「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。※シファルルート

ハル*

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それを毒というならば 5 ♯ルート:Sf

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夢の中は、最悪な状況だった。

何代目かの聖女と、聖女の心を射止めたという言い方をされていた第二王子がいて。

元々第二王子には、身分差で結ばれないけれど好きだった女性がいた。

聖女と召喚に関係した人が婚姻関係になると決まっていたわけじゃなく、そうなったことがあった…程度の話がその中で聞こえていた。

けれど、夢の中の聖女は彼が王子だというだけで彼に好意を抱き、婚姻関係を結ばなきゃ浄化をしないと言い出した。

身分差で結ばれないかもしれないと思いつつも、彼は一生彼女以外と結婚するつもりがなかったようで、聖女からの申し出も断ろうとしていた。

けれど、そこは国の浄化が絡んでいて、国王と関係者とで話をして、王子が折れる格好にならざるを得なかった。

そこから先は、聖女のやりたい放題で、王子が好意を抱いていた女性に嫌がらせをして王子はそのうち笑顔も浮かべなくなった。

そのさまが夢の中に出てきて、最後には王子の心が手に入らなかったことで聖女が浄化を拒み、国は滅びかけた。

聖女と言えど、ただの人間。聖女=清らかで俗な欲求なんかない…わけがない。

同じことが起きないようにと、その後の召喚の際に立場を明かすことはなくなった。

聖女によって救われるはずの国が、聖女によって滅ぼされたも同然。

国民にそれを明かしてしまえば、聖女への信仰心が薄れるということで、事実を伏せた。

ドレスに食べ物に、好きな男に。聖女というだけで求めたいだけ求めた、その時の聖女。

夢の中で見た聖女の姿は、人の人生を搾取しているようにも見えた。

そんな結果になっても、聖女を求めて召喚し、浄化する方法しか選ばずに来たこの国。

正直、どっちも罪を犯したんじゃないのか? という夢だった。

一番ツラかったのは、王子が添い遂げたかった彼女が一人寂しく亡くなったシーンだ。

互いに互いを責めることもなく、ただ…相手を好きだという気持ちだけを胸にしまっていた。

いつかが来ることも望まず、相手を想う心だけを自分の日々の糧にして……。

夢の中で人の声も姿もハッキリ見えて、心の声も聞こえていたのに、当たり前だけど干渉は叶わず。

王子は自分のせいで国が滅びかけたと、最期まで自責の念に苛まれていた。

元々王族として自由な恋愛は叶わないとわかっていても、聖女が向けてくる執念にも近い愛情を受け入れることは出来なかったようだった。

民のことを考えるべき立場でもあったことが、彼の心を追い詰めた。

最終的に王位を返上し、一平民として生き、彼女と添い遂げることも望まず、国の復興のために労働をし続けてそれを自身の咎とした。

救われない想いだけがどこかに置き去りになった恋。

聖女も、王子も、王子が愛した人も。みんな、ただ、誰かを好きになった。それだけだったのに。

瘴気で黒く染まり、火の手が上がっても誰も動くことも出来ない状態の国。

滅ぶのを待つだけの国。

聖女は最期の瞬間に、自分を召喚したこの国のせいだと叫んでいた。

その言葉は、今のあたしにはよくわかる。

わかるけど、共感しすぎてはいけない。

理解できても、理解しただけで足を止めちゃダメなんだってあたしは思うから。

「…………ん」

顔に触れるふかふかしたものの感触に、目を覚ました。

「ふかふか…ふわふわ……」

寝ぼけた頭で、手触りのいいそれをキュッとつかんで顔をすり寄せる。

「ふふ…ふわふわ」

そういいながら顔をすり寄せたはずなのに、その先に硬さを感じる。

「ん?」

静かな部屋で、自分じゃない誰かの呼吸音がすぐそばで聴こえた。

そっと顔だけ上げると、シファルの顔がすぐそばにあって、いつもより少し幼い顔で眠っている。

(!!!!!!!!)

声にならない声って、こういう時のコレのこと?

いろんな意味で驚きすぎて、心臓がにぎやかに騒ぎ出す。ドクドクドクドク…って。

寝るまでそばにってお願いしたけど、まさか添い寝をしてくれているなんて思わなかった。

それと、よくみたらシファルがしてるのって。

(人生初! 腕枕! 昔、お兄ちゃんがしてくれようとしたけど、腕の筋肉が硬すぎて高さが合わないってやめたことがあったっけな)

あの時の腕枕しかけたのをノーカウントにするなら、人生初だ。

わー! 腕枕! すごい! お兄ちゃんほど筋肉はないけど、それでも男の人の腕って感じがする。

それと薬草の匂いなのかシファルの体の匂いなのか、なんだかホッとする。

わ! シファルって意外と胸板あるんだ! …って失礼か。

家族以外と初めて眠ったはずなのに、ドキドキよりも安心感とか興味も同時にわいてきて。

(それもきっと、相手がシファルだから…なのかもしれないよね)

ここまで来てしまえば、意識しないでなんていられない。

女の子として見られたいのに、意識されすぎずに誰よりも近くにいられるようになりたい気持ちもある。

その両方は無理なのかな、あたしが相手だと。

(あぁ、もう。シファルとどうありたいのか、わかんなくなっちゃう)

すこし混乱しつつ、それでもこの状況をすぐに終わりにしたくなくて。

「もう……ちょっと、だけ」

シファルとの距離を、さっきよりも少なくした。

目が覚めた彼が、ちょっとでもドキドキしてくれたらいいななんて願うように。

顔だけ上げたまま、彼の寝顔をジーッと見つめる。というか、観察。

どれくらいの時間が経っているんだろう。思いのほか、深く眠っているように見えるけど、疲れてるのかな。

声をかけていいのかどうなのか迷うし、この状況でどうするのが正解なのかわからない。

「…あ。ヒゲ? 生えるんだ、ヒゲ」

あごに、数本のヒゲを見つけて、指先でつつく。

「ふふ…」

シファルの男の人のパーツを見つけるたびに、深く意識していく自分を感じちゃう。

触れるか触れないかの距離で、ヒゲでしばらく楽しんでいたあたしの指が。

「あぁ、もう」

という声と同時に、彼の指に捕まって。

「反応に困ること、禁止」

指先をそのままスルリと指の間に絡ませて、恋人つなぎへと形を変えられた。

そうして、彼がみせた顔は、今まで見たことがなかった顔だった。

「おはよ、ひな」

朝の挨拶をしてきた彼の顔はさっき見た寝顔とは違ってて、すこしだけ男の人の顔つきになっていたんだ。


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