自分の魔力を指先に纏わせてから。

ト…トンと二回、ノックするように魔方陣へ合図のように触れさせた。

触れた先から、ゆっくりと侵食していくような俺の魔力。

ひなには言わずにいた、俺とナーヴだけの秘密の構築を持つ魔方陣。

この魔方陣を経由して、ひながこの浄化で命を落とす可能性を減らせるかもと二人で考えたモノだ。

やがてゆるやかに魔方陣へ広がり、まんべんなく馴染んでいった俺の魔力。

魔方陣に俺の色もうっすらとだけど混ざって、波打つように色が動いていくんだ。

(…キレイだ)

見とれるほどの魔方陣に目を奪われていた時だった。

背後に嫌な気配がある。

(これが警戒していたやつか?)

気づいていないふりをして、ずっと魔方陣に指先をあてているように見せる。

まるで集中しているように見せかけて、相手の出方を待つ。

本音を言えば、行動される前に止めてしまいたい。

焦れる気持ちと逸る気持ちを飲み込んで、捕らえられる状況を作れる瞬間を待つ。

教会の連中は、ひなが聖女だからこその恩恵を受けてきた。そして、それは今後もその恩恵にあずかりたいと願っている。

教会の連中の中には、俺たちの意見に賛同する人もいるらしいけど、それでもそれを安易には口に出来ない。

聖女の召喚の儀式のために使われた能力は、教会に入信した中から選ばれた人間へと継承され続けてきたらしい。

いわゆる後付けの能力ってことだな。

でも、調べれば調べるだけ使い捨てのような選ばれた人間だった事実が浮き彫りとなり、召喚の大変さと教会という立場にあるくせに人の命を軽く見ている落差に呆れ、怒りをおぼえた。

召喚にかかわった関係者は、俺の魔力枯渇に近い状態になってしまい、その後はただ一般人のように下働きへと降格される。

召喚にかかわるという重要な仕事を任されておきながら、最終的に冷遇っていうのが納得できない。

今回のひなのことがなきゃ、そんな事実を知ろうともしなかったはずだ。そしてそれは、これまで同様に知られずにいたんだろう。

俺に施術された魔力補充が、どの属性にでも対応可能となれば、下働きに堕とされたこれまでの貢献者たちを救えるかもしれない。

それこそ、ナーヴが望む形だ。俺を救いたいと思い、魔力の補充が出来るようになるまでの舞台を整えてくれたように。

一度あった魔力の総量を戻すことが難しい場合、俺のように戻せることが実証されたのだから。

現在教会にいるだろう魔力枯渇対象者は、アレクの方で把握済みだと聞いているし。浄化さえ無事にすめば、俺のように時間をかけて体に魔力を戻していける。

(ほんと、いろんなことを解決するキッカケくれたよね。ひなは)

そして、それを可能にしてしまった俺の親友、ナーヴ。

(だからこそ、護りたい。ここを護ろうとしている二人を、二人が護ろうとしている場所を)

二人に危害を加えられないようにと、俺にしてはかなり警戒していた…つもりだった。

本当に、上空の二人に対してと、背後で浄化を見守っているんだろう教会関係者に。

キン……と、金属音のような小さな音がした気がしたんだ。俺は。

本当に小さな小さな音で。

(……あ)

声をあげる間もなく、俺は地面に倒れこんでいた。

(今…なにが?)

下の魔方陣経由で上空で浄化を進める二人に、ナーヴが準備していた結界とは別で防御壁を展開させていた。

ひなの体に体に纏うように展開された結界。俺の防御壁は、保険だったんだ。

二人にだけ展開させていたそれで、教会関係者から護れると思っていたのにな。

「兄貴っっ!!!」

カルナークの声が遠くから聞こえてくる。

もっと遠くではアレクとジークの声も聞こえる。

耳には直接ナーヴからの声。

「シファ! 何があった! シファ!」

って。

そのすぐそばから、ひなの戸惑うような声。

(おかしいな。俺は二人の手助けがしたくて、この場所に立っていたはずなのに)

「だい…じょぶ、だから。浄化、や…っちゃいな、よ」

何かが体を通り抜けた感覚があった。ほんの一瞬の出来事だったんだと思う。

「ゲ…ホッ」

咳込むと口から血が出てきて、攻撃を受けたんだと嫌でも理解してしまう。

「兄貴!」

カルナークが俺の体を起こして、大粒の涙をボトボト落としてくる。

「泣きすぎ、だ」

俺がそう呟くと、だってばかりを口にして泣き止まない俺の弟。カルナーク。

「どうなって…る? 俺は」

把握しきれていないことを聞けば、教会関係者から魔法で攻撃を受けたという。

物理じゃなく、か。

「はぁ……っ。治、癒担当も教会…関係者だ、から、治療は無理、か」

切れ切れに現実的なことをいえば、目の前の弟が唇を強く噛んでしまう。

「噛むな、口」

右手をカルナークの口元へ持っていくと、その手をカルナークに握られた。

「兄貴…こんな時にこんなこと…していいのかわかんないけど……、まだ成功したことない…けど……ヒック……治癒…出来るか、試していい?」

泣きながらもカルナークが出してきた提案に、俺は目を見開く。

カルナークは水と風の属性を持ち合わせている。

治癒関係の属性ではないだろう? それとも後発でなにかが覚醒したとでも?

「カル…」

まだどこか幼い弟が無理をしてないか、心配になる。

「気にすんな。多分…しにゃー、しな…いから」

チラッと自分を見て、見える範囲ではそこまでの出血じゃない。

無理する人間は少ない方がいい。だからと、弟に言い聞かせたつもりだったのに。

「たとえ死ななくっても、兄貴が痛かったり苦しい思いをしている時間があるだろう! 気づかいなんか、いらない!」

泣きながらも、俺の体を左腕で支えながら、右手を俺の心臓のあたりにかざして。

「絶対、嫌だからな」

涙も鼻水も垂れ流したまま、魔力を俺に照射するようにして小声で呪文を唱え始めた。

それは長い長い呪文で、小声過ぎなのと、ところどころ聞こえる言葉が聞いたことのない言葉でよくわからなかった。

長ったらしい呪文を言い終えたようで、手のひらから淡い水色の光がゆっくりと広がっていき、俺の体を包みこんでいく。

この色は水属性のはずで、治癒に適した魔法なんてなかっただろう。

「これはね…兄貴。ひなとの訓練と、兄貴への魔力補充の副産物っていってもいいんだ。…奇跡みたいな能力が、俺に与えられたんだよ」

治癒魔法なんてものを持っていれば、教会の方へ属しろと言われるだろう。それだけ特別な能力が治癒魔法。

「まだ安定して使える状態じゃなかったから、誰にも言わずにいたんだけど」

ひたいにうっすら汗をにじませ、俺へと治癒魔法を施しつづけるカルナーク。

「どうか…このまま、効いてくれ」

こうしてカルナークから治癒魔法をかけられている間も、ナーヴからの通信はつなぎっぱなしだ。

「大丈夫…でいいのか? シファ」

ナーヴがすこしトーンを落とした低めの声で確かめてくる。

「んー…だいじょ、ぶじゃない? ね、カル」

正直、魔法で撃たれただろう場所は痛いし、体が悲鳴をあげている。キッツイ。

「カルがね…治してくれてる。…ふ。俺の…弟、出来過ぎ…だろ?」

俺がそう返事をすると「あー…完成したのか、アレ」と知ってたっぽい言葉が返された。

「なん、だよ。兄貴より…も、兄貴っぽ、い…ナー…ヴ頼りか、よ」

目の前のカルナークに、小さな嫌味を言えば、バツが悪そうに目をそらされた。

「は…。怒ってないから、ちゃんと…顔見せてて」

カルナークが施している治癒魔法は、かなりゆっくり治してくれる。正規の方法じゃないからなのかもしれないけど、それでもすこしずつ体が楽になっていくのがわかる。

魔法を使っている間、ずっと泣きっぱなし。

幼い時のカルナークそのままなのに、俺にやってくれていることはものすごく成長した姿で。

(本当に認めなきゃ、だな。カルナークは、俺の弟は…すごい才能を持っている)

カルナークに対して抱えていたコンプレックスを、今ここで捨ててしまおう。

もう、どうでもいいや。俺の器の小ささなんか、どうでもいいや。

「ありがとな、カル」

腕をあげて、カルナークの頬を撫でる。

ふにゃ…と頬をゆるめた弟へのコンプレックスが消えた瞬間だった。

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