「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。※シファルルート

ハル*

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聖女の色持ちではないんですがね 2

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わちゃわちゃしながら、誰も譲り合うこともなく雪崩こむように部屋に入ってきた男の子たちは5人。

黒髪、短髪、金目かな? 背は5人の中で一番低い子。

アッシュグレーの髪が肩までで、同じ金目で、こっちをみて微笑んでいるけど胡散臭いのがいる。

身長は、まあまあ高い方じゃないのかな。

真っ赤な髪で、前髪がパッツンの短髪。この子は目の色は、何色なんだろう。

(海の色みたい)

例えるなら、ネットで見たことがあるラピスラズリみたいな色だ。

深海っていうのかな。身長は、まあまあある方でしょ。この人も。

それと金髪の碧眼。なんだっけ、エメラルドだっけ。それに近い、透明感がある碧。

腰まで髪が伸びてて、紐っぽいもので結われている。

手入れが大変そうだなとか思ったのは内緒。

身長はこの中で一番高いというか、高い。それと、威圧感っぽいのがパない。

お近づきになりたくない。

最後が、茶髪の無造作に適当に切ったような髪。短髪というにはちょっと長いかな。

セミショートって、あったっけ?

目は、あたしの元の色と一緒で黒い。

この中では地味な方なんだろうな。

メガネをかけてて、いかにも委員長とか風紀委員っぽい感じ。

大きくもなく低くもない身長。

この5人の中でいえば、中間?

この人を目安に、高い低いって考えたらいいかも。

なぁんて感じで、いきなり目の前に現れた5人を分類していく。

服装はアッシュグレーの人と黒髪短髪の人が同じ……かな。

白を基調にしたショート丈のジャケットに、下は細身の体にぴっちりしたスラックス。

茶髪の人は、髪色より薄い茶色の長めのジャケット。コートに近い丈かもしれないな。

それに、白いスラックス。

赤髪の人と金髪碧眼の人は、くすんだ感じの赤いジャケットに白いスラックスだ。

赤髪に赤いジャケット。

(……目に優しくない色合いだ)

とか若干失礼なことを考えて、目をしぱしぱさせる。

ベッドのそばにそれなりに大きな男の子が5人。

さすがに5人もいたら、ちょっと怖い。

内心、寄るな寄るなと念じていたら、反射的にか枕の方へと後ずさっていた。

胸にはさっきの本を抱え込んで。

「聖女はお前か」

「聖女ちゃん」

「お前か、召喚されたのは」

「初めてお目にかかる。聖女さま」

「あなたが聖女でよろしかったでしょうか」

せーの! と誰かが言ったかのようなタイミングで、一気に言わないでほしい。

まあ、ほぼ聖女とか言っていたから、多分確認でしょ。

一人チャラいのがいた気がしたけどね。

「すいませんが、一人ずつお願いしたいんですけど?」

と、首をかしげつつ頼んでみる。

あたしがそう言えば、5人がまたわちゃわちゃしながら「お前が」「俺が」と騒ぐだけ。

なかなかまとまらない5人の姿を視界から外すかのように、ベッドの端に腰かけて水を飲む。

そして、喧騒から離れて本棚へと。

もうちょっと薄めのわかりやすそうな本がいいんだけどなとか思いつつ、指先で背表紙をなぞった。

「この国の歴史の本をお探しですか」

背後からかかった声。

振り返ると、騒ぐかたまりから外れて一人がそこに立っていた。

ズウン……と音がしそうな威圧感。

お近づきになりたくないって思った人だ。

一番の高身長なので、その高さにあたしは顔を思いきり上げなきゃいけなくなった。

(ってか、イケボ。少し高めのアルトっぽい声の高さで、語尾がかすれて聞こえた。ちょっと意外な声かも)

はじめての人相手にちょっと失礼なことを考えつつ、こくんとうなずく。

「ここがどこかわからないので、知りたくて。さっき読んだ本は分厚いし重いし、読んでて疲れそうで」

上手く笑えているだろうか、あたし。

コミュ障気味ゆえ、笑って会話することに不慣れなんだもん。

しかも相手が異性だし。

笑顔のまま固まったあたしをジーッと見ていたかと思ったら、不意に大きな手が頭を2回ポンポンとしたかと思いきや。

「だったら、こっちの方がわかりやすい。子供向けにもなっている。……文字は、読めるのか?」

親切にも、手助けをしようとしてくれているみたいだ。

差し出された緑色の表紙の本を受け取って、ページをめくっていく。

時々挿絵もあって、確かに子供向けだなと思った。

「……っと、ここは……エメラ王国。歴史は古く……て、魔法があって。……んっと、今の王様? が15代目で。…………意外と長生きしてるのね、今までの王様。へえ……」

「本当に読めるんだな、文字が」

俯きながら読んでいるので、頭頂部あたりから声がする。

「なんでだかはわからないけど、読めてるみたい。……あ、聖女! 聖女について書かれて」

聖女の欄を見つけたと喜んだあたしは、その後の文章を読んで黙ってしまった。

(聖女を元の世界に戻すことは試みたことがない。聖女は、国の宝で、保護されるべきもので、国を護る者で、そのために召喚されてこの国で最期を迎えるものである。……って、え、ちょっと待って)

試みたことがないって、帰す気がさらっさらなかったってこと?

喚ぶだけ喚んで、用事がすんだらそれで完結にはならないの?

(なんて自分勝手な拉致だ、この召喚システム)

読んでいけば、100年周期で瘴気がこの世界に満ちてしまい、この世が朽ちてしまう。

ある日、王の元へ謎の本が空から落ちてきて、その本に召喚システムについて書かれていたのが始まり。

藁にもすがる思いっていうんだろうか、そういうの。

王城の魔法使いを集めて、召喚のための魔方陣を描き、贄を捧げて召喚をする。

対価を払わずして、国を護れないということか。

贄については、代々王家に連なる女の赤ちゃんを捧げよと書いてあったという。

「……わけわかんない」

想像しただけで気持ち悪くなる。

まだ産まれたばかりで、世の中のいろんなことに触れてもいない間に生け贄にするだなんて。

そんなことのために、命を授かったんじゃないはずなのに。

「ひどい……」

立ち読みしている間に、うるさいのがおさまっていた。

「君は」

イイ声が聞こえて、反射的に顔を上げた。

「聖女、なのだろう?」

どこか不安げに揺れる瞳と、目が合った。

聖女、なんだろうか。

聖女として、喚ばれたんだろうな。

でも、それを証明するものはどこにもない。

首をゆるく左右に振って、違うと伝える。

「だって、あたしは」

聖女じゃないとわかったなら、あたしはどうなるんだろう。

そう思うと怖くなるけれど、嘘つくのはもっと怖い。

嘘をつく時には、その嘘を守るために嘘を重ねなきゃならなくなるまでが1セットになるもの。

だから、あたしはすこしうつむいて右目に指先を触れさせて。

「聖女の色じゃないから」

右目から、カラコンを外して苦笑いを浮かべた。


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