「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。※シファルルート

ハル*

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瞳に映りこむモノの存在 4 ♯ルート:Sf

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元の世界のお兄ちゃんみたいに、シファルの過保護モードがONだ。

多少は動かなきゃ体力も筋力も落ちてしまうらしいのに、ちょっと起き上がればいつもオロオロしながらサポートしようとしてくる。

「もう少し動けないと、浄化の時に困っちゃうよ。…シファル」

自分を想ってくれている人に釘を刺すのは、胸が痛い。

けれど、他の誰かに頼めることでもなし。

(頼めても、ナーヴくんくらいかな)

頼みにくい人しか浮かばないので、結局のところは自分で言わなきゃ…って感じだ。

三日前にジークから告げられた、自分が死ぬかもしれない未来の話。

やっぱりねとは思っていたから、悲しくなったりもせずに受け入れられた。

それでも無になることは無理で、時々思い出してしまう自分の弱さを垣間見る。

これまでの聖女たちの生存率が高かったら、もしかして…なんて思わずにいたんだろうに。

可能性があれば、最悪を想定しておかなきゃ怖くて仕方がないもの。

元のいた世界でだって、人との関わりあい方に期待をする時があっても、同時に最悪な裏切りも想定しながらじゃなきゃ過ごせなかった。

それでもすぐに期待する方へと揺れてしまったから、あのお祭りの日みたいな出来事へもつながったんだよね。

今更のようにそれまでの自分を思い出してみれば、お兄ちゃんとお兄ちゃんの友達以外とは交友関係がかなり希薄だったんだなと痛感してしまう。

向こうから信じてもらえなかったり軽く見られたように、こっちもまるで鏡のように信じきれていなかったんだろうし、何か軽く見ていた部分があったのかもしれない。

ある意味、お互いさまだったのかも…ね。

それでも、だ。今回に関しては、最悪は何パターンも想定していい気がしている。むしろ、しなきゃ。

浄化。それと、浄化の後のこと。特に今後については、まだ研究が進んでいないし、情報が足りていない。

もっと広範囲に協力者がいたら、進行具合も変わるはず。

それだって、あたしがもっと早い段階で心を開いていたらよかったんじゃないかと後悔する。

万が一という言葉が、頭を離れない。

それをどうにかしたくて、自分がいなくなってからの願いを書き記す。

浄化が必要ない世界、もしくは浄化のためにダレカを喚ばなくていい世界。

自分なりに得たり考えたことを、可能な限り書き残す。

魔法がある世界に生まれた人たちならば、第三者のあたしならではの視点で気づけたことから、違う発想で犠牲者がいない世界を創りあげてくれるかもしれない。

魔法に精通していると言えば、カルナークとナーヴくん。

この二人には特に魔法の組み合わせに関して、期待をしたい。

これまでの召喚にかかわってきた人たちにはない発想力で、現状を打破してほしいんだ。

そうしていけば、ナーヴくんが浄化がちゃんと出来たのかとか、自分の体調に悪影響があるものについて警戒せずとも生きられるようになるでしょう?

(――――たとえ、同じ場所にあたしがいなくても)

好きな人がいて。

自分を大事に想ってくれる誰かがいて。

大切にしてもらえた、思い出の場所があって。

「もしも、一緒の時間を過ごせなくても……」

その言葉が口をつけば、言葉に引っ張られたかのように涙が一滴こぼれてしまう。

でも、たったそれだけだ。

どこかで自制している気もする。今は泣いている場合じゃない、と。

自分の中の恐怖や切なさというセンチメンタルさに、どっぷり浸って自分を泣かせてあげられる暇はないって。

ナーヴくんが「あれは嫌がらせだ」と言ってくる部屋の天井いっぱいの星空。

感謝を伝えても、「嫌がらせに感謝する意味が分からねぇ」と返してきて、ちっとも受け入れてくれない。

その星空に、ずいぶんと癒されているんだけどな。

今、シファルはいない。

ジークとアレクと一緒に、教会の方へと赴いているから。

あたしへと投げつけてきたあの言葉に関してと、あたしへの態度について。

そして、今後は聖女を召喚せずにすむ方向で進んでいく予定なのを、通告という形で知らせに行くんだと。

通告という形なのには理由があって、聖女召喚のことがあったから教会が幅を利かせてきた部分があり、皇族の方で強く出られなかったことも多々あった。

それが今後まるっとなくなることになるので、この機会に立場をわきまえろと線引きするための話みたい。

シファルが一緒になったのは、浄化の後に行われることに関して関わることになったから。

プラス、証人として。

前者の方について、教会関係者の中で協力を仰ぎたい人が数人いることもあり、その話も同時にするとか。

「一気に話が進みだすと、いよいよなんだなって気持ちになるよね」

ゆっくり立ち上がり、バスルームへと向かう。

途中の棚で、バスオイルが入った小瓶を手にし、バスタオルを二枚持って。

入浴自体は体力がもうちょっと回復してからねと言われているから、いわゆる足湯だけしに来た。

すこし高さのあるスツールに、バスタオルを畳んで敷き、バスタブのそばに置く。

ちゃぷりと足だけバスタブに入れると、バスオイルのいい匂いがふわりと広がっていく。

足首から先だけ上下にプラプラ動かして、波立つそのさまをボーッと見つめていた。

しばらくそのままでいると、じんわりと汗が浮かんでくる。

もちろんカルナークの水も持ってきているので、合間に水分補給は怠ってない。

「……のに、な」

保護者がやってきてしまった。

「大丈夫か? のぼせていないか?」

「いつから入ってた? 水分は…とっていそうだな」

「あぁ、もう。汗ちゃんと拭かないとダメじゃない」

三人も、いっぺんに。

「もうあがるってば」

文句にも近い言葉だけど、顔は笑ってしまう。

自分を大事に思ってくれていると、肌で感じられるのが、たまらなく嬉しい。

元いた世界でこの手の中にあった、お兄ちゃんたちのような優しさと愛情。

場所が変わってこの手に得られると思っていなかったけれど、向き合えば…手に入るんだな。

「……へへ」

思わず頬をゆるめていると、保護者×3から睨まれてしまった。

睨まれても嬉しい。…ふふ。

三人にサポートしてもらいつつ、バスルームを後にした。

というか、最終的にアレックスが抱きあげて強制的にベッドに移動となった。

「…あ」

もう一人、いた。

「陽向! 下着はどれがいい? 昨日は白だったから、今日はピンク! いや…淡いグリーンも捨てがたいよね」

女の子に免疫がなくって、恥ずかしがり屋で、顔にいろんなものが出やすい…人だよね。

ね、カルナーク。

なのに、どうして?

「なんで、そんな普通に女の子の下着選びが出来るのぉ?」

こっちが真っ赤になってしまう。

まぁ、あたしが下着姿の時に気を失ってきた回数が多いから、見慣れてしまった……? とかもありそうだけど。

「嬉々として、下着を選ばないでよ!」

彼の手から下着を奪おうとしたら、意に介さず…といった感じで、無言で二色の下着を差し出して選べと伝えてくる。

「……こっち」

淡いグリーンの方を奪い取り、部屋のドアを指さした。

「……出てって」

さすがに着替えまで干渉されたくない。

こういった世界でよくあるメイドさんに着替え云々があるけれど、あたしの頭に瘴気っぽいアレが確認出来て以降は念のためでメイドさんはつけていない。

何かがあってもという意味と、浄化間際で漏洩したらまずい情報も飛び交うので、関係者のみ入室可能にした。

「じゃ、じゃあ…出ていく前に……」

と、カルナークが風魔法で髪を乾かしてくれた。洗っていなくても、汗はかいていたから嬉しい。

「ありがと」

「…ん」

感謝を素直に伝えたら、今度は真っ赤になってみんなの後をついていった。

真っ赤になる基準がイマイチわかりにくいや。

着替えをし、水分をとり、あの飴を舐め。

メイドさんを呼ぶ時のベルを、軽く振る。

チリンと小さく鳴っただけなのに、ドアのそばにいたんだろうタイミングでみんなが入ってきた。

他愛ない話をし、ただ眠くなるまで話す。ここんとこ、そんな日々が続いている。

(……でも、今日は)

「ジーク」

シファルからカップを受け取って、優雅な仕草でお茶を飲んでいたジーク。

いまだに明かされていないけれど、他の人との対応や行動範囲諸々が別格なのはジークとアレックスだけ。

王族か、それに準ずる立場だと思う。

「みんなの立場が明かされない理由は、なんとなく…わかってる。それを踏まえた上で…、お願いがあるの」

禁書庫のあたりで、特にそう感じてた。

「ん? なぁに?」

いつものように、ふわりとした空気を纏って、ベッド横のイスに腰かけ。

「ひなの話なら、何でも聞くよ?」

視線の高さを合わせ、ちゃんと向き合おうとしてくれる。

人との付き合い方でお手本にしたいのは、この二人かもしれない。

「ジークと…アレックス。二人だけと、話がしたい」

ものすごく緊張する。

もしかしたら、いわゆる不敬なことを伝えるかもしれないから。それと、口にしたくないことも。

両手に自然と力が入る。

ジークはアレックスへ視線を向けた後に、すすーっとシファルとカルナークに視線を動かし、その直後に小さくうなずく。

シファルとカルナークはそれに対して無言でうなずき、部屋を出ていった。

「あり……がと」

「ううん、いいよ。ひなのお願いなんて、なかなかないしね」

「…あぁ。もっとたくさんお願いでもおねだりでもされたいところなのに、陽向は謙虚すぎるからな」

本当に最初に話したのは、アレックスだったな。

その後、ジークのスキルの話があって、アレックスのスキルで念話して。

「……懐かしいな。この三人だけで話したあの日が、すごく昔みたい。…そんなに経ってないのにね」

あたしがそう言えば、すぐに察したのかアレックスが「念話で話すか?」といたずらっこみたいな幼い顔つきで返してくる。

「あはは。今日は念話じゃなく、普通に話したいから…いいよ」

正直にそう伝えれば、何も聞かずに頭を撫でてくれた。

大きな手で、ゆっくりと、繰り返し…繰り返し。

「じゃ、聞こうか。ひな」

ジークがふわりと微笑み、ベッドにあるあたしの手に手を重ねる。

見つめる先、ジークに重ねられた手の指先が、かすかに冷たい。

(ジークも緊張してるのかな)

一緒だなと感じたら、それが自分の背を押してくれた気がする。

(ちゃんと話そう。伝わるまで、自分の気持ちを)

「……うん」

アレックスがベッドに腰かけて、半身をひねった格好であたしへ向き合う。

「二人だけに、聞いてほしいの」

どうか伝わりますように…と祈りつつ、あたしは顔を上げた。


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