「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。※シファルルート

ハル*

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聖女の色持ちではないんですがね 3

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目の前の、全体的に大きな男の子の顔色が、一瞬で変わる。

目を大きく見開き、信じられないものを見たとでも言いたげに距離を置く。

(まあ、普通に考えたらそうなるよね。目から皮っぽいものを剝がしたようなもんだから)

カラコンを外したけれど、捨てるにしてもちょっとアレだよね。

コレなんだ? ってなりかねない。

使い捨てなんだけど、ひとまず目に戻すしかないのかな。

衛生的に問題がありそうだけど……。

ベッドの近くの鏡に近づいて、くっつきそうなほどに寄って。

(……うわぁ。なんか、ゴロゴロする)

目の違和感がパない。

早いとこどうにかしたいけど、あの話の感じだと髪色と瞳の色だけで聖女扱いだよね。

どうしよう。

目の色の話だけでもどうにかしないと、ずっとこのままカラコン入れていなきゃいけなくなる。

目によくない。

ツラすぎる。

協力者が欲しい。それと情報が欲しい。

……でも、それっていわゆる交渉ってことでしょ?

コミュ障気味に、この状況はキツイ。

キツイけど、取捨選択だ。

何かをやるには、何かを犠牲にしなきゃいけない。

そもそもで、同性とのコミュニケーションの方が苦手なので、異性ならどうにかなるかもしれないし!

ドキドキする胸に手をあてて、長めに息を吐き出す。

(……よし)

自分で自分の背中を押すように、気合を入れた。

半身を振り返らせて、さっきの人を指さす。

「名前」

「は」

人を指さしちゃあいけませんと言われているが、今回はやむを得ないということにしておこう。

「あなたの名前、なんていうの」

最初にあたしに声をかけてしまったので、それも縁ということで巻き込ませてもらおう。

「アレ…ックス。みんなは、アレクと呼ぶ」

「……そう。もしもあたしがその名を呼ぶなら、どっちの方がいいの?」

そう問いかけて、脳内で思い出す。

その手の設定じゃ、よほど近しい相手じゃなきゃ略させたりしないってことを。

「アレックスって、呼んでも大丈夫?」

なので、一応普通に呼んでみる。

「それで、いい」

まだ顔をこわばらせたまま、短く返してくれた。

ちょいちょいと手招きをすると、あからさまに嫌そうな顔をしつつ近づいてくる。

「何の用だ」

見下ろすその高さに、内緒話が出来やしない。

「耳、貸して。アレックス」

すこし小声でお願いしてみる。

てっきりしゃがむとかだと思っていたら、膝立ちの格好で顔を近づけてきた。

それでもあたしの口にかなり近い位置になるあたり、身長差どれくらいなんだよと思う。

「相談、乗ってほしいんだけど。さっきのことで」

ひそひそと他の人に聞こえないように囁く。

囁いた瞬間、肩をぴくんとこわばらせて、耳を真っ赤にして。

こういうのに慣れていないのかな、もしかして。

体が大きいだけで、なんでも経験しているわけじゃないもんね。

っていうか、彼らがいくつなのか知らないし。

「さっきのことを説明してくれるのならば」

といい、目の真ん中あたりを指さした。

「それ含めての話だから。あと、あなたが信用できる人、もう一人くらいいた方がいい。口が軽くない人がいいな」

二人でコソコソ話していると、残りの4人のうち3人が睨みつけながら近づいてきた。

(あれ? アッシュグレイのチャラそうなのが来ない)

一人だけさっきの場所に立ったまま、腕を組んでこっちを見ている。

「どういうことだ」

黒髪の人がそう言えば、「アレクだけを呼ぶのは、いかがなものか」と面白くなさげに地味な君がいう。

赤髪のパッツン君は、黙ったままでこっちを睨みつけている。

「えーと、その……早い者勝ちというシステムがありまして」

とかテキトーなことを言った途端に、視線がアレックスに集中した。

「お前! 卑怯だ」

パッツン君が、食ってかかる。

「卑怯って、そんな。こっちにおかまいなしに本棚に向かっていたから、興味を持っただけで」

ごく普通に説明っぽくそう返しても、やいのやいのと三人に詰め寄られて部屋の中心へと追い込まれていく。

そうして四人が最初のようにごちゃごちゃしているその隙を狙ったかのように。

「聖女ちゃーん」

チャラ男が来た。

「ね」

短く、そうあたしを呼んだかと思えば。

「あとでさ、アレクと一緒に話聞くの、俺を選んでよ。損はさせないからさぁ」

語尾をわざとらしく伸ばして、ふざけたように提案してくる。

「損するかしないかなんて、判断材料もないのにわからないじゃないですか」

警戒しつつ返事をしたあたしに、彼はニッコリ微笑んで。

「俺ね、君のこと、知ってるよ」

顔を耳に近づけて、囁く。

「あたしのことを……知って……?」

さらに警戒を強めたあたしを見て、なぜか嬉しそうに「ふふ」と笑ったかと思うと。

「警戒強い子、だぁいすき」

どこか楽し気に肩を揺らしながら笑ったまんま、耳の裏にチュ……っとキスをした。


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