「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。※シファルルート

ハル*

文字の大きさ
上 下
23 / 96

聖女は、誰が為に在る? 7

しおりを挟む


~ジークムント視点~


今後の方針についてアレクとカルとで話し合いをして、カルを先に部屋に戻してからアレクにひなとのことを聞こうと思っていた。

なかなか口を割らないのに、俺にゆるみっぱなしの顔を見せないようにしているせいで、いろんな想像をして苛立ってしまう。

俺らしくなく、心を揺さぶられてしまう。唯一の女の子、ひな。

二人にも言っていないけれど、当事者のひなにだって話せていないことがある。ひなのステータスのことで。

この世界の人間よりも、多くの情報がステータス画面に出ていたひな。

その中に見なかったふりが出来ない項目があった。

俺たちには出たことのない項目だった。

『未来』

と書かれたそれの後に浮き上がって見えたものは、めったに動揺しない俺の表情をカンタンに歪めさせた。

遠巻きに見ていた段階で、すでに勝手に鑑定をしていた。俺。

そこで気になった未来の項目と、文字の上が細い線でぐしゃぐしゃに認識阻害されたようなある項目。

後者は、文字の色が黒に近かったからよくないことが書かれているんだと思う。

知りたいようで知りたくない。でも、状態を文字で認識出来るのはあの中では俺だけのはず。

なら、先手を打つ準備に実働するメンツへの交渉だって可能だろ?

後者の項目がいつすべて確かめられるのかわからないから、ひなと一緒の時には常に開きっぱなしにしがち。

(結構疲れるんだよな、実は)

一緒にいる時間が長ければ長いほど、ちょろちょろと魔力を垂れ流しているってこと。

キツイけど、あの子が抱えてしまうだろう不安要素は、一つでも多く……そしてなるべく早めに消してあげたい。

また、あの日のように笑ってスイーツを食べるひなの顔を見ていたい。

(そう思うのにさ、なんか残酷だよね。未来の項目が)

“死亡予定”※三か月以内←とか書かれてるってのを、変えられるなら変えてしまいたい。

三か月以内にひながいなくなってしまう“かもしれない”

もしかしたらそれが浄化のタイミングなの“かもしれない”

不確かな確信。矛盾してるよ、俺。

“かもしれない”なんてあやふやなものならば、ひなが死なない未来を選べるようにしたい。

俺にひなのステータスが見えていることに、意味があるんじゃないかと思いたい。

その『未来』を変えてみせろって言われているんだって思いたい。

どこの誰かは知らないけれど、舞台を整えてくれようとしてるんだ……ってさ。

なんだかまるで、ひなにこの国を護るための対価を払わせようとしているみたいだろ?

(んなの、おかしいに決まってる)

元の世界にいたら、死ぬかもしれないなんて可能性はゼロに近かったんじゃないのか?

――俺たちの国が、あの子を喚んだ。

そのせいで、あんなに小さな存在が消えてしまう。

笑って楽しく過ごしていただろう日常を奪ってしまったのに。

聖女として彼女に進んでもらうことを、こっちの都合だけで強いた。

帰る場所もない現実に、自分を喚ぶために捧げられる生け贄のこと。

優しいんだろうな、見た目そのまんまで。

これ以上にもこれ以下にも、独りだということを抱えさせたくはない。

大事にしたい、唯一の女の子。

ひなのことを考えていると、一日があっという間に過ぎてしまう。

(俺もかなり重症かもね)

なんて自分を慰めていた時だった。

「陽向がすごい熱を出している。メイドに着替えと医者の手配を頼んだ。今からナーヴとシファルのところにも報告をしてくる。話次第では、シファルを同席させてもらうつもりだ」

ドアを開けて、立ち止まって会話をするのが惜しいような勢いで、彼女の異変について報告をくれた。

アレクと一緒に部屋を出る。

速足で駆けていく間、アレクは一度も口を開かなかった。

ノックをして、メイドを待つ。その時間すら惜しい。

「着替えが完了いたしました。医師は間もなく到着のご予定です」

メイドが俺たちへ、どうぞとドアを開けて誘う。

ベッドを遠巻きに見れば、距離があるのにわかるほどの具合の悪さ。

真っ赤な顔をして、息苦しげに呼吸をしているひなの姿が目に入る。

「拭っても拭っても、ひどい汗で。このままでは脱水症状を起こしてしまいそうで」

いいながら冷たい水が入った桶でタオルを濡らし、きつく絞って顔を拭こうとするメイド。

「貸して?」

手を差し出すと、遠慮がちに手のひらにタオルを乗せてくれた。

「……ありがと。着替えが終わったなら、医師が来るまでは俺たちがやっておくよ。馬車が来たらすぐに行けるように、下がっていていいよ」

なにかを言いかけるように、少しの間、口を何度か開いては閉じて……飲み込んで。

「……かしこまりました。では、何か御座いましたらお呼びください」

と、いつものように下がっていく。

「アレク。もうちょっと体起こしてあげたいんだけど、あっちにあるクッション持ってきて」

「……あぁ」

アレクにしては珍しい表情をしてから、応接セットの方へと急ぐ。

手に4つほどのクッションを持ってきて、二人で協力してひなの体を起こしてやる。

(本当に熱いや。かなりな高熱だな。……どれ、現在のステータスは)

アレクも肌で感じたんだろう。眉間に深いしわが寄ったままだ。

現在のステータスは、頭痛・震え・高熱ありで、まだ脱水症状ではないようだ。

それと、神経衰弱と太めに書かれている。

(多分、これが一番重たい症状ってことかな)

心の病、か。

(そうだよね。ひな、最初の日に泣いていたくらいだもんな。その後は泣いたりしたのを見ていなかったけど、知らない場所で泣いていた可能性だってある。この子は……ひなは…俺たちに比べてまわりに気を使いすぎるし、自分に自信がなさすぎる。未知の場所で、頼れるかどうかわからないものを頼るのは怖いよな。なのに、あの…力が抜けちゃうような笑顔で過ごしてた)

タオルでトントンと軽く押さえるようにして、ひなの汗を拭ってやる。

最後にもう一回タオルを濡らして、硬く絞りなおして。

「アレク。これ、ひなのオデコに乗せといて。俺、氷が足りなそうだから魔法師のところでもらってくる」

アレクに絞ったタオルを放って、部屋を出る。

以前見た、ひなの『未来』の項目。

今日の熱がキッカケではないことを祈りながら、急いで廊下を走っていく。

どうすれば心を軽くしてやれるのか。

答えがわかっているのに、口に出していえない問題にぶつかった気分だった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

親友に裏切られ聖女の立場を乗っ取られたけど、私はただの聖女じゃないらしい

咲貴
ファンタジー
孤児院で暮らすニーナは、聖女が触れると光る、という聖女判定の石を光らせてしまった。 新しい聖女を捜しに来ていた捜索隊に報告しようとするが、同じ孤児院で姉妹同然に育った、親友イルザに聖女の立場を乗っ取られてしまう。 「私こそが聖女なの。惨めな孤児院生活とはおさらばして、私はお城で良い生活を送るのよ」 イルザは悪びれず私に言い放った。 でも私、どうやらただの聖女じゃないらしいよ? ※こちらの作品は『小説家になろう』にも投稿しています

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

処理中です...