「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。※シファルルート

ハル*

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それを毒というならば 2 ♯ルート:Sf

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~シファル視点~


ひなとする会話は、他の誰にもない空気感があって好きな時間だ。

たとえその内容がひなのこれまでの話や、ここに来てからのことと、ひなが抱えていた悩みについてなんだとしても。

最後の悩みに関してが、俺の予想よりも問題が大きかったあたりは、ひなと一緒に頭が痛くなるほどの案件だったりしたけど。

本人が話の最中に幾度となく俺に気を使いながら、わかりにくい話し方になっていないかとか、聞きにくくないかとか確かめながらの時間となった。

ひなの中に、こんなにも話したいことがパンパンに詰まっていたんだと思えば、気が焦って早口にもなるよな。

自分以上にこの状態になる人を見たのは初めてだ。

まるで自分と話しているような錯覚すら感じるほどに、ひなが抱えている不安や焦りは共感できる。

話の中で度々出てきたワードに、“普通の”というものがあって、本人は気にしないようにしているんだろうけど、思ったよりもその言葉に縛られている気がした。

あと、“他の人と同じように”というのも、ほぼ変わらない頻度で出ていた。

ひなは、会話が出来ないわけじゃなく、本人がいうところの他の人よりもスローペースなだけ。

話を聞いて、考えて、返事をする。それらの間に流れる時間が、他の人よりもすこし長めに時間がかかるだけ。

だから、その場で即答とかが出来ないことも、前の世界では特に多かったよう。

かといって、言い方が悪いかもだが、頭が悪いから即答できないというんじゃなく、逆に回転が良すぎて答えを一つに縛り切れてない感じもした。バカじゃないんだよ、多分。

それに対して、即答できない=頭が悪いと取られていた節もあり、繰り返しそう思われていた相手に対しては返事をすることすら怖がっていた様子もうかがえた。

けれど、こっちにきてからは不思議なくらい話がしやすいという。

早く返事をしろという圧もないし、相手に共感以外の返事を拒まれそうだというものもないのがいいとひなは言った。

俺自身、ひなに対してそういうことを考えながら会話をしたことがないので、ひながいた世界の人間がどれだけ忙しいのかと思った。

もしくは、時間やメンタル的な余裕がなくて、相手にもそれを求めてしまっているようでもあり。

ひなみたいな性格の子だと、そこで暮らしにくかっただろうなと容易に想像できた。

それと、ひなの家族…特にひな曰くお兄ちゃんと柊也兄ちゃんという二人が、ひなの心を護ってくれていた感じだ。

学校というところにどれくらいから通ったとか、ここに来る前のその手の説明も聞き、ひな自身が変わろうと思って見た目から変わろうとした矢先の召喚。

自分のために変えた身なりが、本人の意図と違う方向で必要とされて、しかも本来の姿じゃないからどうしようという状況。

ジークとアレクの判断で、召喚にかかわった俺たちの間ではひなの本来の姿に関しては情報共有されている。

ひなには一部の人間にしか知らせていないという伝え方になっているけどね。

明かしてやればいいのに、なんでひなに全部伝えてないんだろうな。あの二人。

話をしている間に、薬を飲んだにもかかわらず、何度か頭が痛いと息を重く吐き出していた。

金髪のひなの頭頂部に、すこしだけ黒髪が混ざっていることを伝えたら、一時的に色を抜いているだけだから髪が伸びればその分は元の色が見えてくるようになっているとひなが答えた。

……にしても、わずかだけどそこから魔力を感じるんだよな。

ひなに話をして、その部分の髪を分けてもらう。

ポケットの中からハンカチを出して、それに挟んで三本ほど。

「おかしなまじないとかに使うことはないから、不安にならないでね」

なんて冗談で話せば、その状況を想像したのか楽しげに笑っていた。

話は進んでいき、こっちに来てからの話が増えていく。

本を読むのが好きというひなが、俺たちが気にもしていなかったことに気づいていたと知らされる。

今回、ひなを召喚したのと同じように、聖女召喚の儀式をした最初のところからさかのぼって、当時認識されていた魔法の属性と現在までの間で増えた魔法の属性の増減について。

瘴気と共に生きるようになったのがいつからなのか、聖女召喚をする前の段階でされていた研究、召喚をするようになって以降の研究の進捗、それに付随してひなが目をつけたのがその間で新しく発見された属性と、属性同士の掛け合わせなどなど。

召喚の儀式をするようになってからは、研究らしい研究はされず、召喚に頼りっきりだったよう。

召喚頼りだったんだろうなと思ってはいたけど、まるっきり研究をしなくなっていたのは知らなかった。

それと、属性に関しては、自分たちの身の回りにあるものが新しい情報だという認識だけだったので、昔にあったかなかったかなんて考えることすらせず。

「思考の停止って怖いなって思った。当事者の方が視野が狭くなるって、ほんとだね」

それプラスで、ひなの世界にはない魔法という概念。

知らなかった世界だからこそ、知りたくなった…とひな。

単純に火の属性というだけではなく、そこから枝分かれして他の属性に派生していったものや、魔法だけじゃなくスキルについても枝分かれさせ分類させていけば、遠い昔にはなかったものにたどり着く。

スキルという概念についても、昔からずっとあったわけじゃなかったし、全国民のスキルを国が把握しきれていたかも怪しい話。

とはいえ、国民の義務だとかいって報告を義務付けさせた時期には、一時的に国が荒れたり他国に誘拐されそうになったりなどもあったとかで、スキルの報告義務化は削除された。

ひなから聞かなければ、そんな話に気づくこともなかった。

今、目の前にある情報だけで満たされていると思っていたからなんだと、ひなという異世界から来た少女に教えられる。

自分の国のことで、かつ調べる環境が整っているのに、ここでおしまいと勝手に区切っていたんだなと痛感した。

「もっと自分の国に興味を持ったらいいのにって、もったいないな…なんて思ってたんだ」

どこか寂しげに呟くひなに、じゃあ俺たちはなにに興味を持って生きてきたんだろうと考えた。

「…………」

のに、答えは出なかった。

興味がないわけじゃないはずなのに、改めて聞かれると即答できない。即答できないことが、すでに答えのような気もする。

聖女を召喚する以外の方法を調べるべきだと、ひなは言い切った。

昔になかった属性や知識などを分類して、掛け合わせて、実験して。

瘴気を浄化できるかどうかを調べることが可能なのは、瘴気がある時だけだ。

当たり前のことに気づけずに、相当年数を過ごしてきた俺たち。

だから、急ぐべきだとひなは言う。

現段階でひながどういう形で浄化をするのかが確定していなくても、そう遠くない時期に浄化はなされるはずだろう。

そうすれば、浄化できるのかを確かめる術がなくなる。対象がなきゃ調べられない。

ひなの頭痛に関しては、この世界に来てからのことだという。眠れなくなってからは、特に間隔が早くなってきているとも。

環境の変化の影響か、瘴気に関するのか、ひなの体調で…か。

どれが原因かを今すぐに特定は出来ないけれど、早くなんとかしてやりたい。

その頭痛が起きる頻度が上がってきて以降、ひながある夢を見る回数も増えたらしい。

それがそれまでの聖女だと思わしき人物が出てくる夢で、その時々の浄化やそれまでの生活らしき内容で。

「なるべく書き残そうと思ってたんだけど、あまりにも痛すぎる時には書けないし、思い出してと思ってもところどころ抜け落ちてわからなくなって」

ひなが手渡してきた手帳を開くと、書きなぐったような文字がたくさん並んでいる。

普段見ているひなの文字とは違いすぎて、他の誰かが書いたのかと見間違うほど。

「というか、こんな重要な内容が書かれたもの、俺が見てもいいもんなのか?」

聖女に関する情報は、普段の書庫にはほとんどないから禁書庫にでもあるんだろうと思っていた俺。

ひなが書き残したこれだって、いわゆる浄化と聖女に関する秘匿情報に値するだろう。

「この手帳に関しては、ジークとアレクにも話していいか? 多分、表に出せない話と思われる……うん」

場合によっては、これを別に書き写すかして禁書庫で保管扱いになる可能性もある。

けど多分…ひなはこれからも夢を見るたびにこの手帳に書いていくんだろうし。

内容をあの二人に明かすとしても、この手帳をそのままひなに使わせ続ける…。でも、情報が漏れないようにしたい。

「……ちょっとだけ、俺の意見を今、言っても大丈夫? さっきの約束で、話の腰を折らないって言っといてなんなんだけど」

あとどれくらいひなからの話があるのかわからないから、一応確認をしておく。

「うん。大丈夫。……どうかしたの? 眉間のシワがすごい…」

そういいながら、ひなは自分の眉間に指先をあててグイグイと押してみせた。

「あー…、ごめん。大丈夫。目いっぱい頭使うと、ここにシワ寄りがちだよな」

はは…と笑いながら、指先を眉間にあててシワを伸ばしてみると、ひなが一緒にあははと笑う。

その笑顔に、胸の奥がじんわりあたたかくなる。

好きな笑顔だなと思ったのと、話し始めよりも苦しくなさそうになった表情に、だ。

「今から見せる魔法みたいなの、他のやつらには内緒でお願いね」

ひなと繋いでいた手を離して、脱いでいた服のポケットから紙を取り出す。

ひなの元に戻り、ベッドに腰かけてから紙を開いた。

紙の真ん中に指先をあてて、魔力をすこしだけ流して声をかけた。

「ナーヴ、今…いい?」

短い言葉で、不愛想な幼なじみを呼んだ。


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