「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。※シファルルート

ハル*

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閑話 カルナークは、触れたい

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なんなんだ、あいつは。

女だぞ、女なのに、なんなんだ、あの格好は!

まるで怒鳴るような声で告白めいた言葉を投げつけ、恥ずかしさに部屋を飛び出した昨日。

その後に、ほっといても聞こえてくるあいつの声。

最初は俺に聞こえるのを忘れているかのような呟き。

それから、俺とのやりとりを振り返って、悩んで。思い出したかのように、俺への言葉として呟いて。

俺があいつに触れたいと思ったことも、魔力が心地よくて、一目惚れしたってことも疑ってた。

自分にはそういう要素がないって、どこか自信なさげな言葉がいくつか聞こえて。

魅了の力でもあったのかって、不安がってたな。

そのせいで好かれたんじゃないかって。

「あいつがされた、初めての告白が……俺、かぁ」

脳内に響いたその言葉を反芻する。

そこは、嬉しかったんだ。素直にさ。

でも、勝手に自分がなにかやらかして魅了の魔法か何かでそうなっているなら、俺に悪いだとかウンウン唸ってたし。

「バッカじゃねえの」

俺は、あの場にいた俺含めて5人の中では、2番目に魔力が強くてコントロールだけなら一番だ。多分。

もしもそんな魔法があったって、俺を上回るモノがなきゃそんなものにやられたりしない。

(シファルだったら、もしかしたら簡単にかかるかもだけど)

文官の見習いをやっているシファルは、昔なにかがあってその時持っていただろう魔力を使いきってカラカラになり、1か月以上ベッドから起き上がれないほどになった。

起き上がれた時には、魔力の容量が5分の1くらいまで小さくなってしまい、目も悪くなった。

メガネをかけ始めたのは、その頃からだ。

でも、俺は違う。俺を超える魔力なんて、そうそうないはずだから。

俺は人を鑑定することは出来ない。物への鑑定は、回数に限りありで出来なくもない。

あいつの魔力がどれくらいのものなのかわからないけど、触れた時の感覚で俺以上ではない気がしたんだよな。

「にしても、だよな」

あの格好は、なんなんだ。

何をやっていたら、鏡の前で……鏡の前で……。

忘れようと思うのに、何度も勝手に脳内再生されてしまう。

なぜか鏡の前で、鏡に向かって背中を向けて膝立ちして、腰を突き出した格好で。

「体、細かった…な」

腰に手をあてて、振り返る感じで、表情は寝起きだったのかとろんとしてて。

あの細い腰に腕を回して引き寄せて、ぎゅっとこの腕におさめたら?

キスをしたら?

ねぼけた顔のあいつに、誰よりも早く「おはよう」って言ったら?

それから……。

妄想をしては、真っ赤になって意識している自分を自覚せざるを得ない。

魔力の心地よさに惹かれたのは本当。でも、そればっかりじゃない。

すこしの間だけど、話してみて、一緒にいる時間も心地よくて。

金髪が顔にかかりそうになるたび、指先で耳に引っかける仕草にはドキドキさせられて。

気に入ってくれたのか、一口食べるたびに、顔がふにゃりと緩んでいたのも可愛かった。

そういうところも好意的なんだって、言えたらいいのに。

「もしも伝えたら、ちゃんと自分の魅力で好意を持たれているって理解してくれるだろうか」

もんもんとしていると、耳に入ってくる食べきったみたいな言葉。

「……そっか。美味かったか。……よかった」

胸の奥がふわっとあたたかくなる気がして、改めて自覚する。

あいつを想って作ったスープで、あいつが癒されていた。

本人は言葉にしたって自覚はなかったっぽいけど。

素直に美味しかったって言ってくれた。

「食べてる顔、見たかったな」

今までお茶会だの晩餐会だので、歳が近い女の子と話したり踊ったりしてきたけど、こんな風に相手の言葉で胸があたたかくなったことなんかなかった。

「好き……で、合ってるんだっての。俺が、お前のことを」

誰かを好きになると、こんな風に気持ちが一気に加速してくんだな。

「俺の初めても、お前なんだからな」

これが、きっと初恋ってもんだ。

勝手に顔がしまりなくなってしまう。

今は誰も部屋に入ってこないでほしい、冗談抜きで。

「……ん? 寝た?」

途切れ途切れになっていく声。

すこししたら、そっと部屋に入って食器を下げておこう。

メイドに頼んでもいいけど、どこから漏れるかわからないしな。

声が聞こえなくなって5分ほどして、そーっと部屋の中に入っていく。

「…………可愛い」

寝ている、思いのほか深く。

トレイを下げる前にと、彼女の体に毛布を掛けておく。

髪に触れ、頭を撫でる。

むにゅ…とか小さく鳴いて、もぞもぞ動く。猫みたいだ。

指先で髪をひと掬いして、口づける。

それにまたすこしだけ、内緒で魔力を混ぜておく。

「ごめんな。悪気はないんだ、ほんと」

本人には届かない謝罪を内緒でして、俺はトレイと一緒に部屋を出る。

許可なくかけた魔法は、こっちがオンオフ可能な映像が見える優れもの。

二人だけに話をするって言ってたそれが、俺は嫌なんだ。

俺に声が聞こえるっていうことだけは把握しているから、もしかしたら聞こえないように手を打つかもしれないし、二人に話をしてしまうかもしれない。

(話されたら、ジークにボコボコにされかねないから、それだけは勘弁なんだけどな)

もしも映像が見えたら、声がしなくても唇の動きでわかるはず。

(俺にも頼ってくれれば、こんな手を使わなかったんだけどさ)

なんて、自分を正当化して。

途中で会ったメイドにトレイを預けて、ひとまず部屋にこもる。

ベッドに寝転がり、さっき髪が触れた指先を眺めみる。

「俺を好きになってくんねえかな」

女の子は、苦手だ。感情がすぐに顔色になって出てしまう自分も嫌だ。

けど、あいつだけは許せるし、真っ赤になった俺を見て意識してくれたらいいのになんて思い始めている。

「いい匂いしたんだよな、あいつの髪から」

思い出しながら目を閉じた。


******



「…………は?」

いつ寝落ちしたんだ。

知らないうちに眠ってしまっていた。

「えっと、とりあえず」

意識を集中させて、彼女から見える景色を映させる。

「あ??」

普段出したことがないような、低い…低い声が出た。

俺の脳内に浮かんだ映像では、彼女の右手をジークが左手をアレクが握ってて。

(俺だって、もっとずっと触っていたいのに)

とか嫉妬めいたことが、頭に浮かんで消えてくれない。

ジークがやたらとあいつを褒めまくり、それに対して照れくさそうでどこか嬉しそうな声が聞こえた。

「俺に落ちてよ」

なんて言いながら笑うジークが視界にいっぱいになって、俺は映像を切った。

その後の声もオフにしたから、会話の内容は知らない。

短気を起こさなきゃよかったとこの日を悔やむのは、もっとずっと先の話。




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