「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。※シファルルート

ハル*

文字の大きさ
上 下
13 / 96

聖女の色持ちではないんですがね 12

しおりを挟む




「やっぱり寝ちゃってたかぁ。……ふわ…ぁ」

ソファーから起き上がって、思いきり伸びをする。肩のあたりがミシッとか言った気がしたけど、聞かなかったことにしよう。

「毛布? 誰だろ。メイドさんかな」

よく見たら食器も下げられている。カルナークも来たんだろうか。

「直接ありがとうって言いたかったのにな」

毛布を簡単に畳み、ベッドへ持っていく。

「あ」

忘れていた。ベッドにぶちまけたいろんなもののこと。

「1個やったら、1個忘れちゃう。うっかりすぎるでしょ」

自分に文句を言いながら、リュックへと私物を放り込んでいく。

使えないスマホを見下ろし、小さくため息をつく。

元いた世界でのあたしはどんな扱いになってるのかな。

いなかったことになってるのかな。いなくなった時間から動かなくなってるとか?

「行方不明ってなっていたら、お兄ちゃんあたり……すっごく捜していそう」

ここでこんなことを考えていたって、現実は見えてこない。

どうしようもないとわかっているのに、まだここにきて今日で二日目だ。気持ちの切り替えなんか出来ない。

「お兄ちゃん……柊也兄ちゃん…元気かな」

俺はお前の兄貴じゃねえよって言いながらも、あたしがお兄ちゃんと呼ぶのを拒まずにいてくれた人。

心配かけたくないのにな、これ以上。

このままこの場所にいたら、顔も忘れてしまうんだろうか。声も、頭を撫でてくれたあの感触も。

「はあ……」

ため息をつけば、幸せが逃げるとか聞くけど。

「そもそもで、あたし今……幸せかどうかよくわかんない」

苦笑いしてしまう。

こんな状況で、幸せかどうかといえば不運に見舞われてはいる。不幸なのかは、今後次第って感じなのかな。

「攫われた時点で不幸確定の可能性も否めないけど」

いいながら、リュックのふたを閉じる。

カーテンを開きたいけど、重たそうだわやたら長いカーテンだわで、開けられる自信がない。

グッとカーテンを引っ張って、窓の端へと引っ張っていく。

「……あーかーなーいぃいいいい」

何かコツがあるのかしら。

うんうんいいながらカーテンと格闘していたら、背後で笑い声がした。

「え?」

振り返るとアレックスはこぶしを口にあてて、笑いをこらえているようでいて、肩がすごく震えていて。

ジークムントは、隠すこともなくアハハハハとか思いっきり笑っている。

涙を流すほど笑いながら近づいてきて、窓の端の方へと歩いていく。

そして、カーテンの端の方に手を突っ込んだかと思ったら、何かを引いた。

次の瞬間、カーテンがスルスルと開いていく。

「この紐を引くと、開いたり閉まったりするよ。紐に触れている間は動くから、少しだけ開けたい時は、途中で紐から手を離すといいよ」

という説明通りに、パッと手を離すとカーテンの動きが止まった。

「便利ぃ!」

ジークムントのところへ駆け寄って、同じように触れてみる。

「あ! 開いた! うわぁ……いい天気だね!」

昨日見た景色とは違う。昼間の景色の方が好きかもしれない。

「ふふ。元気そうで、よかった」

「昨日は眠れたのか?」

それぞれに声をかけてくれる。なんだか、くすぐったいや。

あまり眠れなかったことや、さっきまでここで寝ちゃってたのとソファーを示すと、なぜか二人にいいこいいこされた。

柊也兄ちゃんに似ているからか、ジークムントに撫でられると変な感じがする。

このままここにいたら、似ていたことすら忘れちゃうんだろうか。

(そんなの、嫌だな。寂しいよ……)

複雑な気持ちでジークムントを見ていると、不意に視線をそらされてしまう。

「そんなに熱い視線で見つめられたら、照れちゃうよ」

なんて、本音かどうかわかりにくい感じで。

こんなに顔がいいなら、熱い視線なんて浴びっぱなしだろうに。

「じゃ、見つめません」

とか返せば「やだよ」と返してくる。

謎の返しが、よくわかんない。

「それよりも、昨日の話をしようか」

アレックスがあたしに手を差し出してくれる。

その手をどうしたらいいのかわからずに、視線でアレックスの顔と手を何往復もする。

首をかしげていると「エスコートだよ」とジークムントがあたしの手をアレックスの手に重ねる。

「これがエスコート!」

ちゃんとされたことないから、思わず声が出てしまう。

そのたびにジークムントが笑うのまでが1セットなのかな? ってくらいに、あたしが何かやると教えてくれるのに笑われる。

「…もう」

怒るに怒れないけど、言葉だけは怒ったふり。

エスコートしてもらい、ソファーにまた座りなおす。

ジークムントが傍らにあるティーセットで紅茶を淹れてくれ、一息ついたところで話は始まった。

「話をするその前に」

とジークムントが切り出したと思ったら、あたしの右手をジークムントが、左手をアレックスが握りだす。

イケメン二人に手を握られるというこの状況は、一体どんな状況?

混乱しかかった時に、頭の中に声が流れる。

『聖女ちゃん、この声が聞こえていたら笑ってくれる?』

このメンツの中で、あたしを聖女ちゃんと呼ぶのはジークムントだけだ。声も彼の声に聞こえる。

へらりと笑って見せると、ぶふっとアレックスがふき出す。

「人の笑顔見て笑うとか、失礼じゃない?」

ムッとしながらそう返せば、『子どものように、無垢な笑みだったからな』とアレックスの声がした。

でもこれって、どういうこと?

首をかしげたまま二人を見つめるあたしに、脳内で二人の声がした。

『盗聴と盗撮されてるからさ、このまま話させて? ただし、なんてことない話を口に出しながらね』

ジークムントの声がそう告げてきて、あたしは目を見張った。

声がカルナークに聞こえるのは知っていたけど、映像も?

(そんなこと、カルナーク……言ってなかったよね)

頭の中で独り言をいえば。

『カルナークの仕業か。後でお仕置きだな、ジーク』

『だねぇ。……まったく、なんてスキルを隠してんだろうね』

と、不穏な会話が聞こえてくる。

(え? あたし、口に出してなかったよね)

戸惑いのままに、脳内独り言を繰り返すと。

『聖女。このスキルは、俺のスキルだ。念話が可能だ。数人での場合は、体を接触させていれば可能だ』

と、アレックスが、この状態を説明してくれた。

念話。念話……か。

(じゃあ、メモパッドいらないかな。使いどころがあれば、改めて出すことにしよう)

『メモパッドとやらは、また後でね』

『さて、普通の会話もしなければならないな』

(独り言をいちいち返事されるの、キツイってば!)

慣れない状況に、混乱してしまうあたしがいる。

「ところで」

と、アレックスが普通に聞いてきて。

「は、はい?」

(なんか会話が混ざらないように気をつけなきゃ)

妙に背筋が伸びた感じになり、緊張している自分を感じる。

「ずっと聖女と呼ぶのもお互いに嫌だろう。話しにくい。名前を聞いてもいいだろうか」

そう聞かれて、「あぁ」と思い出す。

そういえば、誰にも名乗っていなかったかも。

陽向ひなたです。あたしの国で、太陽に向かうと書いて陽向です。ひまわりっていう花があって、太陽に向かって咲く花なんですけど、生まれた時にひまわりがたくさん咲いていたらしくて」

「ひまわり?」

こっちにはその名前の花はないようだ。

「えーと」

説明をどうしようと思っていたら、そこで思い出した。

「これ! これに描きますね」

二人から手を離し、メモパッドを思い出して、あらかじめ書いておいた文字を消してひまわりの絵を描く。

(あたし……美術、1だったか。確か)

簡単なはずのその花の絵は、どこか歪んだ謎の花になってしまい。

「それ、は……花? あーっはっはっは」

笑いのネタを提供してしまい。

ややしばらく、二人に笑われていた。

『本題に入りたいのに、陽向が邪魔してくる』

とか手をつなぎなおした瞬間に、脳内で言われながら。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

親友に裏切られ聖女の立場を乗っ取られたけど、私はただの聖女じゃないらしい

咲貴
ファンタジー
孤児院で暮らすニーナは、聖女が触れると光る、という聖女判定の石を光らせてしまった。 新しい聖女を捜しに来ていた捜索隊に報告しようとするが、同じ孤児院で姉妹同然に育った、親友イルザに聖女の立場を乗っ取られてしまう。 「私こそが聖女なの。惨めな孤児院生活とはおさらばして、私はお城で良い生活を送るのよ」 イルザは悪びれず私に言い放った。 でも私、どうやらただの聖女じゃないらしいよ? ※こちらの作品は『小説家になろう』にも投稿しています

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

処理中です...