「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。※シファルルート

ハル*

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いわゆる、他人事ってやつ 1 ♯ルート:Sf

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シファルとアレックスと三人で禁書庫へ……。

行くんだろうけど、何度もシファルと目で不安さを伝え合うほどに謎な状態になっている。

ジークに言われて、三人で禁書庫にと言われてきたものの、アレックスはいつまでも禁書庫らしき場所へ向かっている感じがしない。

何度か確認をしてみても、向かっているよとしか返してくれない。

アレックスが先導して、その後ろからあたしとシファルがくっついて歩き続けている。

…それだけの状態なんだ。

「城内の散歩とか案内は、もういいんだよ? アレックス」

そう話しかけても、アレックスはもうすぐだからと言うだけ。

「さっきもそう言ってた」

困ったようにそう返せば、はははと笑って歩き続けるだけなんだ。

時々アレックスは懐中時計を手にして、時間でも見ているのか何度かうなずいてはひたすら歩いていくだけ。

螺旋階段をゆっくり上がっていく。

思ったよりも段数が多くて、すこし息が切れてしまう。

「抱いていってやろうか? それとも背負うか?」

アレックスがそう言ってくれたけど、子ども扱いをされているみたいでなんか嫌だった。

「どこまで行くのか知らないけど、自分であがるもん」

もん…とか言ってる時点で子供みたいだなと恥ずかしくなりつつも、シファルが手をつないで引っ張ってくれているのでそのまま行くことにする。

「シファルばかり、いいなぁ」

と笑いながら先を行くアレックスが、不意に階段の途中の踊り場で壁に手をついて、大きな石状のものを押し込んだのが見えた。

ゴゴン…と遠くで音がして、数秒後にはそこにドアが現れた。

「へ? どこから出たの? どういう仕組み?」

さっきまで壁でしかなかったのに、不思議だ。

「悪いな。それは明かせないんだ」

アレックスはそういいながら、ドアノブに手をかけて重たそうにドアを押し開けた。

「ん? ……ここって」

シファルが眉間にしわを寄せて、部屋の中へと入っていく。

「ここ、俺の部屋に一番近い書庫じゃないか?」

「へ?」

シファルの部屋はこんな場所にはない。

「そんなはずないでしょ?」

確信をもってそう言い返せば、シファルはううんと首を振る。

「俺しか読まない文献が並んでいる。しかも、俺が並べ替えているから、間違いない」

アレックスを見上げたら、「正解だ」とだけ告げて、奥の方へとズンズン進んでいってしまう。

「そっちに行っても、これ以上の本は…」

シファルがアレックスの背中にそう話しかけたところで、アレックスは何も言わずにその辺の本を出したりしまったり。

「あ、その本って」

アレックスが手にしようとした本は、あたしも知っている本だ。

「そういえば、最初に手にした本はこれと同じだったか」

「うん。それを読んでいたら、アレックスが話しかけてくれた。……懐かしいや」

あたしがそう返すと、アレックスが本をさっきまでと同じように本棚に戻した。

どこかで小さくカチリと音がした気がしたけど、よくわからない。気のせいかな。

懐かしさに建国史の本の方へと近づこうとした時、アレックスが待ってといわんばかりに手のひらをこちらへと向ける。

思わず黙ってアレックスの隣に立つと、本棚に収めた建国史の背表紙にアレックスが右手の人差し指をあてた。

そうして、その指先がほんのり光ったかと思えば、その本棚が淡く光り出した。

鈍く低い音をたてながら、本棚が横へとズレていく。

「…ドア!」

本棚一つ分がなくなったその先には、見たことがない木製のドア。

「待たせたな。ここが禁書庫だ」

シファルと手をつなぎ、中へと入っていく。

書庫の中は窓もあって、よくある書庫っぽい感じにしか見えない。

「そこの窓は、向こうからは見えないようになってるからな」

アレックスが禁書庫で唯一ある窓を指さして、そう説明する。

元の世界のマジックミラーみたいなものかな? でも、ガラスにそんな仕組みがあるようには見えないな。

「触ってもわからないぞ、多分。魔法でそういう仕組みになっているらしいからな」

「へえ……」

シファルが興味深げに窓枠に触れては、角度を変えてガラスを確かめてみたりする。

なんだか子どもみたいで可愛いや。

「それと、ここに来るのもドアを出すのも、特殊な方法で毎回それも変わるから、この書庫に普通に来ても入れないから。…特にシファル、わかったか?」

アレックスのその言葉に、すこしの間を開けてからうなずくシファル。

シファルだったらここにたどり着くまで何があったかくらい記憶していそうだものね。

ただの散歩みたいだったそれに意味があったのかもしれないよね。

中には行ったことがない場所も通過場所としてあったから、あたしには記憶しようもなかった。

本には本棚とつながれたほんのり光る鎖状のものがあって。

「禁書庫だけに、持ち出しも貸し出しも禁止だから、こういう状態になってる」

アレックスがシャラッと本とつながる鎖を、指先に絡めて見せてくれた。

「風魔法が施してあって、本が湿度でダメにならないようになっているとか聞いたことがある」

「聞いたことがある?」

「…多分、そうだったような……。確か?」

アレックスが自信なさげに説明するのは珍しいことで、そのレアな姿に顔がゆるんでしまう。

「本が長持ちするためには必要な魔法だね、確かに」

「あ、あぁ! そうだろう?」

ホッとしたように笑うアレックスにつられて、一緒に笑う。

そうして、本棚へと近づくと視界の中に何冊かの本が白く光って見えた。

「…え。本が、光って?」

なんて呟いたあたしに聞こえたのは、アレックスとシファルの「どれ?」という不思議そうな問いかけの声。

「あれ! あの本と、こっちの本と」

あっちこっちに移動しながら本棚を指さすのに、本当に二人にはその本の光は見えていないみたいだ。

「それがさっきジークから説明されたことなんじゃないのかな。何をすればいいのかがわかるっていう、あれ」

光る本を読めば、なにかがわかる? 浄化についてか、それに関係するほかのこととか。

あたしが黙ったまま固まっていると、アレックスが手を差し出してくれる。

「高い場所の本は、俺が取ってやろう。どの本か、教えてくれるか?」

シファルへと視線を向けると、大丈夫だよといわんばかりに微笑んでくれた。

「あのね」

アレックスの手を取って、引っ張っていく。

順番に指さしていく本を取ってもらい、傍らにある机で本を開いていく。

手にしたのは合計5冊。

三冊目までは、夢で見たような聖女のこれまでのことと浄化方法についてのことがメインの本。

それと、聖女のみが使ってきた魔法について。いわゆる、聖属性といわれる魔法だ。

四冊目を手にした時,”それ”は起きた。

本を開くと中は白紙で、何も書かれていない。まるで分厚いノートみたいだななんて思った時だ。

白紙の本を一気に真ん中あたりまで勢いつけてめくった瞬間、目を開けていられないほどの光が目の前にあった。

本の中が光っているとわかっているのに、本を閉じることを許されない。

あたしが眩しさに目をつぶって堪えている姿は、その場にいた二人には急にあたしが目を閉じて悶えているようにしか見えなくて。

眩しさを感じなくなって、ようやっと本を閉じたあたしに二人が声をかけてきた。

「本を読みすぎて、目が疲れたのか?」

「大丈夫か? 少し休む?」

って。

説明をしても、互いの状況に誤差がありすぎて共有しにくい。

「最後の本、読めるのか?」

心配そうに確かめてきたアレックスに、最後の一冊だしなと「大丈夫」とうなずくあたし。

最後の本にもなにか仕掛けがあるんだろうかと、警戒しつつ本を開く。

最初の数ページにはさっきと同じで何も書かれていなくて、同じことが起きるのかと目を細めつつページをめくっていく。

「……は?」

この世界に来てから、本は自動翻訳されて読めたから問題がなかった。

この本を開く前の4冊も同様だったし。

白紙を数ぺージめくった先にあったのは、見慣れた日本語と英語。

五十音とアルファベット26文字が表記されて、聖女が唱える呪文にあたるものは英文だという内容。

そして最後に書かれていた言葉に、首をひねる。

『浄化の言葉は、聖女の頭の中にある。心のままに唱えよ』

って、どういうことなんだろう。

浄化の時になればわかるっていうことなのかな。

(心のままに唱えよ、か)

心のままにと言われて、ニセモノの聖女なのに何をどう唱えることになるんだろうと不安が胸を満たしていく。

「…あ」

その声をあげたのは、シファル。

シファルがアレックスに何かを囁き、二人があたしをまっすぐ見ている。

(あたしというか、すこしだけ視線が上のような気もするんだけど…どこを見ているの?)

その時、二人が見ていたのはあたしの頭の先から出ていたモヤのようなもの。

シファルだけじゃなく、アレックスもその状態を見ることとなり、そんな二人を見てあたしはもっと不安で胸が満たされていくのを感じていた。



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