強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~

ハル*

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歩き出す、恋心 15

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「先生、帰るんですか?」

玄関へと続くドアの前に立ち尽くす俺のそばに、タタッと駆け寄ってきて固まっている俺を見上げる彼女。

「……かん、だ」

そんな彼女の目を、まっすぐ見ることが出来ない。

「一緒に帰りたいです、先生と」

紙の束というより、レポートだ。

その最初の一文=タイトルが問題だ。

『乙女ゲーム“君と恋する瞬間~あまあまなセリフに溺れさせて~(略)キミコイの二次小説内における進行状態と、作家サマ=神田花音が持つ権限について』

目の前で、俺に甘えた視線をよこす彼女が、作家サマとイコールで結ばれている。

「今日は一緒に帰れないよ? 神田くん。もうすぐ君が着ていた服がクリーニングから届くから、その後にでも送ってあげよう」

明らかに、彼女と俺を一緒に帰さないという意思を感じる。

「あ、あぁ。今日は、無理だな」

「……また今度、送ってくださいね」

「はいっ」

「さぁ、テイクアウトをするケーキは他にないかな? あったら、それも持たせてあげよう」

「あ、じゃあ、さっき食べたもので、ピスタチオの…」

と、二人だけで話し始めた。

二人の姿を見て、どうしていいのか動けずにいると、「どうぞ」と執事が俺を玄関へと誘う。

チラッと二人を流し見れば、藤原が小さくうなずいたのがわかった。

(このまま、帰れってことなんだな)

謎の内容のレポートを胸に抱え、俺は執事に頭を下げエレベーターへと急ぐ。

状況がつかめない。

とにかく少しでも早くこの場を離れなければいけない気がする。

嫌な予感、だ。

じわり、こめかみから汗が流れた。

冷や汗みたいな気持ち悪さ。

「急げ…!」

そうして急いだはずなんだ、俺は。

この場所にいることが得策じゃない、そう感じられたから。

藤原から手渡されたものから、感じた危機感と焦燥感。

(なのに…!)

あれに書かれていることがタイトルまんまだとするならば、このままでいていいはずがない。

俺が立っているべき場所が、彼女のそばなのかがわからない。

(――――なのに、どうして)

この状況下はこわいだけのはずなのに、胸の奥の彼女への気持ちが完全になくならない。

「これも作者サマ=あいつが書いているストーリーの一部なのか? 俺のこの感情おもいの最初から最後までも、あいつが描いている流れだっていうのかよ」

久しぶりに感じたあの感覚は、決して嫌なものじゃなかった。

むしろ、幸せだと思ったことすらあったんだ。

たとえそれが、彼女との時間のすべての記憶がなかったとしても。

「……くそっ」

歯がゆくて、思わずそう吐き捨てた刹那。

目の前が、ジジッという今までにない音とともに歪んだ。

「ま、待てっ」

誰かへの懇願。

今、俺が知りたいことを知らせてくれ…と。

なのに、なのに…。

「…えいっ」

戻されていた、多分。

あの日、あの時、コンビニにいた俺の目の前が歪んで、第二体育館で彼女が一人でシュートを打っていた瞬間に。

あいつのことを可愛いとか愛しいとか、どうしても思ってしまう自分を確かめてしまったあの時に。

さっきまでの記憶を残したまま、戻された。


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